村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗

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7.頼りになる男の人

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 隣の町カルテロに来るのは、初めてのことだ。
 村から町までは歩いてかなりかかるので、中々行く機会がなかったのである。
 そのため、町に着いた私は興奮していた。村とはまったく違う景色が広がっていたからだ。

「す、すごいですね。この町は……都会ってこういう所のことを言うんですよね?」
「……いや、一般的にここは都会とは言わんだろうな。まだ田舎の町だ」
「え? ここよりももっとすごい所があるんですか?」
「ああ」

 アルディス様の言葉に、私はとても驚いていた。
 この町でも村とは違うのに、これでもまだ都会と呼ばないなんて信じられない。

「お前は、あの村から出たことがなかったのか?」
「あ、はい。生まれてからずっと、あの村で暮らしています」
「そうか……」
「あ、そういえば、馬車に乗ったのも初めてです。行商人さん達が乗っているのは見たことがありましたが……」
「なるほど、お前はかなり過酷な環境にいたのだな……」

 私の言葉に、アルディス様は目を瞑った。
 当然のことながら、眠っている訳ではなさそうだ。何かを考えているということだろうか。

「……さて、定食屋に着いたようだな?」
「あ、そうなんですか?」
「ああ、手を貸せ」
「し、失礼します……」

 馬車が止まった後、アルディス様はその戸を開いて下りて手を伸ばしてきた。
 私は、その手をゆっくりと取る。その大きな手は、なんだかとても頼もしい。

「あっ……」
「む……大丈夫か?」
「す、すみません……」

 馬車から下りた私は、少しふらついてしまった。
 やはり、ほとんど食べていないのが響いているらしい。なんだか足元がおぼつかない。

「……このまま行くとするか」
「え、えっと、いいんですか?」
「構わんさ」

 アルディス様は、私の手をしっかりと握りしめた。このままお店の中に入るつもりであるらしい。
 それは少しだけ、恥ずかしいような気もする。ただ、やはり頼もしかった。何故だかとても安心することができる。
 よく考えてみれば、私は今まで頼ることができる男の人がいなかった。アルディス様に対してこのように思うのは、もしかしてそういうことなのだろうか。

「ありがとうございます。嬉しいです。あの、これは失礼かもしれませんが……」
「何だ?」
「お父さんって、こんな感じなのでしょうか?」
「……………………何?」

 私の質問に、アルディス様は固まってしまった。
 私は、そんなにまずいことを言ってしまっただろうか。純粋な疑問を口にしただけなのだが。

「俺はそんなに年を取っているように見えるか?」
「え? あ、す、すみません。私、お母さんしか知らなくて……だから、お父さんって、もしかしてこういう感じなのかなって思って……」
「……いや、問題ない。単純に俺が、気にし過ぎているというだけだ」

 私が慌てている内に、アルディス様は冷静さを取り戻していた。
 しかし、私としてはかなり心配である。やっぱりお父さん扱いは、馴れ馴れし過ぎて駄目だっただろうか。
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