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4.私にできること

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「槍を捨てたのは失敗だったな。あれは厄介だった」
「必要な措置だった。二対一では、こちらも勝てるかは怪しい所だ」
「俺一人なら、なんとかなるということか。それはなんとも、自信過剰だな」
「そういう訳ではない。こちらが不利なことは重々承知している」

 暗殺者は、ナイフを構えながら動き始めた。
 それに対して、男性も構えている。ただ彼には武器がない。徒手空拳においても彼は優れているのかもしれないが、流石に武器を持つ相手は厳しそうである。

 私は、周囲を見渡す。あの男性が誰かは知らないが、ことこの状況において、彼は私の味方である。
 殺されないためにも、私もできることを探すとしかない。武術の心得などはないが、あの暗殺者の気を一瞬引くくらいのことなら、できるのではないだろうか。

「……」

 私は、その場にゆっくりと膝をついた。
 すると暗殺者が、少しこちらに意識を向けてくる。ただ彼は、私の方を警戒などはしていないようだ。状況が状況だけに、腰が抜けたと判断したのだろう。
 それはあながち、間違っているという訳でもない。正直な所、結構限界であった。膝をついてわかったが、どうやら私は満足に動ける状態ではないようである。

 となると、次の行動は一か八かということになってしまう。
 名前も知らない彼と、上手く連携することなどできるのかは不安だ。ただ、このままではどの道二人ともやられるだけだろう。どちらが有利かは、考えるまでもないことなのだから。

「……こっちだ!」
「むっ……? ちっ!」

 私は地面を掴み取って、それを暗殺者に向かって精一杯投げた。
 火事場の馬鹿力でも働いたのか、それは狙い通りの軌道に乗った。一直線に暗殺者の顔面に向かっていくそれを見ていると、少し安心できる。

「くっ……!」

 予想外の一撃であったからか、暗殺者はその土の塊をナイフで切り裂いた。
 それが大きな隙であることは、間違いない。男性もそう思ったのだろう。一気に駆け出し、彼は間合いを詰めようとしている。

「ふんっ!」
「――舐めるなっ!」

 男性は、その勢いのままに右の拳を振るった。
 しかし暗殺者の方も、それに合わせてナイフを振るっている。
 かなり無理がある体勢からの一撃ではあるが、それでもその軌道は男性を捉えているように見えた。このままではまずい。ただ、男性ももうどうすることもできないだろう。彼の方も、既に動作を止められる段階ではない。

「舐めているつもりなどはない」
「何……うぐっ!」

 次の瞬間、私は奇妙な光景を目にすることになった。
 男性の拳は、届いていない。だというのに、暗殺者の体はまるで殴られたかのようにその動きを変えている。
 やがて彼の体は、地面に叩きつけられた。当然そのナイフが男性を切り裂くこともなく、暗殺者はそこに転がったのだ。
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