27 / 80
第18話 暴走する疑念
しおりを挟む
私とレティは、家に帰って来ていた。
男子生徒の告白については、丁重にお断りした。向こうも、断られることはなんとなく予想していたらしく、特に話が拗れることもなく、話は終わった。
ただ、問題はここからだ。
家に帰って来てから、私とレティはお兄様に呼び出されていた。
その呼び出しがあった瞬間から、私達の脳裏にあることが過っていた。もしかしたら、お兄様は告白のことを知っているのではないかと。
「お、お兄様、本日の用件は……?」
「ふんふん」
私とレティは、緊張しながら、お兄様の前に立っていた。
まさか、あのことを知っているとは思えないが、どうなのだろうか。
「お前達が、俺に秘密にしていることがあると思ってな……」
これは、駄目かもしれない。
私達がお兄様に隠していることとは、今日の告白のことだろう。男子生徒の安全のために、お兄様に隠すことに決めたのだ。
「さて、どうだ?」
「え、えっと……」
「この俺は、既に真実を知っている。故に、隠すなど無意味であるということを、お前達も理解しているはずだ」
悩んでいる私に、お兄様はそう言ってきた。
確かに、お兄様が知っているなら、隠しても無駄だろう。ここは、素直に話した方が、いいのかもしれない。
お兄様は、怒っている訳でもではなさそうだ。そのため、そもそも処罰を下すというのが、私達の勘違いだったのかもしれない。
「先日お話した男子生徒に、告白されました。丁重に断ると、向こうも引いてくれたので、特に問題は起こっていません」
「ほう……」
私の言葉に、お兄様はゆっくりと頷く。
やはり、お兄様は怒っていないようだ。きっと、念のため、私達に話を聞いただけなのだろう。
「……それで、そいつの名前はなんという?」
そう思った私だったが、お兄様は即座に表情を変えた。
その表情は、先程までの優しい顔とは打って変わり、怒りに満ちている。
「お、お兄様、どうしたのですか?」
「別にどうということはない。俺は、その者の名前を聞いているのだ」
私の質問に、お兄様はそう答えてきた。
ここで、名前を言ってしまうと駄目だろう。恐らく、お兄様は何か処罰を下す。そんな可哀そうなことは、絶対に避けなければならない。
「その男子生徒の名前を言うと、お兄様は何かしらの処罰を下すのでしょうか?」
「処罰を下すかどうかは、検討中だ」
「検討中という時点で、私はお話しできません。私に告白しただけで、処罰を下す可能性があるなど、おかしな話です」
やはり、お兄様は処罰を下すようだ。
それは、流石に避けたいため、男子生徒の名前は絶対に話す訳にはいかない。
「そもそも、どうしてお兄様が、知っているんですか? お姉様は、私にしか話していませんし、私も誰にも言っていません。もしかして、ストーカーですか? 気持ち悪いですよ?」
ここで、レティの援護射撃が入る。
少々言葉は厳しいが、それは私も気になっていたところだ。
お兄様は、一体どうやってこの事実を知ったのだろう。
「単純な話だ。帰ってきた後、お前達の様子がいつもと違った。故に、かまをかけたというだけだ」
「な、なるほど……」
お兄様は、私達の様子が違うというだけで、隠し事をしていると見抜いたようだ。
その洞察力は、流石というしかない。
見事に引っかかり、話してしまった私は、とても愚かだった。言わなければ、お兄様がこのようになるはずもなかったのだ。
「……それで、名前はなんという?」
「お、お兄様、恐らく心配はありません。あの人は、フォリシス家の令嬢を狙っているという訳ではないと思います」
「ほう?」
「なぜなら、彼は平民です。貴族ならともかく、平民の人が私を狙っているとはいえないのではないでしょうか?」
再度始まった追及に、私はそう答えた。
お兄様が、ここまで心配しているのは、フォリシス家を狙うよからぬ者達に警戒しているからだ。
ただ、平民ならその心配を取り払えるだろう。貴族でなければ、フォリシス家を狙うなどという発想そのものが出てこないはずである。
「ルリア、忘れたのか? 俺は、平民や貴族といった地位で、相手を差別しない。故に、地位など関係はない」
「お、お兄様……?」
「俺は、誇り高きフォリシス家の長男として、妹に手を出そうとする不届き者を逃がしはしない」
確かに、お兄様は、地位によって差別をする人ではない。自身の学園に、多くの平民を通わせていることも、その証拠だ。
それは、素晴らしいことだが、今回は少々マイナスに働いてしまったらしい。
「お、お許しください、お兄様。処罰など、あんまりです……」
「む……?」
