上 下
10 / 50

10.始まりは何であれ

しおりを挟む
「驚きました。まさかバルハルド様が、商会の長だったなんて……」
「驚くのも無理はないことだろうな。我ながら中途半端な限りではあるがな」
「中途半端なんて、そんなことはありません。これ程の商会の長になるなんて、そう簡単にできることではないでしょう。バルハルド様の立派さが伝わってきます」

 バルハルド様は、相も変わらず自嘲気味に笑みを浮かべていた。
 彼の根底には、恐らく妾の子としての負い目のようなものがあるのだろう。だから、自分の努力などを素直に認められないのだ。

 私からしてみれば、そんな風に考える必要などはないと思ってしまう。だが、彼からしてみればそうではないのだろう。
 その辺りは、私にはわからないことだ。正当なる血族である私には、きっと一生理解することはできないことなのだろう。

「もちろん、俺も自分の成果は誇れるものだとは思っている。だが、これはそもそも、ベルージュ侯爵家への当てつけで始めたことだ。復讐と言い換えてもいいか。俺は自らの力で成り上り、母を弄んだ父の所業を世に知らしめようとしていた」
「……権力得て、潰されないようにした、ということですか?」
「ああ、だが、そのようなことをする必要はなかった。父が自ら俺の存在を認知したからな。結局俺は、ベルージュ侯爵家の一員となった……」

 バルハルド様の言葉に、私は彼の言動にある程度納得した。
 不純な動機で始めたことを素直に誇ることができないのは、当然といえば当然だ。
 彼がここまで成り上がれたのは、憎しみが原動力だったのだろう。その根底が否定された今、どうしていいのかわからなくなっているのだろう。

「……それでもすごいことだと私は思います。バルハルド様は、こうして未だに商会を支えているのですから」
「む……」
「投げ出すことだって、できない訳ではなかったはずです。でも、バルハルド様は続けている。そこには誇りがあるからでしょう。今までの短い間でも、私にはそれがわかりました」

 今日見たバルハルド様の商人としての一面は、ほんの一欠けらでしかないはずだ。
 しかしそれでも、私はそこに彼の矜持を見た。それが伝わってくる程に、彼は真摯に向き合っているということだろう。
 動機は不純なものが含まれていたのかもしれないが、今はそれだけではない。それだけは確かなことだ。

「ふっ……リメリア嬢、あなたを妻に迎え入れられることを改めて嬉しく思う」
「そうですか?」
「あなたには、俺以上に誇りや矜持といったものがある。英雄の血筋は伊達ではないということだろう」
「ええ、もちろんですとも」

 私はバルハルド様の言葉に、笑顔で答えた。
 彼に改めて認められたという事実は、嬉しく思う。なんというか、これからもバルハルド様とは上手くやっていけそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

処理中です...