村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗

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10.為政者の使命

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「今日はここに泊まってもらう」
「こ、ここって、宿屋ですか? わあ、都会の宿屋ってやっぱり大きいんですね?」
「都会ではないと言ったはずだが……いや、まあいいか」

 私はアルディス様に、宿屋の前まで連れて来られていた。
 村にも宿屋はあったが、この町の宿屋とは大きさが違う。そういう違いに、私は一々驚いてしまう。

「えっと、それで明日は一度村に帰らせてもらえるんですよね?」
「ああ、お前がそう望むのならばそうしよう。本来であれば、あの村に帰らせたくはないが……」
「すみません。でも、どうしても持っていきたいものがあって……」

 私は、アルディス様に保護してもらうつもりだ。あの村でこれからも暮らしたいとは、私も思っていない。故に彼の提案を受け入れたのだ。
 母のお墓など、村を離れたくない理由がない訳ではない。しかし、それを差し引いたとしても、保護を受け入れた方がいいという気持ちが勝つのだ。

「母を連れて行くことはできませんが、それでも母との思い出の品は持って行きたいんです」
「母親を連れて行きたいか?」
「ええ、それはもちろん。でも、死ぬ前に母が言っていたんです。もしもこの村から出て行くチャンスがあったら、自分のことを放っておいてもいいって」
「そうか……」

 母は死ぬ前まで、私のことを心配してくれていた。
 村に残るという選択肢は、そんな母を悲しませる選択だと思う。
 だから私は、母を置いて行く。私が幸せに暮らすことが母の安寧に繋がると信じて、母を村に残すのだ。

「……お前の母親についても、何れは連れて行こう。墓を掘り起こすことになるが、それでもあの村にいるよりはいいはずだ」
「え? い、いいんですか? そんなことをしてもらって……」
「構わんさ。死者の安寧というものは、守られるべきものだ。あの村の者達のことだ。お前の母親を冒涜しかねん。なるべく早く手配してやる」
「あ、ありがとうございます」

 アルディス様の言葉は、私にとってとてもありがたいものだった。
 彼の言う通り、あの村の人達は母の眠りを妨げる可能性がある。それを私も危惧していたので、アルディス様の提案はとても嬉しい。

「本当に、何から何まですみません……」
「構わんさ。お前のような人間を救うことは、この地を治める者としての使命だ。むしろ、お前のことを今まで気付かなった自分を恥じているくらいだ」
「そ、そんな。仕方ないことですよ。広い大地の一つの村のことなんて、わかるはずがありませんから……」

 アルディス様は、私に対して申し訳なさそうにしていた。
 しかし、彼を責めようなんて思わない。悪いのはあの村の人達で、私が恨むべきは彼らだけであるからだ。
 こうして見つけて手を差し伸べてもらえるだけで、私にとっては充分幸福なことである。というかむしろ、公爵家の領地の広さを考えたら、早く見つけてもらえた方なのではないだろうか。
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