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4.溺愛された末妹
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「なるほど……父上は、それを知った上であのような要求をしたのですか」
国王様との謁見が終わってから、私はレムバル様に事情を話した。
すると彼は、頭を抱えて困ったような表情をする。私の事情も含めて、今回の事態に頭を悩ませているのだろう。
「父上は昔からロメリアのことを溺愛していました。末っ子でしかも初めての女の子だったからでしょうか? 目に入れても痛くないと表していました……そのせいか、ロメリアはわがままな性格になってしまったのです」
「わがままな性格……」
「欲しいものはなんでも手に入れる。気に入らないことがあったら癇癪を起こす。そんな子になってしまったのです」
ロメリア様の性格について、私はよく知らなかった。
しかしレムバル様の口振りからして、ロメリア様は相当難がある性格のようだ。それは彼の忌々しそうな表情からも伝わってくる。
もしかしたらそれは、意図的に世間には隠されていたのかもしれない。第一王女に問題があるなんて、大っぴらにいえることではないだろうし。
「僕や兄上も注意しているのですが……彼女は最終的には父上に甘えればいいと学習しています。だから、僕達が何を言ってもその態度を改めることがないのです」
「それは大変ですね……」
この国で最も力を持っている人物が常に自分の味方をしてくれる。その事実はロメリア様にとっては、非常に心強いものだろう。もしもそれがわかっていたら、確かに他の誰かに注意しても無駄なような気がする。
つまり、彼女はかなり難しい相手であるということだ。そんな人の補佐をしなければならないという事実には、私も頭が痛くなってくる。
「恐らく、彼女は聖女という地位を父上に求めたのでしょう。流石の父上も、何も要求してこなければ、聖女を変えるなどという暴挙は働きませんから」
「……聖女の地位というものに、ロメリア様は何かしらの価値を感じているということでしょうか?」
「それは僕にもよくわかりません……もしかしたら、彼女には地位に対する執着などがあるのかもしれません。権力があれば、人を従えさせられるということはよくわかっていますからね」
ロメリア様が聖女の地位を求める理由、それはレムバル様もよくわかっていないようだ。
もしかして、承認欲求のようなものもあるのだろうか。玉座の間で会った彼女からは、そのような印象が感じられた。もっとも、それは私の気のせいなのかもしれないのだが。
「とにかく、彼女と父上の愚行は止めなければなりません。なんとか交渉してみます。申し訳ありませんが、それでまでは我慢していただくしかないかと……」
「……レルバル様、私のことはあまり気にしないでくださいね」
「ラムーナさん?」
そこで私は、レルバル様に少しだけ言っておくことにした。
彼はもちろん、私のためだけに国王様に抗議する訳ではないだろう。しかしそこには、確実に気遣いが含まれているはずだ。
その気遣いによって彼が大胆なことをしないように、私は釘を刺しておくことにした。私は、別に聖女補佐でも問題はないのだ。
「私は別に聖女補佐でも構いません。こういうことには慣れていますから」
「慣れている?」
「失礼ながら、平民が冷遇されるなんてことはよくあることですよ」
「それは……」
私の言葉に、レムバル様は微妙な顔をしていた。
それはつまり、平民と貴族や王族の差について心を痛めているのだろう。そのため少し心が痛い。
ただ、この国において身分の差による冷遇は必ず発生するものだ。貴族や王族の方が偉いのだから、当然平民は割を食うことが多い。それを私は、幾度となく経験してきた。
元々、聖女にはなれないという予測もしていた訳だし、どうということはない。好待遇は変わらないのだから、私にとって聖女であるかどうかは些細な問題だ。
「もっとも、国王様の横暴を許していいとは思っていません。あの行いは、はっきりと言って横暴です。もしもあれが続くようなら、この国は危機に晒されることになるでしょう」
「……はい。それは重々承知しています」
「そうですよね……レムバル様、どうかよろしくお願いします」
「……わかりました」
私がゆっくりと頭を下げると、レムバル様はとても力強い返事をしてくれた。
正直な所、国王様やロメリア様の考えを変えるのはかなり難しいはずだ。レムバル様には無茶な頼みをしてしまっている。
しかしそれでも、この国の未来のためにはあの二人をなんとかしなければならないだろう。今回の件への反発は確実にある。それらが火種となって、やがて大きな戦いに発展していくかもしれない。
「ラムーナさんも頑張ってください」
「はい……色々とありがとうございました」
レムバル様の激励の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
