1 / 6
1.忌むべき家
しおりを挟む
レフェルトン伯爵家における私の立場というものは、弱いものであった。
私は妾の子であるため、それは当然といえば当然のことだ。ただだからといって、辛くないという訳ではない。本妻である奥様やお兄様からの叱責に、私は日々疲れ切っていた。
そんな私がレフェルトン伯爵家に留まっているのは、お父様の威光というものが大きかった。伯爵家の当主である彼は、周囲の反対を押し切り私を家に置いていたのだ。
『妾の子なんて、一人だけでもないだろうに』
『レフェルトン伯爵は、あの妾に熱を上げているのだろう。奥様との仲は良いとも言い難い』
使用人達のそんな会話を、私は聞いたことがある。
どうやらお父様は、母のことをかなり愛していたようである。だから、その生き写しともいえる私にも、同様に愛を注いでいたのかもしれない。
といっても、母が亡くなる前も後も、彼が私にまともに手を差し伸べたことなどなかった。愛しているというには、中途半端な対応だったといえる。
『あなたの要求を、私は聞いてあげているということをお忘れなきよう』
『そ、それはわかっているとも……』
『ふんっ。まあ、別にあなたが誰を愛していようとも、興味なんてものはありませんけれど。あの女を本妻にするなどと言い出したら、話は別ですが』
『も、もちろん、そんなつもりはない』
お父様というものは、奥様に頭が上がっていなかった。
母を愛しているにも関わらず何もしなかったのは、それが理由だろう。奥様が怖かっただけなのだ。特別に何かがあったという訳でもない。
「ははっ! やっと目の上のたんこぶが取れたといえる。今日からは僕がこの家の当主だ」
そんなお父様は、私が十五歳になった年に亡くなった。
元々あってなかったようなものではあるが、それでも一応彼にも力があったらしい。
目の前にいる下卑た顔をしたダントンお兄様を見ながら、私はそれを実感していた。とはいえ、別段この兄の対応というものに対して、思う所もないのだが。
「不出来な妹なんて必要ない。お前にはこの家から出て行ってもらう」
「……そうですか」
「余裕そうだな。気に入らない。お前は自分が今まで生かされていたということを理解していないらしいな?」
「……別に、こんな所にいたいと思っていたことなどありません」
お兄様の言葉に、私はゆっくりと首を横に振った。
ここから抜け出せることには、安堵さえ感じている。お父様は、保護という名目で私をこの家に置いていた。抜け出しても、追いかけられる立場だったのだ。
そう考えると、あの人は本当に余計なことしかしていなかったといえる。父と呼ぶのも嫌気が差すくらい、私はあの人のことが嫌いだ。
「出て行けというなら、出て行きます。そうですね……今までお世話になりました」
「……ちっ!」
ゆっくりと背を向ける私に、ダントンお兄様は舌打ちをした。
私を忌み嫌う彼のことだ。こういった態度が気に入らないのだろう。
しかし、それも私には関係がないことだ。これから私は、このレフェルトン伯爵家から抜け出すのだから。
私は妾の子であるため、それは当然といえば当然のことだ。ただだからといって、辛くないという訳ではない。本妻である奥様やお兄様からの叱責に、私は日々疲れ切っていた。
そんな私がレフェルトン伯爵家に留まっているのは、お父様の威光というものが大きかった。伯爵家の当主である彼は、周囲の反対を押し切り私を家に置いていたのだ。
『妾の子なんて、一人だけでもないだろうに』
『レフェルトン伯爵は、あの妾に熱を上げているのだろう。奥様との仲は良いとも言い難い』
使用人達のそんな会話を、私は聞いたことがある。
どうやらお父様は、母のことをかなり愛していたようである。だから、その生き写しともいえる私にも、同様に愛を注いでいたのかもしれない。
といっても、母が亡くなる前も後も、彼が私にまともに手を差し伸べたことなどなかった。愛しているというには、中途半端な対応だったといえる。
『あなたの要求を、私は聞いてあげているということをお忘れなきよう』
『そ、それはわかっているとも……』
『ふんっ。まあ、別にあなたが誰を愛していようとも、興味なんてものはありませんけれど。あの女を本妻にするなどと言い出したら、話は別ですが』
『も、もちろん、そんなつもりはない』
お父様というものは、奥様に頭が上がっていなかった。
母を愛しているにも関わらず何もしなかったのは、それが理由だろう。奥様が怖かっただけなのだ。特別に何かがあったという訳でもない。
「ははっ! やっと目の上のたんこぶが取れたといえる。今日からは僕がこの家の当主だ」
そんなお父様は、私が十五歳になった年に亡くなった。
元々あってなかったようなものではあるが、それでも一応彼にも力があったらしい。
目の前にいる下卑た顔をしたダントンお兄様を見ながら、私はそれを実感していた。とはいえ、別段この兄の対応というものに対して、思う所もないのだが。
