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2.環境の差
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結局、次の聖女は私ということになった。
サリーム様以上の実力を持つ私以上に相応しい人間は、他にいなかったのである。
しかしながら、それなりに反発もあったようだ。会場にいた試験官の中に、サリーム様の意図通りになるのが気に入らないと思っている者がいたらしい。
「まあ、それがとんでもない反発であることは言うまでもありませんね……彼女への反発のために、わざわざ実力が劣る聖女を就任させるなんて意味がわかりませんから」
そう言って笑っているのは、エルファンド王国の第二王子であるレムバル様である。
風の噂で聞いたが、今回の私の聖女就任の裏には彼が関わっていたらしい。その鶴の一声によって、私の聖女就任が決まったそうだ。
「もっとも、サリームの行動にも問題があったことは確かではありますね。あの人は昔から破天荒というかなんというか……色々と大胆な人でした」
「確か、サリーム様はレムバル様にとってはいとこにあたるんでしたね?」
「ええ、年も同じですから、彼女とは昔から色々と張り合ってきました。まあ、彼女に振り回されてきたという表現の方が正しいような気はしますが」
レムバル様は、苦笑いを浮かべていた。それ程に、サリーム様に振り回されてきたということなのだろうか。失礼ながら、その光景はなんとなく想像することができる。
「今回の件も、彼女の尻拭いという側面はあります。もっとも、僕自身も彼女と意見は同じなのですが……」
「同じ?」
「あなたのような優れた魔法使いの実力が正当に認められないというのは、由々しき事態です。聖女というのは、特に実力が重要です。この国の安全を守る役職でもありますからね……それが権力によってどうにかなるというのは避けたいものです」
「私とサリーム様の間に、それ程実力差はなかったようには思いますが……」
「そうでしょうか?」
私の言葉に対して、レムバル様は笑みを浮かべていた。
その楽しそうな笑みに、私は疑問を覚える。私とサリーム様の実力が僅差であるということは、間違いないはずなのだが。
「サリームは言っていました。あなたは恐ろしい魔法使いであると……その潜在能力は自分を遥かに凌駕している。そう思っていたようです」
「それはいくらなんでも褒め過ぎだと思います。私とサリーム様の実力は僅差でした。それは試験官の方々も証明してくれるはずです」
「ええ、今の時点ではそうなのでしょう。しかしサリームは恐らく未来を見ている」
「未来?」
レムバル様の言葉に、私は少し考えることになった。
確かに未来に関しては、二人の間に実力差が出る可能性だってあるだろう。しかし未来がどうなるかなんてわからないはずだ。
それなのに、サリーム様はどうしてそこまで言っているのだろうか。それがわからない。私の潜在能力を見抜ける何かがあったのだろうか。
「彼女は言っていました。自分には最高の環境があったと」
「最高の環境……それはまあ、公爵令嬢なのですから当然なのでは?」
「そうですね。彼女は貴族の最大限の支援によって、あれ程の力を得たのです。一方で、あなたはどうでしょうか?」
「それは……」
私は平民である。小さな村で育って、魔法の実力だけでここまでやって来た。
働いてお金を稼ぎながら、色々と学ぶのは大変だった。確かに、私はサリーム様と比べて環境が整っていたとはいえないかもしれない。
「サリームは自分に伸びしろがないと考えているようです。完璧な環境で限界まで技術を磨いた彼女は、それを悟ったようです……あなたはどうですか?」
「……そういったものを特に感じたことはありませんね」
「それならやはりあなたには、彼女を凌ぐ才能があるということでしょう。そもそもの話、今の時点でもあなたの方が実力は上ですからね」
「それは……どうなのでしょうね?」
サリーム様が感じた限界、それを私は確かに感じたことはない。しかし私が気付いていないだけで、これが限界という可能性もあるだろう。
もっと自分に伸びしろがあるなんて、正直わからない。それだけで判断をするなんて、早計なような気もするのだが。
「まあ、どのような事情があったとしても彼女が聖女を下りたのですから、聖女に就任するべきなのはあなたでしかありません。今回の件は忘れて、聖女として励んでもらえればと僕は考えています」
「そうですね……それはそうさせてもらおうと思っています。あまり気にし過ぎても無駄なような気がしますし」
レムバル様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
色々とあったが、それに関しては一度忘れようと思っている。気にし過ぎて失敗したりしたら、元もこうもないからだ。
