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第62話 彼の過去(リクルド視点)
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※この話は、リクルドの視点の話です。
俺の名前は、リクルド・フォリシス。
誇り高きフォリシス家の長男にして、フォルシアス学園の学園長だ。
先程、俺は義理の妹であるルリアから、告白をされた。少々驚いたが、俺はそれを丁重に断った。
しかし、それについて、実の妹であるレティから注意をされてしまったのである。
レティの指摘は、珍しく真っ当なものだった。故に、俺自身も考えを改める必要があるということだ。
「ふむ……」
ルリアは、俺にとって大切な存在である。
取るに足らない存在だった俺が、まともな人間になれたのは、ルリアのおかげだ。
「あの時からか……」
俺は思い出す。それは、俺とルリアが出会ったの頃のこと。
◇◇◇
かつての俺は、取るに足らない存在だった。
父上から叩き込まれた言葉を妄信し、他者を信用せず常に警戒し、他人を慮ることもない最低な人間だったのだ。
そんな俺だったが、ある時自身の存在に疑問を覚えることになった。それは、父上の変化が起こった時だ。
厳しく、他者を信用しない父上の変化。それは、父上の教育を受けてきた俺の根幹を揺るがす事態だった。
故に、俺は迷っていたといえる。かつての父上のようになることが正しいのかどうか、それは俺のその後を決める迷いだっただろう。
「リクルド、お前に頼みたいことがあるのだ」
「頼みたいこと?」
そんな中で、俺にとある転機が訪れた。
それは、父上からの頼みごとが発端だった。
「今度、家に来るルリアの教育をお前に任せたいと思ったな」
「ルリア……確か、弱小貴族の出身でしたか」
「ああ、彼女に貴族としての振る舞いを教えてやって欲しいのだ」
「わかりました」
ルリアの教育係、それが父上から与えられた役目であった。
その時は、父上が辺境の弱小貴族を引き取ることにしたとだけ聞いていた時である。そのため、俺はどのような人間が来るかはまったく知らなかった。
だが、俺は思っていた。父上が引き取ろうと思ったのだから、優秀な人材なのだろうと。
しかし、俺の予想は大きく外れることになる。
◇◇◇
俺がルリアと会って、最初に抱いた印象は、弱々しい田舎者というものだった。
いかにも、弱小貴族らしい振る舞いに、俺はひどく落胆したものだ。
あの父上が、このようなものを拾ってきた。それに、驚いていたというのもあるだろう。
当初の予定通り、俺はルリアの教育係になった。
そこで、俺はさらに落胆することになる。
なぜなら、ルリアはほとんど貴族としての振る舞いをわかっていなかったからだ。流石は、田舎の辺境で呑気に暮らしていた貴族だと思ったものである。
「お、お兄様、次もよろしくお願いします」
「……ああ」
しかし、そんなルリアに接していく内に、俺はあることに気づいた。
それは、ルリアが決して弱音を吐かず、俺の教育を受け入れているということだ。
作法はなっていないが、その姿勢に対して、俺は好印象を抱いていた。真面目でひたむきなその態度は、俺にとって好ましいものだったのだ。
「うっ……」
「……どうした?」
「あ、いえ、なんでもありません」
そんな日々が続いていく中、ルリアの調子がおかしい日があった。
明らかに、いつもと違う様子で、俺の前に現れたのだ。
一目見て、俺は理解した。ルリアが、風邪を引いていることを。
「……風邪を引いているのか?」
「……はい」
「なら、今日は休め」
その時、俺はルリアを休ませていた。
決して、弱音を吐かなかったルリアだが、それが強がりだったのだと、俺はそこで初めて気づいたのだ。
後から聞いた話しだが、当時のルリアはとても厳しい心境だったらしい。
両親を亡くし、圧倒的地位が高い家の養子になり、厳しい兄からの教育を受けている。その状況は、ルリアの心をどんどんと傷つけていったのだ。
フォリシス家に、ルリアの味方がいないこともまずかったのだろう。その孤独感は、ルリアを追い詰めていったのだ。
本来なら、そのようにならないように、俺が気を遣うべきだった。だが、当時の俺は自身のことしか考えていない愚か者だった。ルリアを、いち早く一人前にして、父上に認めてもらう。そればかり考えていたのだ。
この時が、俺は少しだけ変わった。
父上に仕事を任せられたから、ルリアを教育するのではなく、俺自身で彼女と向き合うと決めたのだ。
そうしなければ、真の貴族になれない。俺は、それに気づいたのである。
◇◇◇
ルリアの風邪が治ってから、俺はあることを耳にした。
それは、ルリアがレティと仲良くなったということである。
当時の愚妹は、臆病で他者を拒絶するような性格だった。その愚妹と仲良くなったと聞いて、俺は驚いたものだ。
だが、なんとなく理解もしていた。ルリアなら、あの妹と仲良くなれるだろうと。
