村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
24 / 24

24.手を取り合って

しおりを挟む
 私はアルディス様と一緒に、アルカルド公爵家へと向かっていた。
 当然のことながら、不安はある。しかしそれでも私は、大丈夫だと思っていた。それはきっと、目の前にいるアルディス様がとても頼りなる人だと知っているからだ。

「……お前に一つだけ提案したいことがある」
「提案、ですか?」

 そんな馬車の中で、アルディス様は真剣な顔をしながらそんなことを言ってきた。
 その言葉に、私は息を呑む。彼が何か重要なことを言おうとしていることが、伝わってきたからだ。

「アルカルド公爵家は、実の所厄介なことになっている。父上が亡くなってから、家を継ぐ者がいなくなっているのだ」
「え?」
「前にも言ったと思うが、俺は母上の連れ子だ。故に、アルカルド公爵家の血を引いていない。父上は寛大なお方だった故、俺を受け入れてくれた訳ではあるが、結局の所貴族の家は血が繋がっていなければ継げないのだ」

 アルディス様は、ゆっくりとそんな事実を告げてきた。
 確かに、彼がアルカルド公爵夫人の連れ子であることは聞いている。難しいことではあるが、血が繋がっていないから彼が家を継げないというのもわからない訳ではない。

「でもそれなら、弟さんが継げばいいのではありませんか? 確か、アルカルド公爵家には次男の……イルディス様がいますよね?」
「ああ、だが奴はいなくなったんだ」
「いなくなった?」
「貴族の地位に、奴は興味がなかった。故に、父の葬儀が終わってすぐに家を出たのだ。勝手なことではあるが、奴は家を捨ててしまった。まあ、個人の考えもある故に、それを否定しようとは思わんが……」
「そ、そんなことが……」

 話をしながら、アルディス様は私の目を見ていた。
 その目には、躊躇が伺える。何か、話したくないようなことがあるということだろうか。

「そこで俺が期待していたのは、父上の血を継いでいる隠し子の存在だ」
「隠し子……わ、私のことですか?」
「ああ、俺はお前と婚約することによって、アルカルド公爵家を継ぎたいと思っている。つまり、俺はお前と結婚したいのだ」
「け、結婚……?」

 アルディス様の提案に、私はひどく驚くことになった。結婚なんて、今まで考えたことがなかったからだ。
 しかしながら、提案自体はそこまで悪いものではないようにも思える。アルディス様となら、結婚したい。そう思えたのだ。
 そこで私は、自分が少なからずアルディス様に惹かれていることに気付いた。ただ、それを受け入れるには聞いておかなければならないことがある。

「アルディス様、私はアルディス様となら夫婦になりたいと思っています。でも、いいんですか? 私、子供っぽいですし……」
「……確かに初めは勘違いしたが、もうお前を子供などとは思っていないさ。むしろ、誰よりも立派な貴族の大人であると思っている。今回の熊の事件で、そう思えたのだ。俺はお前のような女性を妻にしたいと心からそう思えた……どうだろうか?」
「……それなら、私はアルディス様の妻になりたいです」

 私は、伸ばされたアルディス様の手をゆっくりと取った。
 これから私は、新しい地で新しい生活を始めることになる。それに対する不安も当然ある。
 だが、きっと大丈夫だ。アルディス様の手の温もりに、私はそんなことを思うのだった。
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

雪那
2023.11.18 雪那

俺を殺そうとしたところで、と釘を差した辺り、村の連中は(今コイツラを殺してしまえば…)なんて浅はかな考えが顔に出ていたのでしょうか

2023.11.19 木山楽斗

感想ありがとうございます。
そうだと思います。

解除
2023.09.01 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2023.09.01 木山楽斗

感想ありがとうございます。
仰る通りだと思います。

解除
ぱら
2023.08.28 ぱら

子供なのに熊倒した凄い!!∑(ºロºlll)

2023.08.28 木山楽斗

感想ありがとうございます。
この作品で楽しんでいただけているなら嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

悪魔の子?いいえ、豊穣の聖女です。婚約破棄されたら幸せがやって来ました。

凛音@りんね
恋愛
公爵令嬢ルビー・アルミリアは、義母ダイアと義妹サンゴから虐げられていた。 サンゴはエルデ王国の“豊穣の聖女”であり、容姿も完璧。 対するルビーは痩せ細り、手に触れた動植物の命を奪ってしまうために“悪魔の子”と蔑まれ、屋敷の外に出ることを禁じられる日々。 そんな中、年に一度の豊穣祭で突然、婚約者で第一王子のジェダイトから婚約破棄されてしまう。新たな婚約相手は義妹サンゴだった。 何もかも嫌になって会場から逃げ出したルビーは川に飛び込むが、二匹の狼スコルとハティに命を救われ、天空の国ヒンメルへと連れて行かれる。 そこで太陽の王ヘリオドールと出会い、ルビーの運命は大きく動き出す。 不幸な境遇から一転、愛されモードに突入してヒロインが幸せになるファンタジックなハピエンストーリーです。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

呪いを受けたせいで婚約破棄された令息が好きな私は、呪いを解いて告白します

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私キャシーは、夜会で友人の侯爵令息サダムが婚約破棄された場面を目撃する。  サダムの元婚約者クノレラは、サダムが何者かの呪いを受けたと説明をしていた。  顔に模様が浮き出たことを醜いと言い、呪いを受けた人とは婚約者でいたくないようだ。  サダムは魔法に秀でていて、同じ実力を持つ私と意気投合していた。  呪いを解けば何も問題はないのに、それだけで婚約破棄したクノレラが理解できない。  私はサダムの呪いを必ず解き、告白しようと決意していた。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。