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16.きっと二人も

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「お前の母親にとって予想外だったのは、故郷の村が温かく迎え入れてくれなかったということだろうな……」
「そうですね……それは母も、多分予想していなかったと思います」

 フルトアという村は、母の故郷であるらしい。母は良く語っていた。昔は皆、優しい人達だったと。
 しかし、故郷を出て都会に出た後、誰の子かも明かせない子を宿した母を、村の人達は敵であると認識した。
 それによって、母の計画は崩れてしまったのだろう。あの村では、穏やかに暮らすことなどできなかったのだ。

「あの村から出て行くのにもかなりの金は必要だ。それを工面することもできず、お前の母親は村に留まらざるを得なかったのだろう」
「はい。それはそうだと思います。私がまだ物心つく前から、母も色々とひどい目にあっていたそうですから」
「村で行われていたことは、恐らく一般的には犯罪といえることだ。しかし、あの村は治外法権であるのだろう。隔離された場所では稀にあることだ。忌々しいことではあるがな……」

 アルディス様は、そこで表情を変えた。
 彼から明確な怒りが読み取れて、私は少し怯えてしまう。
 もちろん、それが私に向けられたものではないことはわかっている。しかしそれでも。怖いものは怖いのだ。

「はっきりと言って、あの村は存在するべきではない村だ。許されることなら、この地から消し去ってやりたいと思う」
「そ、それは流石にやり過ぎだと思います……」
「……お前は寛大だな? しかし、確かにその通りだ。いくら領主だからといって、そのような横暴な振る舞いは許されないだろう。俺は然るべき罰を与えるだけだ」

 アルディス様の雰囲気は、とても冷たかった。
 彼は本当に、村の人達の扱いに心から怒っているようだ。

 そんな彼に、衝動のまま村を消し去って欲しいと頼みたいとも思った。だが私は堪える。そんなことを言ったら、あの村の人達と変わらないからだ。
 彼らには、彼らがやったことに対して然るべき罰を受けてもらう。私はそれだけで留めるべきなのだ。あくまでも冷静に、彼らに復讐するべきであるだろう。

「……さて、今日はもう遅い。そろそろ眠るとしようか。明日は色々と忙しくなる」
「そ、そうですね」
「……お前を見つけられて、本当に良かったと思っている。きっと父上も、草葉の陰で喜んでいるだろう」
「……そうだといいですね」

 アルディス様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 正直、まだ自分が公爵家の血を引いているという事実は受け止め切れていない。
 ただ、私の父親が公爵であるならば、彼には安らかに眠って欲しいと思う。
 故に、私は見つけてもらえてよかったと思っている。これで母も父も、きっと安心してくれているだろう。
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