私は聖女としてしっかりと役目を果たす。それでいいのだ。きっとサリーム様も、それを望んでいるだろうし。
サリーム様以上の実力を持つ私以上に相応しい人間は、他にいなかったのである。
しかしながら、それなりに反発もあったようだ。会場にいた試験官の中に、サリーム様の意図通りになるのが気に入らないと思っている者がいたらしい。
「まあ、それがとんでもない反発であることは言うまでもありませんね……彼女への反発のために、わざわざ実力が劣る聖女を就任させるなんて意味がわかりませんから」
そう言って笑っているのは、エルファンド王国の第二王子であるレムバル様である。
風の噂で聞いたが、今回の私の聖女就任の裏には彼が関わっていたらしい。その鶴の一声によって、私の聖女就任が決まったそうだ。
「もっとも、サリームの行動にも問題があったことは確かではありますね。あの人は昔から破天荒というかなんというか……色々と大胆な人でした」
「確か、サリーム様はレムバル様にとってはいとこにあたるんでしたね?」
「ええ、年も同じですから、彼女とは昔から色々と張り合ってきました。まあ、彼女に振り回されてきたという表現の方が正しいような気はしますが」
レムバル様は、苦笑いを浮かべていた。それ程に、サリーム様に振り回されてきたということなのだろうか。失礼ながら、その光景はなんとなく想像することができる。
「今回の件も、彼女の尻拭いという側面はあります。もっとも、僕自身も彼女と意見は同じなのですが……」
「同じ?」
「あなたのような優れた魔法使いの実力が正当に認められないというのは、由々しき事態です。聖女というのは、特に実力が重要です。この国の安全を守る役職でもありますからね……それが権力によってどうにかなるというのは避けたいものです」
「私とサリーム様の間に、それ程実力差はなかったようには思いますが……」
「そうでしょうか?」
私の言葉に対して、レムバル様は笑みを浮かべていた。
その楽しそうな笑みに、私は疑問を覚える。私とサリーム様の実力が僅差であるということは、間違いないはずなのだが。
「サリームは言っていました。あなたは恐ろしい魔法使いであると……その潜在能力は自分を遥かに凌駕している。そう思っていたようです」
「それはいくらなんでも褒め過ぎだと思います。私とサリーム様の実力は僅差でした。それは試験官の方々も証明してくれるはずです」
「ええ、今の時点ではそうなのでしょう。しかしサリームは恐らく未来を見ている」
「未来?」
レムバル様の言葉に、私は少し考えることになった。
確かに未来に関しては、二人の間に実力差が出る可能性だってあるだろう。しかし未来がどうなるかなんてわからないはずだ。
それなのに、サリーム様はどうしてそこまで言っているのだろうか。それがわからない。私の潜在能力を見抜ける何かがあったのだろうか。
「彼女は言っていました。自分には最高の環境があったと」
「最高の環境……それはまあ、公爵令嬢なのですから当然なのでは?」
「そうですね。彼女は貴族の最大限の支援によって、あれ程の力を得たのです。一方で、あなたはどうでしょうか?」
「それは……」
私は平民である。小さな村で育って、魔法の実力だけでここまでやって来た。
働いてお金を稼ぎながら、色々と学ぶのは大変だった。確かに、私はサリーム様と比べて環境が整っていたとはいえないかもしれない。
「サリームは自分に伸びしろがないと考えているようです。完璧な環境で限界まで技術を磨いた彼女は、それを悟ったようです……あなたはどうですか?」
「……そういったものを特に感じたことはありませんね」
「それならやはりあなたには、彼女を凌ぐ才能があるということでしょう。そもそもの話、今の時点でもあなたの方が実力は上ですからね」
「それは……どうなのでしょうね?」
サリーム様が感じた限界、それを私は確かに感じたことはない。しかし私が気付いていないだけで、これが限界という可能性もあるだろう。
もっと自分に伸びしろがあるなんて、正直わからない。それだけで判断をするなんて、早計なような気もするのだが。
「まあ、どのような事情があったとしても彼女が聖女を下りたのですから、聖女に就任するべきなのはあなたでしかありません。今回の件は忘れて、聖女として励んでもらえればと僕は考えています」
「そうですね……それはそうさせてもらおうと思っています。あまり気にし過ぎても無駄なような気がしますし」
レムバル様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
色々とあったが、それに関しては一度忘れようと思っている。気にし過ぎて失敗したりしたら、元もこうもないからだ。
私は聖女としてしっかりと役目を果たす。それでいいのだ。きっとサリーム様も、それを望んでいるだろうし。
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