「不出来な妹なんて必要ない。お前にはこの家から出て行ってもらう」
「……そうですか」
「余裕そうだな。気に入らない。お前は自分が今まで生かされていたということを理解していないらしいな?」
「……別に、こんな所にいたいと思っていたことなどありません」
お兄様の言葉に、私はゆっくりと首を横に振った。
ここから抜け出せることには、安堵さえ感じている。お父様は、保護という名目で私をこの家に置いていた。抜け出しても、追いかけられる立場だったのだ。
そう考えると、あの人は本当に余計なことしかしていなかったといえる。父と呼ぶのも嫌気が差すくらい、私はあの人のことが嫌いだ。
「出て行けというなら、出て行きます。そうですね……今までお世話になりました」
「……ちっ!」
ゆっくりと背を向ける私に、ダントンお兄様は舌打ちをした。
私を忌み嫌う彼のことだ。こういった態度が気に入らないのだろう。
しかし、それも私には関係がないことだ。これから私は、このレフェルトン伯爵家から抜け出すのだから。
16
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
「期待外れ」という事で婚約破棄した私に何の用ですか? 「理想の妻(私の妹)」を愛でてくださいな。
百谷シカ
恋愛
「君ならもっとできると思っていたけどな。期待外れだよ」
私はトイファー伯爵令嬢エルミーラ・ヴェールマン。
上記の理由により、婚約者に棄てられた。
「ベリエス様ぁ、もうお会いできないんですかぁ…? ぐすん…」
「ああ、ユリアーナ。君とは離れられない。僕は君と結婚するのさ!」
「本当ですかぁ? 嬉しいです! キャハッ☆彡」
そして双子の妹ユリアーナが、私を蹴落とし、その方の妻になった。
プライドはズタズタ……(笑)
ところが、1年後。
未だ跡継ぎの生まれない事に焦った元婚約者で現在義弟が泣きついて来た。
「君の妹はちょっと頭がおかしいんじゃないか? コウノトリを信じてるぞ!」
いえいえ、そういうのが純真無垢な理想の可愛い妻でしたよね?
あなたが選んだ相手なので、どうぞ一生、愛でて魂すり減らしてくださいませ。
その花の名前は
青波鳩子
恋愛
公爵令嬢デルフィーナはロルダン王太子殿下の婚約者だが、ロルダンには他に大切にしている令嬢がいる。
このまま信頼関係の無い『結婚』に進めば、生涯搾取され続ける人生になるとデルフィーナは危惧する。
デルフィーナはお妃教育を終えると選べる、この婚約を無かったものにする『王妃の秘薬』を所望することにした。
王妃が調合したその薬を婚約者が飲むと、王太子と魂が入れ替わり王太子の身体に入った婚約者は三日の眠りにつく。
目を覚ませば互いの魂は元の身体に戻り、婚約者はすべての記憶を失っているという。
王妃は婚約者令嬢に新たな身分を与え、婚約は無かったものになる。
亡き母の友人である王妃殿下が用意してくれる人生に希望を見出したい。
それほどロルダン殿下に絶望を抱いていた。
デルフィーナはそれまで生きてきたすべての記憶をチップに替えて、
オールチップをまだ見ぬ未来に置こうと決めた──。
----------------------------------------------------------
9月22日、HOTランキング1位、恋愛ジャンルランキング3位になっていました!
たくさんの方々にお読みいただき、またエールやブックマーク、しおりなど
とても嬉しいです、ありがとうございます!
---------------------------------------------------
*約7万字で完結しています
*荒唐無稽な世界観で書いていますので、ふんわりお読みいただけるとありがたいです
*「小説家になろう」にも投稿しています
*最初の二話は初日に同時に投稿し、後は毎日7時と19時に投稿します
*「エピローグ」の次に「最終話」がありその後に4つの「番外編」があります。「番外編」は4人の人物の自分語りです。
*「番外編」の後に、最後の1話があります。それを以って本当の完結となります。
(「番外編」4話分と、最後の1話は同日同時間に予約投稿済みです)
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
死んだ妹そっくりの平民の所為で婚約破棄と勘当を言い渡されたけど片腹痛いわ!
サイコちゃん
恋愛
突然、死んだ妹マリアにそっくりな少女が男爵家を訪れた。男爵夫妻も、姉アメリアの婚約者ロイドも、その少女に惑わされる。しかしアメリアだけが、詐欺師だと見抜いていた。やがて詐欺師はアメリアを陥れ、婚約破棄と勘当へ導く。これでアメリアは後ろ盾もなく平民へ落ちるはずだった。しかし彼女は圧倒的な切り札を持っていたのだ――
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる