上 下
23 / 26

23.塔の上へと

しおりを挟む
 私はレムバル様と三人の兵士と一緒に、時計塔の入り口の近くまで来ていた。
 この距離なら、恐らく悪魔に気付かれることもないだろう。だが、逆に言えばこれ以上近づくと気付かれる可能性が高い。
 そのため、サリーム様の陽動を待つしかない。彼女が悪魔の気を引き付けてくれるまで、私達はここで待機する必要がある。

「サリームは、上手くやってくれるでしょうか?」
「大丈夫だと思います。彼女程の力があれば、陽動は問題なくこなせるはずです」
「そうですか。それなら安心ですね……」
「……始まったようですね」
「あれは……」

 私は、ゆっくりと空へと浮き上がっていくサリーム様の姿を見た。
 恐らく、陽動が始まったのだろう。そう判断して私はレムバル様と顔を見合わせて頷く。時計塔内に突入することを決めたのだ。

「これは……」
「やはり、悪魔も突入された時のことを考えていたようですね」
「何が起こっているのですか?」
「恐らく、魔法で内部を作り替えたんです。幻惑の類かもしれません」

 時計塔の中は、訳がわからない構造をしていた。
 そこら中に階段やはしごがある。ただ、それらは上っても先がない。
 その明らかに普通ではない構造は、悪魔が何かをしたと考えるべきだろう。
 だが、これくらいなら特に問題はない。私なら簡単に潜り抜けられる。

「レムバル様、今から足場を作ります」
「足場?」
「ええ、少々お待ちください」
「これは……」

 私は、魔力によって途切れている階段の先に足場を作り出した。
 そのくらいは私にとっては容易いことだ。これで上に行くことはできる。
 ただ、悪魔の仕掛けがこれだけとは限らない。まだ慎重に進んでいく必要があるだろう。

「……ラムーナさん、上から何かが近づいてきています!」
「え?」

 そこで私は、レムバル様の言葉で頭上を見上げた。するとそこから、黒い鳥達が下りてきているのが見えてくる。
 どうやら、それも悪魔の仕掛けであるようだ。
 ただ、これに関しては私が相手する必要はないだろう。レムバル様や兵士達に任せるべき相手だ。

「ラムーナ様、レムバル様、あの敵は我々が引き受けます。先にお進みください」
「ええ、お任せします」

 兵士の言葉に応えながら、私とレムバル様は先に進んでいく。
 こういう仕掛けのために連れてきた兵士達だ。遠慮なく任させてもらう。

「悪魔に僕達の来訪は悟られていないでしょうか?」
「恐らく問題はないと思います。この仕掛けは、入って来た者に反応するようになっていただけだと思いますから」
「そうですか。それなら安心です……」

 こうして私達は、時計塔を上っていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子から愛することはないと言われた侯爵令嬢は、そんなことないわと強気で答える

綾森れん
恋愛
「オリヴィア、君を愛することはない」 結婚初夜、聖女の力を持つオリヴィア・デュレー侯爵令嬢は、カミーユ王太子からそう告げられた。 だがオリヴィアは、 「そんなことないわ」 と強気で答え、カミーユが愛さないと言った原因を調べることにした。 その結果、オリヴィアは思いもかけない事実と、カミーユの深い愛を知るのだった。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います

黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。 レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。 邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。 しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。 章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。 どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。 表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?

青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。 二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。 三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。 四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

処理中です...