25 / 50
25.同じ境遇だからこそ
しおりを挟む
「……事情はよくわかりました。しかしエルヴァイン公爵、少しよろしいでしょうか?」
「む?」
話が一区切りついた時、今まであまり言葉を発していなかったバルハルド様がゆっくりと口を開いた。
彼の表情は平坦である。今回の件にはほぼ確実に思う所があるはずなのに、彼は冷静を保っているようだ。
「その件を公表するということは、エルガドを苦しめることになるかもしれません。私自身、己が出自によって苦労した故に、少々心配です」
「ふむ、もちろんそれはわかっている。しかし、このままヴォンドラ伯爵家を野放しにしている訳にもいかない。彼らの凶刃が、いつ他者に向けられるかわからない以上、黙っておくことなどはできないのだよ」
バルハルド様の言葉に、エルヴァイン公爵は淡々と言葉を返していた。
エルヴァイン公爵は、お優しい方だ。当然、バルハルド様が懸念していることも、考えてはいるのだろう。
しかし公爵は、同時に血気盛んな所がある。非道には制裁を、そういう人だ。ヴォンドラ伯爵家を逃がすつもりはないだろう。
「ならばせめて、エルガドのことは私に任せていただけないでしょうか」
「ほう?」
「彼と俺の身の上には通じる所があります。無論、俺は彼に比べて恵まれた環境にいた訳ではありますが、それでも多少は理解できるつもりです」
「ふむ、それはもちろんそうだろう。君に預けることに、特に異論はないよ」
バルハルド様の提案に、エルヴァイン公爵はゆっくりと頷いた。
彼はそれから、エルガドの様子を伺う。本人の意思を確かめようとしているのだろう。
「……バルハルド様、あなたの提案はありがたい限りです。しかし、本当に良いのでしょうか? 僕はバルハルド様の役に立てる人間という訳ではないと思いますが」
「役に立つ立たないなどは、今決まることではない。お前が努力し、力をつける意思があるのなら、それはいくらでも覆せることだ」
「……わかりました。それなら、お言葉に甘えさせていただきます。僕自身も、これからどうして行くべきなのかは、決めかねていましたから」
エルガドは、バルハルド様に対してゆっくりと跪いた。
彼の意思も、固まったようだ。それにエルヴァイン公爵は、嬉しそうに頷く。
バルハルド様なら絶対に悪いようにしない。それを理解しているのだろう。
「ふむ、それならエルガドのことは君に任せよう、バルハルド。そうしてくれるなら、私としても安心だ」
「お任せください、エルヴァイン公爵。このエルガドは、私が責任を持って導きます」
エルヴァイン公爵の言葉に、バルハルド様は力強く頷いた。
彼が何を考えているのか、それはわからない。ただ私は、何をするにせよバルハルド様を支えていくつもりだ。それが妻となる私の役目なのだから。
「む?」
話が一区切りついた時、今まであまり言葉を発していなかったバルハルド様がゆっくりと口を開いた。
彼の表情は平坦である。今回の件にはほぼ確実に思う所があるはずなのに、彼は冷静を保っているようだ。
「その件を公表するということは、エルガドを苦しめることになるかもしれません。私自身、己が出自によって苦労した故に、少々心配です」
「ふむ、もちろんそれはわかっている。しかし、このままヴォンドラ伯爵家を野放しにしている訳にもいかない。彼らの凶刃が、いつ他者に向けられるかわからない以上、黙っておくことなどはできないのだよ」
バルハルド様の言葉に、エルヴァイン公爵は淡々と言葉を返していた。
エルヴァイン公爵は、お優しい方だ。当然、バルハルド様が懸念していることも、考えてはいるのだろう。
しかし公爵は、同時に血気盛んな所がある。非道には制裁を、そういう人だ。ヴォンドラ伯爵家を逃がすつもりはないだろう。
「ならばせめて、エルガドのことは私に任せていただけないでしょうか」
「ほう?」
「彼と俺の身の上には通じる所があります。無論、俺は彼に比べて恵まれた環境にいた訳ではありますが、それでも多少は理解できるつもりです」
「ふむ、それはもちろんそうだろう。君に預けることに、特に異論はないよ」
バルハルド様の提案に、エルヴァイン公爵はゆっくりと頷いた。
彼はそれから、エルガドの様子を伺う。本人の意思を確かめようとしているのだろう。
「……バルハルド様、あなたの提案はありがたい限りです。しかし、本当に良いのでしょうか? 僕はバルハルド様の役に立てる人間という訳ではないと思いますが」
「役に立つ立たないなどは、今決まることではない。お前が努力し、力をつける意思があるのなら、それはいくらでも覆せることだ」
「……わかりました。それなら、お言葉に甘えさせていただきます。僕自身も、これからどうして行くべきなのかは、決めかねていましたから」
エルガドは、バルハルド様に対してゆっくりと跪いた。
彼の意思も、固まったようだ。それにエルヴァイン公爵は、嬉しそうに頷く。
バルハルド様なら絶対に悪いようにしない。それを理解しているのだろう。
「ふむ、それならエルガドのことは君に任せよう、バルハルド。そうしてくれるなら、私としても安心だ」
「お任せください、エルヴァイン公爵。このエルガドは、私が責任を持って導きます」
エルヴァイン公爵の言葉に、バルハルド様は力強く頷いた。
彼が何を考えているのか、それはわからない。ただ私は、何をするにせよバルハルド様を支えていくつもりだ。それが妻となる私の役目なのだから。
540
お気に入りに追加
1,171
あなたにおすすめの小説
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
(完)大好きなお姉様、なぜ?ー夫も子供も奪われた私
青空一夏
恋愛
妹が大嫌いな姉が仕組んだ身勝手な計画にまんまと引っかかった妹の不幸な結婚生活からの恋物語。ハッピーエンド保証。
中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。魔法のある世界。
幼馴染が好きなら幼馴染だけ愛せば?
新野乃花(大舟)
恋愛
フーレン伯爵はエレナとの婚約関係を結んでいながら、仕事だと言って屋敷をあけ、その度に自身の幼馴染であるレベッカとの関係を深めていた。その関係は次第に熱いものとなっていき、ついにフーレン伯爵はエレナに婚約破棄を告げてしまう。しかしその言葉こそ、伯爵が奈落の底に転落していく最初の第一歩となるのであった。
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる