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20.誇れるもの
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「グオオオオッ!」
次の瞬間、辺りには赤い血が飛び散った。
それが熊に弾が命中したということは理解できる。ただ、なんとなくではあるが急所に命中していないような気がした。
故に私は、二発三発と痛みに苦しむ熊に銃を撃った。最強ともいえる生物の前ではあるが、私はひどく冷静である。それがなんというか、むしろ不思議であった。
「グルルッ……」
人間の英知の結晶とは、すごいものである。私は手の中にある銃に対して、そんなことを思っていた。
あの強大で恐ろしい熊という生物を、たった数発で地に伏せられるというのは恐るべき事実だ。
「……どうやら死んでいるようだな。息をしていない。死んだふりということはないだろう」
「ええ、そうですね……これだけ血が流れて死んでいないということはないでしょう」
私に遅れて駆けつけてきたアルディス様も、熊に矢を放ってくれた。
それに意味がなかった訳ではないだろうが、やはりこの銃の効果が大きかったといえるだろう。これがなければ、きっとこんな結末にはならなかったはずである。
「それにしても、よく銃を当てられたな。それは中々、扱いが難しいと聞いていたが……」
「え? ああ、それについては自分でも驚いています。まあ、狙いを定めるという意味では弓と変わりませんからね」
「……いやそもそも、弓の精度も驚くべきものだ。お前は大した奴だな」
「あ、ありがとうございます」
アルディス様は、私の銃と弓の腕を称賛してくれた。
今まで母くらいにしか褒められたことがなかったため、なんだかとても嬉しい。やはり狩りの技術は、私にとって誇れるものであるようだ。
「た、助かったのか?」
「あ、そういえば……」
「……結果的には助かったからよかったものの、お前は迂闊すぎたな。わざわざ熊の前に出るとはなんと愚かなことか」
そこで私は、その場にいたロルガーのことを思い出した。
彼は、尻餅をついたまま動かない。恐らく腰を抜かしてしまっているのだろう。
そんなに怖かったのに、どうして熊の前に出たのだろうか。それが私は、不思議で仕方ない。
「……アルディス様はともかく、お前に助けてもらったなんて思わないからな? 僕の銃を勝手に使って、覚えていろよ?」
「……ええ、別に借りにしようなんて思っていませんよ」
ロルガーは、私に対して尚も強硬な態度を続けていた。
こんな状況でそんなことが言えるのは、最早見事である。私に対する迫害意識が、染みついているということだろうか。
「……そんなことを言って、許されると思っているのか?」
「ア、アルディス様……いやしかし、こいつはですね……」
「前にも痛い目を見せてやったが、懲りない奴だ。言っておくが、どのような理由があっても迫害など許されることはない。それに何よりも、俺の妹を傷つける奴を俺は許すつもりはない」
「い、妹?」
アルディス様の言葉に、ロルガーは目を丸めていた。
それは当然のことだろう。私が、公爵家の人間であるということ。それはきっと、彼にとっては最悪の事実であるはずだ。
次の瞬間、辺りには赤い血が飛び散った。
それが熊に弾が命中したということは理解できる。ただ、なんとなくではあるが急所に命中していないような気がした。
故に私は、二発三発と痛みに苦しむ熊に銃を撃った。最強ともいえる生物の前ではあるが、私はひどく冷静である。それがなんというか、むしろ不思議であった。
「グルルッ……」
人間の英知の結晶とは、すごいものである。私は手の中にある銃に対して、そんなことを思っていた。
あの強大で恐ろしい熊という生物を、たった数発で地に伏せられるというのは恐るべき事実だ。
「……どうやら死んでいるようだな。息をしていない。死んだふりということはないだろう」
「ええ、そうですね……これだけ血が流れて死んでいないということはないでしょう」
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それに意味がなかった訳ではないだろうが、やはりこの銃の効果が大きかったといえるだろう。これがなければ、きっとこんな結末にはならなかったはずである。
「それにしても、よく銃を当てられたな。それは中々、扱いが難しいと聞いていたが……」
「え? ああ、それについては自分でも驚いています。まあ、狙いを定めるという意味では弓と変わりませんからね」
「……いやそもそも、弓の精度も驚くべきものだ。お前は大した奴だな」
「あ、ありがとうございます」
アルディス様は、私の銃と弓の腕を称賛してくれた。
今まで母くらいにしか褒められたことがなかったため、なんだかとても嬉しい。やはり狩りの技術は、私にとって誇れるものであるようだ。
「た、助かったのか?」
「あ、そういえば……」
「……結果的には助かったからよかったものの、お前は迂闊すぎたな。わざわざ熊の前に出るとはなんと愚かなことか」
そこで私は、その場にいたロルガーのことを思い出した。
彼は、尻餅をついたまま動かない。恐らく腰を抜かしてしまっているのだろう。
そんなに怖かったのに、どうして熊の前に出たのだろうか。それが私は、不思議で仕方ない。
「……アルディス様はともかく、お前に助けてもらったなんて思わないからな? 僕の銃を勝手に使って、覚えていろよ?」
「……ええ、別に借りにしようなんて思っていませんよ」
ロルガーは、私に対して尚も強硬な態度を続けていた。
こんな状況でそんなことが言えるのは、最早見事である。私に対する迫害意識が、染みついているということだろうか。
「……そんなことを言って、許されると思っているのか?」
「ア、アルディス様……いやしかし、こいつはですね……」
「前にも痛い目を見せてやったが、懲りない奴だ。言っておくが、どのような理由があっても迫害など許されることはない。それに何よりも、俺の妹を傷つける奴を俺は許すつもりはない」
「い、妹?」
アルディス様の言葉に、ロルガーは目を丸めていた。
それは当然のことだろう。私が、公爵家の人間であるということ。それはきっと、彼にとっては最悪の事実であるはずだ。
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