こうして私は、陰の存在として活動していくことを改めて決意するのだった。
国王様との謁見が終わってから、私はレムバル様に事情を話した。
すると彼は、頭を抱えて困ったような表情をする。私の事情も含めて、今回の事態に頭を悩ませているのだろう。
「父上は昔からロメリアのことを溺愛していました。末っ子でしかも初めての女の子だったからでしょうか? 目に入れても痛くないと表していました……そのせいか、ロメリアはわがままな性格になってしまったのです」
「わがままな性格……」
「欲しいものはなんでも手に入れる。気に入らないことがあったら癇癪を起こす。そんな子になってしまったのです」
ロメリア様の性格について、私はよく知らなかった。
しかしレムバル様の口振りからして、ロメリア様は相当難がある性格のようだ。それは彼の忌々しそうな表情からも伝わってくる。
もしかしたらそれは、意図的に世間には隠されていたのかもしれない。第一王女に問題があるなんて、大っぴらにいえることではないだろうし。
「僕や兄上も注意しているのですが……彼女は最終的には父上に甘えればいいと学習しています。だから、僕達が何を言ってもその態度を改めることがないのです」
「それは大変ですね……」
この国で最も力を持っている人物が常に自分の味方をしてくれる。その事実はロメリア様にとっては、非常に心強いものだろう。もしもそれがわかっていたら、確かに他の誰かに注意しても無駄なような気がする。
つまり、彼女はかなり難しい相手であるということだ。そんな人の補佐をしなければならないという事実には、私も頭が痛くなってくる。
「恐らく、彼女は聖女という地位を父上に求めたのでしょう。流石の父上も、何も要求してこなければ、聖女を変えるなどという暴挙は働きませんから」
「……聖女の地位というものに、ロメリア様は何かしらの価値を感じているということでしょうか?」
「それは僕にもよくわかりません……もしかしたら、彼女には地位に対する執着などがあるのかもしれません。権力があれば、人を従えさせられるということはよくわかっていますからね」
ロメリア様が聖女の地位を求める理由、それはレムバル様もよくわかっていないようだ。
もしかして、承認欲求のようなものもあるのだろうか。玉座の間で会った彼女からは、そのような印象が感じられた。もっとも、それは私の気のせいなのかもしれないのだが。
「とにかく、彼女と父上の愚行は止めなければなりません。なんとか交渉してみます。申し訳ありませんが、それでまでは我慢していただくしかないかと……」
「……レルバル様、私のことはあまり気にしないでくださいね」
「ラムーナさん?」
そこで私は、レルバル様に少しだけ言っておくことにした。
彼はもちろん、私のためだけに国王様に抗議する訳ではないだろう。しかしそこには、確実に気遣いが含まれているはずだ。
その気遣いによって彼が大胆なことをしないように、私は釘を刺しておくことにした。私は、別に聖女補佐でも問題はないのだ。
「私は別に聖女補佐でも構いません。こういうことには慣れていますから」
「慣れている?」
「失礼ながら、平民が冷遇されるなんてことはよくあることですよ」
「それは……」
私の言葉に、レムバル様は微妙な顔をしていた。
それはつまり、平民と貴族や王族の差について心を痛めているのだろう。そのため少し心が痛い。
ただ、この国において身分の差による冷遇は必ず発生するものだ。貴族や王族の方が偉いのだから、当然平民は割を食うことが多い。それを私は、幾度となく経験してきた。
元々、聖女にはなれないという予測もしていた訳だし、どうということはない。好待遇は変わらないのだから、私にとって聖女であるかどうかは些細な問題だ。
「もっとも、国王様の横暴を許していいとは思っていません。あの行いは、はっきりと言って横暴です。もしもあれが続くようなら、この国は危機に晒されることになるでしょう」
「……はい。それは重々承知しています」
「そうですよね……レムバル様、どうかよろしくお願いします」
「……わかりました」
私がゆっくりと頭を下げると、レムバル様はとても力強い返事をしてくれた。
正直な所、国王様やロメリア様の考えを変えるのはかなり難しいはずだ。レムバル様には無茶な頼みをしてしまっている。
しかしそれでも、この国の未来のためにはあの二人をなんとかしなければならないだろう。今回の件への反発は確実にある。それらが火種となって、やがて大きな戦いに発展していくかもしれない。
「ラムーナさんも頑張ってください」
「はい……色々とありがとうございました」
レムバル様の激励の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
こうして私は、陰の存在として活動していくことを改めて決意するのだった。
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