ルリアは、穏やかな性格だ。そのような性格なら、あの捻くれた妹も、受け入れるだろうと考えられる。
「そういえば、お前はほぼ毎日レティの元に通っていたらしいな?」
「あ、はい。風邪を引くまでは、毎日通っていました。部屋に入ることを、断られることもありましたが……」
「そうか……」
そこで、俺は疑問に思ったのだ。一体、ルリアがなんのためにレティの部屋に通っていたのかと。
もちろん、フォリシス家の人間と仲良くして損はないだろう。だが、そこにどのような糸があるのかは確認しておかなければならなかった。
レティを利用して、何かをするというなら、牽制しておかなければならない。養子ではあるが、このフォリシス家を受け継ぐ権利が、ルリアにはある。しかし、そこまで思い上がらせる訳にはいかないのだ。そこは、血を継いでいる俺やレティとルリアの差なのである。
その時の俺の考えは、そのようなものだった。今思い返せば、取るに足らない考えである。
「お前には、どのような意図がある。あの愚妹と仲良くして、お前にどのような利益があるのだ?」
「利益?」
俺の質問に、ルリアがした表情は今でも覚えている。
それは、俺の言葉がまったく理解できないという顔だったのだ。
「わ、私はただ、レティと仲良くしたいと思っただけで……」
「何?」
「せ、せっかく姉妹になるから、もっと色々と話したいと思いまして……利益といえば、自分が楽しくなるからでしょうか?」
ルリアの答えは、そのようなものだった。
その時、俺はやっと気づいたのだ。ルリアという人間は、とても純粋なのだと。
ルリアは、策謀や思惑などなく、ただ単にレティと仲良くなりたかったのである。その気持ちは、人として当たり前のものなのかもしれない。
だが、俺はそれまで他者と接するのは、利益のためだとしか思っていなかった。そう学んできていたため、そうとしか思えなかったのだ。
「ふっ……」
「え?」
「面白い答えだ。だが、それでいいのだろうな……」
ルリアの答えを聞いて、俺は笑っていた。
何故かわからないが、その答えがとても面白かったのだ。
ルリアは、透き通るように純粋な人間だった。思えば、俺はそんなルリアから様々なことを教えてもらっていただろう。
彼女と過ごす内に、俺は人間性というものを手に入れていたのだ。
そのことについて、ルリアはわかっていないだろう。だが、俺は彼女に感謝してもして切れない程の恩義を感じている。
その思いが、好意であると言われても、俺は否定できないのかもしれない。
しかし、それを受け入れることはできないだろう。なぜなら、俺はルリアの兄であるからだ。
ただ、それもいい訳なのだろう。
この俺も、自身の心というものに、今一度向き合わなければならないのかもしれない。
俺の名前は、リクルド・フォリシス。
誇り高きフォリシス家の長男にして、フォルシアス学園の学園長だ。
先程、俺は義理の妹であるルリアから、告白をされた。少々驚いたが、俺はそれを丁重に断った。
しかし、それについて、実の妹であるレティから注意をされてしまったのである。
レティの指摘は、珍しく真っ当なものだった。故に、俺自身も考えを改める必要があるということだ。
「ふむ……」
ルリアは、俺にとって大切な存在である。
取るに足らない存在だった俺が、まともな人間になれたのは、ルリアのおかげだ。
「あの時からか……」
俺は思い出す。それは、俺とルリアが出会ったの頃のこと。
◇◇◇
かつての俺は、取るに足らない存在だった。
父上から叩き込まれた言葉を妄信し、他者を信用せず常に警戒し、他人を慮ることもない最低な人間だったのだ。
そんな俺だったが、ある時自身の存在に疑問を覚えることになった。それは、父上の変化が起こった時だ。
厳しく、他者を信用しない父上の変化。それは、父上の教育を受けてきた俺の根幹を揺るがす事態だった。
故に、俺は迷っていたといえる。かつての父上のようになることが正しいのかどうか、それは俺のその後を決める迷いだっただろう。
「リクルド、お前に頼みたいことがあるのだ」
「頼みたいこと?」
そんな中で、俺にとある転機が訪れた。
それは、父上からの頼みごとが発端だった。
「今度、家に来るルリアの教育をお前に任せたいと思ったな」
「ルリア……確か、弱小貴族の出身でしたか」
「ああ、彼女に貴族としての振る舞いを教えてやって欲しいのだ」
「わかりました」
ルリアの教育係、それが父上から与えられた役目であった。
その時は、父上が辺境の弱小貴族を引き取ることにしたとだけ聞いていた時である。そのため、俺はどのような人間が来るかはまったく知らなかった。
だが、俺は思っていた。父上が引き取ろうと思ったのだから、優秀な人材なのだろうと。
しかし、俺の予想は大きく外れることになる。
◇◇◇
俺がルリアと会って、最初に抱いた印象は、弱々しい田舎者というものだった。
いかにも、弱小貴族らしい振る舞いに、俺はひどく落胆したものだ。
あの父上が、このようなものを拾ってきた。それに、驚いていたというのもあるだろう。
当初の予定通り、俺はルリアの教育係になった。
