不出来な妹など必要ないと私を切り捨てたあなたが、今更助けを求めるなんて都合が良い話だとは思いませんか?

木山楽斗

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10.公爵家の次男

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 私は、サジェードさんとシェリダンさんとともにフェデルト公爵家の屋敷の客室にいた。
 屋敷を訪ねて門番に事情を話すと、驚くべき程にすんなりと家の中に入れてもらえた。
 それから客室に通されて、私達の目の前には一人の青年がいる。彼はこのフェデルト公爵家の次男であるフリード様だ。

「えっと、この度はありがとうございます。話を聞いてもらえて、とても嬉しいです」
「そのようにかしこまる必要はありませんよ、エリーゼ嬢。あなたは、あのアウゼスさんの妹さんなのですから」
「あ、えっと……」

 フリード様は、私に対して笑みを浮かべてくれていた。
 しかし、その笑みの意味というものがわからない。アウゼス兄さんは、公爵家の次男とどういう関係なのだろうか。普通に考えると、まず関わりなんてなさそうなのだが。

「アウゼス兄さんは、フリード様と懇意にさせていただいているのでしょうか?」
「ええ、彼は僕の兄弟子ですから」
「兄弟子?」
「ええ、家庭教師のグリットン先生です。といっても、アウゼスさんは勉学については学んでいなかったようですが……」
「というと、もしかしてあの奇妙な武術ですか……」
「はい。多分それですね。アウゼスさんからも、色々と教わっています」

 フリード様は、手を合わせてから一礼してきた。
 よく見てみると、小柄ながらもその体には確かな筋肉がついている。アウゼス兄さんと同じような武術を習っているという言葉に、嘘はなさそうだ。
 それはなんというか、納得できないことという訳でもなかった。あの武術は見るからに便利そうだったし、貴族の中でも習いたい人はいるかもしれない。

「エリーゼ嬢のことは、彼から聞いていました。僕が習った見返りに金銭を渡そうとした時に、そのようなものはいらないから、いざという時に貴族の妹を助けて欲しいと頼まれました」
「そうだったのですか……」
「エリーゼ嬢がレフェルトン伯爵家において、厳しい立場ということは知っていました。もっとも、いくら公爵家とはいえ、他家のことに気軽に首を突っ込むことはできません。そのため、何かあった時にと備えることしかしていませんでした。その点については、申し訳ありませんね」
「いえ、こうして迎え入れてもらえただけでも、とてもありがたいです」

 フェデルト公爵家まで辿り着けた時点で、かなり安全であるといえる。
 その点において、フリード様には感謝の気持ちでいっぱいだ。平時に助けてもらえなかったことについて、何かを言うつもりなんて毛頭ない。

「とはいえ、まさかこのようなことになっているとは思っていませんでしたがね……」

 そこでフリード様は、目を細めた。
 彼の目線は、私の隣にいる暗殺者兄弟に向いている。どうやらフリード様は、兄弟に対して色々と思う所があるようだ。
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