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第58話 話の内容

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 私とレティは、お兄様とともに馬車の前に立っていた。
 サルティス様が、帰る時間になったのだ。

「それでは、皆様、またお会いできる時を楽しみにしています」
「ええ」

 サルティス様が、ゆっくりと馬車の中に入っていく。
 何故かわからないが、サルティス様はとても嬉しそうにしている。それに対して、お兄様はとても疲れているように見える。
 一体、二人の間に何があったのだろうか。少し気になってしまう。

「それでは、さようなら」

 そんなことを考えている内に、馬車が動き始めた。
 サルティス様は、馬車の中から手を振っている。
 しかし、こちらから手を振り返す訳にもいかないので、とりあえず礼をしておくことしかできない。

「……やっと、行ってくれましたね」

 馬車が走っていって、レティはそんなことを呟いた。
 言い方は少し悪いが、それは全員思っていることだろう。
 これでやっと落ち着けるのだ。そう思うのも、仕方ないのではないだろうか。

 こうして、私達の元に突如襲来したサルティス様は、去っていったのだった。



◇◇◇



 私とレティは、一度中断していたお茶を再開していた。
 ただ、今回は新たなに一人加わっている。もちろん、お兄様だ。

「ふん……」

 お兄様は、私達の会話に口を挟むこともなく、淡々とお茶を飲んでいる。
 恐らく、話を聞いていない訳ではない。きちんと聞いた上で、口を挟まなくてもいいと判断しているのだ。
 お兄様は、時々こうして私達のお茶に来ることがある。
 疲れているお兄様も、たまには休みたいのだだろう。その休む場所が、私達の元であるというのは、嬉しいことである。ここが、お兄様の心休まる場所なら、一番なのだ。

「そういえば、お兄様、聞いてもいいですか?」
「む? なんだ?」
「いえ、サルティス様とはなんの話をしたんですか?」
「む……」

 そこで、レティがお兄様に話を振った。
 それは、私もとても気になっていたことである。
 しかし、お兄様は答えてくれるのだろうか。王族との会話だ。機密事項でもおかしくはない。

「すまないが、それを言うことはできない。王族との会話故にな……」
「あ、別にそれならいいんですけど……」

 やはり、話せないことだったようだ。
 王族との会話は、気軽に外部に話すことができないので仕方ないことである。

「そ、その……」
「うん? なんだ?」
 
 しかし、私は一つだけどうしても知りたいことがあった。
 それは、レティとの会話でできた疑念だ。

「婚約関係の話だったりするのでしょうか?」
「……何を言っている?」
「あ、いえ……」

 私の質問に、お兄様は不思議そうな顔をした。
 わかってはいたが、変な質問だったからだろう。
 やはり、このような質問はするべきではなかった。お兄様に、変だと思われてしまう。

「ま、待ち時間が暇だったので、お姉様と話していたんですよ。そこで、予想の一つとして、その話になったんです。それが合っているか、お姉様は気になったんです」
「何を慌てている?」
「い、いや、だから他意はないと言っているんです」
「ほう……?」

 そんな私を、レティはフォローしてくれた。
 そのフォローでも、お兄様は少し不思議そうな顔をしていた。だが、頷いているので、とりあえずは納得してくれてはいるようだ。

「それくらいなら、答えてもいいだろう。婚約関係の話ではない。残念ながら、お前達の予想は外れていたようだな」
「そ、そうですか……」
「ざ、残念ですね……」

 どうやら、お兄様とサルティス様は、婚約関係の話をしていた訳ではないらしい。
 そのことに、私は少し安心する。
 こうして、私達はお茶を続けるのだった。
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