そこで、俺はさらに落胆することになる。
なぜなら、ルリアはほとんど貴族としての振る舞いをわかっていなかったからだ。流石は、田舎の辺境で呑気に暮らしていた貴族だと思ったものである。
「お、お兄様、次もよろしくお願いします」
「……ああ」
しかし、そんなルリアに接していく内に、俺はあることに気づいた。
それは、ルリアが決して弱音を吐かず、俺の教育を受け入れているということだ。
作法はなっていないが、その姿勢に対して、俺は好印象を抱いていた。真面目でひたむきなその態度は、俺にとって好ましいものだったのだ。
「うっ……」
「……どうした?」
「あ、いえ、なんでもありません」
そんな日々が続いていく中、ルリアの調子がおかしい日があった。
明らかに、いつもと違う様子で、俺の前に現れたのだ。
一目見て、俺は理解した。ルリアが、風邪を引いていることを。
「……風邪を引いているのか?」
「……はい」
「なら、今日は休め」
その時、俺はルリアを休ませていた。
決して、弱音を吐かなかったルリアだが、それが強がりだったのだと、俺はそこで初めて気づいたのだ。
後から聞いた話しだが、当時のルリアはとても厳しい心境だったらしい。
両親を亡くし、圧倒的地位が高い家の養子になり、厳しい兄からの教育を受けている。その状況は、ルリアの心をどんどんと傷つけていったのだ。
フォリシス家に、ルリアの味方がいないこともまずかったのだろう。その孤独感は、ルリアを追い詰めていったのだ。
本来なら、そのようにならないように、俺が気を遣うべきだった。だが、当時の俺は自身のことしか考えていない愚か者だった。ルリアを、いち早く一人前にして、父上に認めてもらう。そればかり考えていたのだ。
この時が、俺は少しだけ変わった。
父上に仕事を任せられたから、ルリアを教育するのではなく、俺自身で彼女と向き合うと決めたのだ。
そうしなければ、真の貴族になれない。俺は、それに気づいたのである。
◇◇◇
ルリアの風邪が治ってから、俺はあることを耳にした。
それは、ルリアがレティと仲良くなったということである。
当時の愚妹は、臆病で他者を拒絶するような性格だった。その愚妹と仲良くなったと聞いて、俺は驚いたものだ。
だが、なんとなく理解もしていた。ルリアなら、あの妹と仲良くなれるだろうと。
ルリアは、穏やかな性格だ。そのような性格なら、あの捻くれた妹も、受け入れるだろうと考えられる。
「そういえば、お前はほぼ毎日レティの元に通っていたらしいな?」
「あ、はい。風邪を引くまでは、毎日通っていました。部屋に入ることを、断られることもありましたが……」
「そうか……」
そこで、俺は疑問に思ったのだ。一体、ルリアがなんのためにレティの部屋に通っていたのかと。
もちろん、フォリシス家の人間と仲良くして損はないだろう。だが、そこにどのような糸があるのかは確認しておかなければならなかった。
レティを利用して、何かをするというなら、牽制しておかなければならない。養子ではあるが、このフォリシス家を受け継ぐ権利が、ルリアにはある。しかし、そこまで思い上がらせる訳にはいかないのだ。そこは、血を継いでいる俺やレティとルリアの差なのである。
その時の俺の考えは、そのようなものだった。今思い返せば、取るに足らない考えである。
「お前には、どのような意図がある。あの愚妹と仲良くして、お前にどのような利益があるのだ?」
「利益?」
俺の質問に、ルリアがした表情は今でも覚えている。
それは、俺の言葉がまったく理解できないという顔だったのだ。
「わ、私はただ、レティと仲良くしたいと思っただけで……」
「何?」
「せ、せっかく姉妹になるから、もっと色々と話したいと思いまして……利益といえば、自分が楽しくなるからでしょうか?」
ルリアの答えは、そのようなものだった。
その時、俺はやっと気づいたのだ。ルリアという人間は、とても純粋なのだと。
ルリアは、策謀や思惑などなく、ただ単にレティと仲良くなりたかったのである。その気持ちは、人として当たり前のものなのかもしれない。
だが、俺はそれまで他者と接するのは、利益のためだとしか思っていなかった。そう学んできていたため、そうとしか思えなかったのだ。
「ふっ……」
「え?」
「面白い答えだ。だが、それでいいのだろうな……」
ルリアの答えを聞いて、俺は笑っていた。
何故かわからないが、その答えがとても面白かったのだ。
ルリアは、透き通るように純粋な人間だった。思えば、俺はそんなルリアから様々なことを教えてもらっていただろう。
彼女と過ごす内に、俺は人間性というものを手に入れていたのだ。
そのことについて、ルリアはわかっていないだろう。だが、俺は彼女に感謝してもして切れない程の恩義を感じている。
その思いが、好意であると言われても、俺は否定できないのかもしれない。
しかし、それを受け入れることはできないだろう。なぜなら、俺はルリアの兄であるからだ。
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