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6.彼の素性は
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「あの……」
「……」
固まっていた男性に、私は声をかけた。
彼が何者であるのか、私はそれが知りたかった。私は何も、目的もなく彷徨っていたという訳ではない。その目的に、彼は関わっている可能性があるのだ。
「あなたのことを聞かせていただいても構いませんか?」
「……兄だ」
「え?」
私の質問に対して、男性は短く返答を返してきた。
ただそれは、私にとっては予想外のものであった。兄、その言葉には一体、どのような意味があるのだろうか。それが私には、まったくわからなかった。
「俺の名前は、アウゼス。この近くの村に住む、しがない狩人だ。俺の母は、今から十五年程前にいなくなった。レフェルトン伯爵に見初められて、半強制的に連れて行かれたのだ」
「……なんですって?」
「母の名前は、オーメリア。村の幼馴染であるカウクスと結婚したどこにでもいる娘であった。ただ不幸にもレフェルトン伯爵に目をつけられたのだ」
「それは……」
男性――アウゼスさんの言葉に対して、今度は私が固まることになった。
私の母の名前、それはオーメリアである。彼女は生前、私に言い残していた。何か困ったら、とにかく西へと向かえと。
そこにあるアウゼットという村に行けば、なんとかなる。私はその言葉を頼りに、ここまでやって来たのだ。
「それじゃああなたは……私の、お兄様?」
「……お兄様はよせ。堅苦しくて仕方ない」
「あ、えっと……」
目の前にいるのは、どうやら私の兄であるらしい。
ただ母は、兄のことなんて一度も口にしていなかった。ダントンお兄様以外に兄がいるなんてことは、考えてもいなかったことである。
「親しみを込めて、お兄ちゃんとでも呼べばいい」
「……えっと、それではアウゼス兄さんで、よろしいでしょうか?」
「まあそれでも構わない」
しかしながら、彼が私の兄であるということは、ほぼ間違いないだろう。
年齢差などからも、別にいてもおかしくはない。ここまで色々と知っていることからも考えて、一旦それは受け入れるべき事柄だと思った。
「レフェルトン伯爵家に、妾の子がいるという話は聞いていた。それが誰の子であるかは、考えるまでもないことだった。エリーゼ、お前は俺の妹だ。会えて嬉しく思う」
「はい、アウゼス兄さん……私も、なんだかとても感激しています」
私はアウゼス兄さんの言葉に、ゆっくりと頷いた。
母がどうして、彼のことを私に話さなかったのかはわからない。だが、こうして兄と巡り会えたのは母の言葉のお陰である。
苦しい中でも、私に愛を持って接してくれていた母には感謝の気持ちでいっぱいだ。
「……」
固まっていた男性に、私は声をかけた。
彼が何者であるのか、私はそれが知りたかった。私は何も、目的もなく彷徨っていたという訳ではない。その目的に、彼は関わっている可能性があるのだ。
「あなたのことを聞かせていただいても構いませんか?」
「……兄だ」
「え?」
私の質問に対して、男性は短く返答を返してきた。
ただそれは、私にとっては予想外のものであった。兄、その言葉には一体、どのような意味があるのだろうか。それが私には、まったくわからなかった。
「俺の名前は、アウゼス。この近くの村に住む、しがない狩人だ。俺の母は、今から十五年程前にいなくなった。レフェルトン伯爵に見初められて、半強制的に連れて行かれたのだ」
「……なんですって?」
「母の名前は、オーメリア。村の幼馴染であるカウクスと結婚したどこにでもいる娘であった。ただ不幸にもレフェルトン伯爵に目をつけられたのだ」
「それは……」
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そこにあるアウゼットという村に行けば、なんとかなる。私はその言葉を頼りに、ここまでやって来たのだ。
「それじゃああなたは……私の、お兄様?」
「……お兄様はよせ。堅苦しくて仕方ない」
「あ、えっと……」
目の前にいるのは、どうやら私の兄であるらしい。
ただ母は、兄のことなんて一度も口にしていなかった。ダントンお兄様以外に兄がいるなんてことは、考えてもいなかったことである。
「親しみを込めて、お兄ちゃんとでも呼べばいい」
「……えっと、それではアウゼス兄さんで、よろしいでしょうか?」
「まあそれでも構わない」
しかしながら、彼が私の兄であるということは、ほぼ間違いないだろう。
年齢差などからも、別にいてもおかしくはない。ここまで色々と知っていることからも考えて、一旦それは受け入れるべき事柄だと思った。
「レフェルトン伯爵家に、妾の子がいるという話は聞いていた。それが誰の子であるかは、考えるまでもないことだった。エリーゼ、お前は俺の妹だ。会えて嬉しく思う」
「はい、アウゼス兄さん……私も、なんだかとても感激しています」
私はアウゼス兄さんの言葉に、ゆっくりと頷いた。
母がどうして、彼のことを私に話さなかったのかはわからない。だが、こうして兄と巡り会えたのは母の言葉のお陰である。
苦しい中でも、私に愛を持って接してくれていた母には感謝の気持ちでいっぱいだ。
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