上 下
6 / 74

6.行方不明の妹

しおりを挟む
 アドラス様のことを調べたい所だが、侯爵夫人である私まで屋敷を離れるのは、あまり良いことであるとは言い難い。
 という訳で私は、どうしようかと手をこまねいていた。やはりここは、実家であるフォルファン伯爵家を頼るのが、一番だろうか。
 そんな風に考えていた私は、ヴェレスタ侯爵家を訪ねて来た人物に驚くことになった。私の目の前には、今お兄様がいるのだ。

「え? ヘレーナが行方不明、ですか?」
「ああ、数日前に家を出てから、帰って来ない。お前が何か知っていないか、こうして訪ねて来た訳だが、徒労であったな」
「……ヘレーナが私の元を訪ねて来る訳がないでしょう? お兄様だって、それはわかっているはずです」
「もちろんだ。しかし父上や母上はそうでもないらしい」

 私とヘレーナの仲――というか私達とヘレーナの仲が良くないという話を、お父様やお母様はあまり把握していない。
 普段はいがみ合っているが、根底では分かり合っている。二人はそのように考えているようなのだ。
 実際はもっと根深い問題ではあるのだが、それはこの際どうでもいいことである。問題はヘレーナの行方不明だ。それについては、考えなければならない。

「困りましたね。実の所、私の方で問題を抱えていて……」
「問題? 何かあったのか?」
「アドラス様が、嘘をついて出て行ったのです。もしかしたら浮気かもしれません」
「浮気……そうか」

 私の言葉に対して、お兄様は特に驚いたりしなかった。
 そういうこともあるくらいに、考えているのかもしれない。それについては、私としても同感だ。

「別に恋愛的な結婚ではないため、浮気自体を重く捉えてはいません。問題は、その相手と本気である場合です。その場合、厄介なことになるかもしれませんからね」
「合理的な考えだな。流石だ。なるほど、そのことについても調査する必要はあるか……そちらの方が、雲を掴むような話であるヘレーナよりも簡単そうだな?」
「あ、いえ、お兄様はそちらを優先してもらっても……」
「いや、ヘレーナのことだ。どうせどこかをほっつき歩いているのだろう。そんなことよりも、今はヴェレスタ侯爵家の問題の方が重要だ」

 お兄様は、ヘレーナの行方不明を重く捉えていなかった。
 それは当然のことだろう。あの子は気まぐれだ。その行動に一々取り合っていたら切りがないのだから。

「そういうことなら、どうかお願いします」
「ああ、任せておけ」

 私もお兄様と同じ考えであったため、遠慮せずにお願いしてみることにした。
 結果的にではあるが、お兄様がここを訪ねて来てくれたことは幸運だったといえるだろう。これで、アドラス様のことがわかりそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

私があなたを虐めた?はぁ?なんで私がそんなことをしないといけないんですか?

水垣するめ
恋愛
「フィオナ・ハワース! お前との婚約を破棄する!」 フィオナの婚約者の王子であるレイ・マルクスはいきなりわたしに婚約破棄を叩きつけた。 「なぜでしょう?」 「お前が妹のフローラ・ハワースに壮絶な虐めを行い、フローラのことを傷つけたからだ!」 「えぇ……」 「今日という今日はもう許さんぞ! フィオナ! お前をハワース家から追放する!」 フィオナの父であるアーノルドもフィオナに向かって怒鳴りつける。 「レイ様! お父様! うっ……! 私なんかのために、ありがとうございます……!」 妹のフローラはわざとらしく目元の涙を拭い、レイと父に感謝している。 そしてちらりとフィオナを見ると、いつも私にする意地悪な笑顔を浮かべた。 全ては妹のフローラが仕組んだことだった。 いつもフィオナのものを奪ったり、私に嫌がらせをしたりしていたが、ついに家から追放するつもりらしい。 フローラは昔から人身掌握に長けていた。 そうしてこんな風に取り巻きや味方を作ってフィオナに嫌がらせばかりしていた。 エスカレートしたフィオナへの虐めはついにここまで来たらしい。 フィオナはため息をついた。 もうフローラの嘘に翻弄されるのはうんざりだった。 だからフィオナは決意する。 今までフローラに虐められていた分、今度はこちらからやり返そうと。 「今まで散々私のことを虐めてきたんですから、今度はこちらからやり返しても問題ないですよね?」

処理中です...