七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗

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17.兄としての情

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「……ラムーナさん、結界は張り終わったんですか?」
「ええ、なんとか完全なものにすることができました」

 結界を無事に張り直してから、私はレムバル様とそんな会話を交わした。
 彼は、結界を張るための部屋から出ていない。彼は決して、その場を動こうとしなかったのである。
 それは私にとって、少し驚くべきことではあった。直前までの様子的に、ロメリア様を追いかけようとする可能性が高いと思ったからだ。

「これで、先程の悪魔のような存在は王都に入って来られなくなるということですね?」
「そういうことです。ただこの結界は、既に中に入った者には効果がありません」
「つまり、先程の悪魔はまだロメリアの中にいるということですか?」
「恐らくはそうだと思います。私は今から彼女を追いかけますが、レムバル様はどうされますか?」
「もちろん、僕も行きます」

 私の質問に対して、レムバル様は即答してきた。
 恐らく、どれだけ落ちぶれていても彼にとってロメリア様は妹であるのだろう。
 兄として見捨てることができない。そんな感情が彼からは読み取れる。

「兵士達に指示をしているので、あの悪魔の同行は大体わかると思います」
「そうですか。それはありがたいです。探す手間が省けます」
「しかしラムーナさん、あの悪魔を倒す算段はついているのですか?」
「あの悪魔自体は、それ程強力な存在ではありません。ですから、私の魔法で問題なく倒せると思います。ただ……」
「ロメリアのことですか……」

 レムバル様は、私の言葉を先回りして苦い顔をしていた。
 悪魔は、ロメリア様を人質に取っている。それは私達にとって、由々しき問題だ。

「人質を取られている以上、正面から行っても先程と同じようになるだけだと思います」
「……ラムーナさんは、ロメリアのことを助けたいと思ってくださっているのですか?」
「……ええ、それはもちろんです」

 レムバル様の質問に対して、私は少しぎこちなく頷いた。
 正直、彼女に対しては色々と思う所がある。今回の件だって言ってしまえば自業自得であるし、聖女補佐としての恨みは積もっている。
 しかしだからといって、ロメリア様を見捨てようとは思わなかった。あの悪魔によって彼女が苦しむ姿を見てもまるですっきりしなかったし、多分私がロメリア様に求めている罰というのは、少なくともそういうものではないのだろう。

「彼女には自らのしてきた行為に対する罰を受けてもらいたいとは思っています。しかしそれは悪魔の手によってなされていいものではありません」
「……ラムーナさんは、公平ですね」
「そうなのでしょうか?」
「ええ、そう思います」

 私の言葉に、レムバル様は笑みを浮かべていた。
 その少し悲しそうな笑みは、やはりロメリアに対する情が捨てられていないということなのだろう。
 だがそれでも、彼は決断してくれるはずだ。彼女に然るべき罰を与える決断を。

「……レムバル様、大変です!」
「……どうした?」

 そこで突然、一人の兵士が慌てた様子で部屋の中に駆け込んできた。
 何が起こったかは、大体わかった。恐らく、悪魔関連で何かしらの動きがあったのだ。

「ロメリア様に取りついた悪魔が国王様を襲っています」
「父上を………」

 兵士の言葉に、私とレムバル様は顔を見合わせた。
 そしてお互いに頷いた。すぐに動くべきことは、明白だったからだ。
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