上 下
2 / 26

2.環境の差

しおりを挟む
 結局、次の聖女は私ということになった。
 サリーム様以上の実力を持つ私以上に相応しい人間は、他にいなかったのである。
 しかしながら、それなりに反発もあったようだ。会場にいた試験官の中に、サリーム様の意図通りになるのが気に入らないと思っている者がいたらしい。

「まあ、それがとんでもない反発であることは言うまでもありませんね……彼女への反発のために、わざわざ実力が劣る聖女を就任させるなんて意味がわかりませんから」

 そう言って笑っているのは、エルファンド王国の第二王子であるレムバル様である。
 風の噂で聞いたが、今回の私の聖女就任の裏には彼が関わっていたらしい。その鶴の一声によって、私の聖女就任が決まったそうだ。

「もっとも、サリームの行動にも問題があったことは確かではありますね。あの人は昔から破天荒というかなんというか……色々と大胆な人でした」
「確か、サリーム様はレムバル様にとってはいとこにあたるんでしたね?」
「ええ、年も同じですから、彼女とは昔から色々と張り合ってきました。まあ、彼女に振り回されてきたという表現の方が正しいような気はしますが」

 レムバル様は、苦笑いを浮かべていた。それ程に、サリーム様に振り回されてきたということなのだろうか。失礼ながら、その光景はなんとなく想像することができる。

「今回の件も、彼女の尻拭いという側面はあります。もっとも、僕自身も彼女と意見は同じなのですが……」
「同じ?」
「あなたのような優れた魔法使いの実力が正当に認められないというのは、由々しき事態です。聖女というのは、特に実力が重要です。この国の安全を守る役職でもありますからね……それが権力によってどうにかなるというのは避けたいものです」
「私とサリーム様の間に、それ程実力差はなかったようには思いますが……」
「そうでしょうか?」

 私の言葉に対して、レムバル様は笑みを浮かべていた。
 その楽しそうな笑みに、私は疑問を覚える。私とサリーム様の実力が僅差であるということは、間違いないはずなのだが。

「サリームは言っていました。あなたは恐ろしい魔法使いであると……その潜在能力は自分を遥かに凌駕している。そう思っていたようです」
「それはいくらなんでも褒め過ぎだと思います。私とサリーム様の実力は僅差でした。それは試験官の方々も証明してくれるはずです」
「ええ、今の時点ではそうなのでしょう。しかしサリームは恐らく未来を見ている」
「未来?」

 レムバル様の言葉に、私は少し考えることになった。
 確かに未来に関しては、二人の間に実力差が出る可能性だってあるだろう。しかし未来がどうなるかなんてわからないはずだ。
 それなのに、サリーム様はどうしてそこまで言っているのだろうか。それがわからない。私の潜在能力を見抜ける何かがあったのだろうか。

「彼女は言っていました。自分には最高の環境があったと」
「最高の環境……それはまあ、公爵令嬢なのですから当然なのでは?」
「そうですね。彼女は貴族の最大限の支援によって、あれ程の力を得たのです。一方で、あなたはどうでしょうか?」
「それは……」

 私は平民である。小さな村で育って、魔法の実力だけでここまでやって来た。
 働いてお金を稼ぎながら、色々と学ぶのは大変だった。確かに、私はサリーム様と比べて環境が整っていたとはいえないかもしれない。

「サリームは自分に伸びしろがないと考えているようです。完璧な環境で限界まで技術を磨いた彼女は、それを悟ったようです……あなたはどうですか?」
「……そういったものを特に感じたことはありませんね」
「それならやはりあなたには、彼女を凌ぐ才能があるということでしょう。そもそもの話、今の時点でもあなたの方が実力は上ですからね」
「それは……どうなのでしょうね?」

 サリーム様が感じた限界、それを私は確かに感じたことはない。しかし私が気付いていないだけで、これが限界という可能性もあるだろう。
 もっと自分に伸びしろがあるなんて、正直わからない。それだけで判断をするなんて、早計なような気もするのだが。

「まあ、どのような事情があったとしても彼女が聖女を下りたのですから、聖女に就任するべきなのはあなたでしかありません。今回の件は忘れて、聖女として励んでもらえればと僕は考えています」
「そうですね……それはそうさせてもらおうと思っています。あまり気にし過ぎても無駄なような気がしますし」

 レムバル様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 色々とあったが、それに関しては一度忘れようと思っている。気にし過ぎて失敗したりしたら、元もこうもないからだ。
 私は聖女としてしっかりと役目を果たす。それでいいのだ。きっとサリーム様も、それを望んでいるだろうし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子から愛することはないと言われた侯爵令嬢は、そんなことないわと強気で答える

綾森れん
恋愛
「オリヴィア、君を愛することはない」 結婚初夜、聖女の力を持つオリヴィア・デュレー侯爵令嬢は、カミーユ王太子からそう告げられた。 だがオリヴィアは、 「そんなことないわ」 と強気で答え、カミーユが愛さないと言った原因を調べることにした。 その結果、オリヴィアは思いもかけない事実と、カミーユの深い愛を知るのだった。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います

黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。 レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。 邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。 しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。 章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。 どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。 表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?

青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。 二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。 三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。 四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

処理中です...