上 下
7 / 24

7.頼りになる男の人

しおりを挟む
 隣の町カルテロに来るのは、初めてのことだ。
 村から町までは歩いてかなりかかるので、中々行く機会がなかったのである。
 そのため、町に着いた私は興奮していた。村とはまったく違う景色が広がっていたからだ。

「す、すごいですね。この町は……都会ってこういう所のことを言うんですよね?」
「……いや、一般的にここは都会とは言わんだろうな。まだ田舎の町だ」
「え? ここよりももっとすごい所があるんですか?」
「ああ」

 アルディス様の言葉に、私はとても驚いていた。
 この町でも村とは違うのに、これでもまだ都会と呼ばないなんて信じられない。

「お前は、あの村から出たことがなかったのか?」
「あ、はい。生まれてからずっと、あの村で暮らしています」
「そうか……」
「あ、そういえば、馬車に乗ったのも初めてです。行商人さん達が乗っているのは見たことがありましたが……」
「なるほど、お前はかなり過酷な環境にいたのだな……」

 私の言葉に、アルディス様は目を瞑った。
 当然のことながら、眠っている訳ではなさそうだ。何かを考えているということだろうか。

「……さて、定食屋に着いたようだな?」
「あ、そうなんですか?」
「ああ、手を貸せ」
「し、失礼します……」

 馬車が止まった後、アルディス様はその戸を開いて下りて手を伸ばしてきた。
 私は、その手をゆっくりと取る。その大きな手は、なんだかとても頼もしい。

「あっ……」
「む……大丈夫か?」
「す、すみません……」

 馬車から下りた私は、少しふらついてしまった。
 やはり、ほとんど食べていないのが響いているらしい。なんだか足元がおぼつかない。

「……このまま行くとするか」
「え、えっと、いいんですか?」
「構わんさ」

 アルディス様は、私の手をしっかりと握りしめた。このままお店の中に入るつもりであるらしい。
 それは少しだけ、恥ずかしいような気もする。ただ、やはり頼もしかった。何故だかとても安心することができる。
 よく考えてみれば、私は今まで頼ることができる男の人がいなかった。アルディス様に対してこのように思うのは、もしかしてそういうことなのだろうか。

「ありがとうございます。嬉しいです。あの、これは失礼かもしれませんが……」
「何だ?」
「お父さんって、こんな感じなのでしょうか?」
「……………………何?」

 私の質問に、アルディス様は固まってしまった。
 私は、そんなにまずいことを言ってしまっただろうか。純粋な疑問を口にしただけなのだが。

「俺はそんなに年を取っているように見えるか?」
「え? あ、す、すみません。私、お母さんしか知らなくて……だから、お父さんって、もしかしてこういう感じなのかなって思って……」
「……いや、問題ない。単純に俺が、気にし過ぎているというだけだ」

 私が慌てている内に、アルディス様は冷静さを取り戻していた。
 しかし、私としてはかなり心配である。やっぱりお父さん扱いは、馴れ馴れし過ぎて駄目だっただろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

四季
恋愛
前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

無実の罪で投獄されました。が、そこで王子に見初められました。

百谷シカ
恋愛
伯爵令嬢シエラだったのは今朝までの話。 継母アレハンドリナに無実の罪を着せられて、今は無力な囚人となった。 婚約関係にあるベナビデス伯爵家から、宝石を盗んだんですって。私。 そんなわけないのに、問答無用で婚約破棄されてしまうし。 「お父様、早く帰ってきて……」 母の死後、すっかり旅行という名の現実逃避に嵌って留守がちな父。 年頃の私には女親が必要だって言って再婚して、その結果がこれ。 「ん? ちょっとそこのお嬢さん、顔を見せなさい」 牢獄で檻の向こうから話しかけてきた相手。 それは王位継承者である第一王子エミリオ殿下だった。 「君が盗みを? そんなはずない。出て来なさい」 少し高圧的な、強面のエミリオ殿下。 だけど、そこから私への溺愛ライフが始まった……

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。

百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」 私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。 この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。 でも、決して私はふしだらなんかじゃない。 濡れ衣だ。 私はある人物につきまとわれている。 イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。 彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。 「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」 「おやめください。私には婚約者がいます……!」 「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」 愛していると、彼は言う。 これは運命なんだと、彼は言う。 そして運命は、私の未来を破壊した。 「さあ! 今こそ結婚しよう!!」 「いや……っ!!」 誰も助けてくれない。 父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。 そんなある日。 思いがけない求婚が舞い込んでくる。 「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」 ランデル公爵ゴトフリート閣下。 彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。 これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。

処理中です...