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3.違和感のある契約書(ディレン視点)
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クラムド男爵家の末弟である僕は、魔法使いという道を選んだ。
生まれつき持っていた多くの魔力を活かしたい。そう思った僕は魔法の分野に打ち込み、ついには王国でも屈指の職場といえる王城で勤務できるようになったのだ。
「ここにいる者達は、選ばれた者達だ。諸君は、この王国が優れた魔法使いであると認めた故にここにいる。どうか、その優れた能力をこの国のために存分に振るって欲しい」
目の前でそう言っているのは、レクンド王国の第三王子であるカークス様である。美しい顔立ちをした彼は、楽しそうに笑う。
王子様が目の前でこのように話しているということには、未だに少し実感が湧かない。
だが、彼は紛れもなく僕の上司なのだ。この王城における魔法関連の責任者なのである。
「さてと、本当なら早速君達の力を借りたい所ではあるがそうもいかない。今から君達に行ってもらうのは書類の作成だ。面倒な事柄ではあるが、契約には形式が必要である。これを済ませて、やっと君達は私達の仲間入りということになる」
王子の言葉を聞きながら、僕は自分の手元に目を落とす。
そこには、いくつかの書類がある。諸々の手続きを済ませるということだろう。
僕はペンを手に取り、必要な個所に記入をしていく。大抵の場合は、名前を書くだけだ。それ程難しいことではない。
「……む?」
そこで僕は、一度手を止めてしまった。
書類には念のため一通り目を通すようにしている。そのため、書いてある内容に違和感を覚えてしまったのだ。
「おや、ディレン君。どうかしたのかな?」
「あ、いえ、申し訳ありません。この書類の意図が掴めなくて……」
「ほう? どの書類だね?」
声をあげてしまったからか、カークス様が僕の方に近づいてきた。
その仕草の優雅さに、流石は王子であると思いながら僕は動揺する。
王子の手を煩わせる。それは、中々に怖いものだ。無礼でもあったら、僕だけではなくクラムド男爵家に迷惑をかけてしまうかもしれない。
「諸君、言っておくが遠慮する必要はない。疑問があったらむしろ口にしてもらった方がありがたい。認識に違いがあって問題が起こると面倒だ……という訳で、ディレン君、君の疑問を話したまえ」
「あ、その……この契約書なのですが、少々物騒だと思ったのです」
「ほう? ああ、それのことか……」
僕が素直に契約書を見せると、カークス様はゆっくりと頷いた。
その仕草を見るに、これは僕だけではなく多くの者が疑問に思うような事柄であると考えるべきだろう。
とりあえず僕は安心する。王子が寛大なことであり、自分の疑問がおかしなものではないとわかったからだ。
「これは、この国の聖女であるアルネシア・レクンド……つまり、僕の妹に関する契約書だ。彼女に関する全ての事柄に関して、他言することは許されない。そういう契約書だよ」
「それは一体、どういうことなのでしょうか? もちろん、聖女の業務などが外部に漏れたら困るとは思いますが、全ての事柄というのはあまり理解できません」
「ふむ……まあ、これは念のための契約書だよ。王族の情報が洩れるとまずいだろう?」
「ですが、王子に関する契約書がないのでは?」
「まあ、男女の違いということだろうね。実の所、父上はアルネシアに過保護なんだ」
「なるほど……」
カークス様の言葉に、僕はゆっくりと頷いた。
なんというか、あまり納得できない。だが、別にこの契約書に名前を記すことによって僕が不利益を被ることもないため、これ以上追求するべきではないだろう。
追及して変に疑われて困るのは僕の方だ。そう考えて、僕はその契約書に名前を書くのだった。
生まれつき持っていた多くの魔力を活かしたい。そう思った僕は魔法の分野に打ち込み、ついには王国でも屈指の職場といえる王城で勤務できるようになったのだ。
「ここにいる者達は、選ばれた者達だ。諸君は、この王国が優れた魔法使いであると認めた故にここにいる。どうか、その優れた能力をこの国のために存分に振るって欲しい」
目の前でそう言っているのは、レクンド王国の第三王子であるカークス様である。美しい顔立ちをした彼は、楽しそうに笑う。
王子様が目の前でこのように話しているということには、未だに少し実感が湧かない。
だが、彼は紛れもなく僕の上司なのだ。この王城における魔法関連の責任者なのである。
「さてと、本当なら早速君達の力を借りたい所ではあるがそうもいかない。今から君達に行ってもらうのは書類の作成だ。面倒な事柄ではあるが、契約には形式が必要である。これを済ませて、やっと君達は私達の仲間入りということになる」
王子の言葉を聞きながら、僕は自分の手元に目を落とす。
そこには、いくつかの書類がある。諸々の手続きを済ませるということだろう。
僕はペンを手に取り、必要な個所に記入をしていく。大抵の場合は、名前を書くだけだ。それ程難しいことではない。
「……む?」
そこで僕は、一度手を止めてしまった。
書類には念のため一通り目を通すようにしている。そのため、書いてある内容に違和感を覚えてしまったのだ。
「おや、ディレン君。どうかしたのかな?」
「あ、いえ、申し訳ありません。この書類の意図が掴めなくて……」
「ほう? どの書類だね?」
声をあげてしまったからか、カークス様が僕の方に近づいてきた。
その仕草の優雅さに、流石は王子であると思いながら僕は動揺する。
王子の手を煩わせる。それは、中々に怖いものだ。無礼でもあったら、僕だけではなくクラムド男爵家に迷惑をかけてしまうかもしれない。
「諸君、言っておくが遠慮する必要はない。疑問があったらむしろ口にしてもらった方がありがたい。認識に違いがあって問題が起こると面倒だ……という訳で、ディレン君、君の疑問を話したまえ」
「あ、その……この契約書なのですが、少々物騒だと思ったのです」
「ほう? ああ、それのことか……」
僕が素直に契約書を見せると、カークス様はゆっくりと頷いた。
その仕草を見るに、これは僕だけではなく多くの者が疑問に思うような事柄であると考えるべきだろう。
とりあえず僕は安心する。王子が寛大なことであり、自分の疑問がおかしなものではないとわかったからだ。
「これは、この国の聖女であるアルネシア・レクンド……つまり、僕の妹に関する契約書だ。彼女に関する全ての事柄に関して、他言することは許されない。そういう契約書だよ」
「それは一体、どういうことなのでしょうか? もちろん、聖女の業務などが外部に漏れたら困るとは思いますが、全ての事柄というのはあまり理解できません」
「ふむ……まあ、これは念のための契約書だよ。王族の情報が洩れるとまずいだろう?」
「ですが、王子に関する契約書がないのでは?」
「まあ、男女の違いということだろうね。実の所、父上はアルネシアに過保護なんだ」
「なるほど……」
カークス様の言葉に、僕はゆっくりと頷いた。
なんというか、あまり納得できない。だが、別にこの契約書に名前を記すことによって僕が不利益を被ることもないため、これ以上追求するべきではないだろう。
追及して変に疑われて困るのは僕の方だ。そう考えて、僕はその契約書に名前を書くのだった。
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