村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗

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21.陰気な村

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 無事に熊を討伐できたという事実は、瞬く間に村に広がった。
 しかし、それを討伐したのが私であるということは、いつも通りであるならば、伝えられないことであるだろう。ロルガー辺りが仕留めたということになっていたはずだ。
 しかしながら、今回は今までと状況が少し違った。熊の討伐と同時に、ある事実が村の人達に伝わっていったのだ。

「まさか、本当なのかよ? それ……」
「ああ、本当みたいだ。やばいよな……」
「お、俺は別に何もしていないからな?」
「な、お前だって一緒に……ああ、もう」

 村の中をアルディス様と歩いていると、そのような会話が聞こえてきた。
 それを聞いて、私は頭を抱えていた。村の人達の会話は、やはり醜いものだったからだ。
 そんな私の肩に、アルディス様はゆっくりと手を置いてくれた。それは私を、慰めてくれているということだろう。

「……あまり気にするな」
「……わかってはいるんですけど、でもどうしても気になってしまって」
「早くこの村を出るとしよう。ここに残っていると、人間の汚い部分ばかりが目に入ってくる」
「そうですね。そうしたいと思っています……」

 アルディス様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 今のフルトアは、嫌な気配に満ちていた。陰気なその気配は、ずっと感じていると眩暈がしそうになる程のものだ。
 今回の事件のことは気にせず、このまま村か出て保護してもらうのが一番いいだろう。早くこの村のことを忘れてしまいたい。それ今の私の素直な気持ちだった。

「お前の荷物は、公爵家の使用人達が持っていく。それでもいいだろうか?」
「お願いできますか?」
「人に見られたくないものなどはないか? 今の内にそれだけ持って行こう」
「大丈夫です。母の形見は身に着けていますし、本当に大事なものはもうそれ程残っていませんから」
「そうか……」

 熊の討伐に行く時に、母の形見であるペンダントは身に着けていた。
 強大な敵に立ち向かうために、母に力を貸してもらいたかったからだ。
 私の家にある是非持っていきたかったものとは、それである。他にも大切なものはあるが、最悪これだけあれば充分だったのだ。

「アルディス様、手を握ってもいいですか?」
「何?」
「その……父親とかではなくて、なんだか少し安心したくて」
「……ああ、いいだろう。お前も色々と不安なのだな……」
「ありがとうございます」

 そこで私は、アルディス様の手を握った。
 大きなその手から感じられる温もりは、私に安心感を与えてくれた。
 これから、この村を抜け出して私は新しい生活を送っていく。それに対して希望と不安を抱えながら、私は村の中を歩くのだった。
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