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1.忌むべき家

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 レフェルトン伯爵家における私の立場というものは、弱いものであった。
 私は妾の子であるため、それは当然といえば当然のことだ。ただだからといって、辛くないという訳ではない。本妻である奥様やお兄様からの叱責に、私は日々疲れ切っていた。
 そんな私がレフェルトン伯爵家に留まっているのは、お父様の威光というものが大きかった。伯爵家の当主である彼は、周囲の反対を押し切り私を家に置いていたのだ。

『妾の子なんて、一人だけでもないだろうに』
『レフェルトン伯爵は、あの妾に熱を上げているのだろう。奥様との仲は良いとも言い難い』

 使用人達のそんな会話を、私は聞いたことがある。
 どうやらお父様は、母のことをかなり愛していたようである。だから、その生き写しともいえる私にも、同様に愛を注いでいたのかもしれない。
 といっても、母が亡くなる前も後も、彼が私にまともに手を差し伸べたことなどなかった。愛しているというには、中途半端な対応だったといえる。

『あなたの要求を、私は聞いてあげているということをお忘れなきよう』
『そ、それはわかっているとも……』
『ふんっ。まあ、別にあなたが誰を愛していようとも、興味なんてものはありませんけれど。あの女を本妻にするなどと言い出したら、話は別ですが』
『も、もちろん、そんなつもりはない』

 お父様というものは、奥様に頭が上がっていなかった。
 母を愛しているにも関わらず何もしなかったのは、それが理由だろう。奥様が怖かっただけなのだ。特別に何かがあったという訳でもない。

「ははっ! やっと目の上のたんこぶが取れたといえる。今日からは僕がこの家の当主だ」

 そんなお父様は、私が十五歳になった年に亡くなった。
 元々あってなかったようなものではあるが、それでも一応彼にも力があったらしい。
 目の前にいる下卑た顔をしたダントンお兄様を見ながら、私はそれを実感していた。とはいえ、別段この兄の対応というものに対して、思う所もないのだが。

「不出来な妹なんて必要ない。お前にはこの家から出て行ってもらう」
「……そうですか」
「余裕そうだな。気に入らない。お前は自分が今まで生かされていたということを理解していないらしいな?」
「……別に、こんな所にいたいと思っていたことなどありません」

 お兄様の言葉に、私はゆっくりと首を横に振った。
 ここから抜け出せることには、安堵さえ感じている。お父様は、保護という名目で私をこの家に置いていた。抜け出しても、追いかけられる立場だったのだ。
 そう考えると、あの人は本当に余計なことしかしていなかったといえる。父と呼ぶのも嫌気が差すくらい、私はあの人のことが嫌いだ。

「出て行けというなら、出て行きます。そうですね……今までお世話になりました」
「……ちっ!」

 ゆっくりと背を向ける私に、ダントンお兄様は舌打ちをした。
 私を忌み嫌う彼のことだ。こういった態度が気に入らないのだろう。
 しかし、それも私には関係がないことだ。これから私は、このレフェルトン伯爵家から抜け出すのだから。
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