いよいよ説得が難しくなった私は、ついに懇願していた。
何を言っても、お兄様は聞き入れてくれそうにない。そのため、もうこれくらいしか、私にできることはないのである。
「……まあいい」
「え?」
私がそんなことを思っていると、お兄様がそう言ってきた。
その言葉に、私は思わず驚いてしまう。
「これの俺としたことが、問題をはき違えていたようだ。少なくとも、お前達を追い詰め、そのような表情をさせるのが、正しいとは言えまい」
「あっ……」
「すまなかったな……」
お兄様は立ち上がり、私の目に浮かんでいた涙を拭ってくれる。
どうやら、いつの間にか私は涙を浮かべていたようだ。そのことに、私は恥ずかしくなってしまう。
「話はこれで終わりだ。お前に告白した生徒については、これ以上追求しない。それで、いいと判断しよう」
「は、はい……」
こうして、私達とお兄様との話は終わるのだった。
男子生徒の告白については、丁重にお断りした。向こうも、断られることはなんとなく予想していたらしく、特に話が拗れることもなく、話は終わった。
ただ、問題はここからだ。
家に帰って来てから、私とレティはお兄様に呼び出されていた。
その呼び出しがあった瞬間から、私達の脳裏にあることが過っていた。もしかしたら、お兄様は告白のことを知っているのではないかと。
「お、お兄様、本日の用件は……?」
「ふんふん」
私とレティは、緊張しながら、お兄様の前に立っていた。
まさか、あのことを知っているとは思えないが、どうなのだろうか。
「お前達が、俺に秘密にしていることがあると思ってな……」
これは、駄目かもしれない。
私達がお兄様に隠していることとは、今日の告白のことだろう。男子生徒の安全のために、お兄様に隠すことに決めたのだ。
「さて、どうだ?」
「え、えっと……」
「この俺は、既に真実を知っている。故に、隠すなど無意味であるということを、お前達も理解しているはずだ」
悩んでいる私に、お兄様はそう言ってきた。
確かに、お兄様が知っているなら、隠しても無駄だろう。ここは、素直に話した方が、いいのかもしれない。
お兄様は、怒っている訳でもではなさそうだ。そのため、そもそも処罰を下すというのが、私達の勘違いだったのかもしれない。
「先日お話した男子生徒に、告白されました。丁重に断ると、向こうも引いてくれたので、特に問題は起こっていません」
「ほう……」
私の言葉に、お兄様はゆっくりと頷く。
やはり、お兄様は怒っていないようだ。きっと、念のため、私達に話を聞いただけなのだろう。
「……それで、そいつの名前はなんという?」
そう思った私だったが、お兄様は即座に表情を変えた。
その表情は、先程までの優しい顔とは打って変わり、怒りに満ちている。
「お、お兄様、どうしたのですか?」
「別にどうということはない。俺は、その者の名前を聞いているのだ」
私の質問に、お兄様はそう答えてきた。
ここで、名前を言ってしまうと駄目だろう。恐らく、お兄様は何か処罰を下す。そんな可哀そうなことは、絶対に避けなければならない。
「その男子生徒の名前を言うと、お兄様は何かしらの処罰を下すのでしょうか?」
「処罰を下すかどうかは、検討中だ」
「検討中という時点で、私はお話しできません。私に告白しただけで、処罰を下す可能性があるなど、おかしな話です」
やはり、お兄様は処罰を下すようだ。
それは、流石に避けたいため、男子生徒の名前は絶対に話す訳にはいかない。
「そもそも、どうしてお兄様が、知っているんですか? お姉様は、私にしか話していませんし、私も誰にも言っていません。もしかして、ストーカーですか? 気持ち悪いですよ?」
ここで、レティの援護射撃が入る。
少々言葉は厳しいが、それは私も気になっていたところだ。
お兄様は、一体どうやってこの事実を知ったのだろう。
「単純な話だ。帰ってきた後、お前達の様子がいつもと違った。故に、かまをかけたというだけだ」
「な、なるほど……」
お兄様は、私達の様子が違うというだけで、隠し事をしていると見抜いたようだ。
その洞察力は、流石というしかない。
見事に引っかかり、話してしまった私は、とても愚かだった。言わなければ、お兄様がこのようになるはずもなかったのだ。
「……それで、名前はなんという?」
「お、お兄様、恐らく心配はありません。あの人は、フォリシス家の令嬢を狙っているという訳ではないと思います」
「ほう?」
「なぜなら、彼は平民です。貴族ならともかく、平民の人が私を狙っているとはいえないのではないでしょうか?」
再度始まった追及に、私はそう答えた。
お兄様が、ここまで心配しているのは、フォリシス家を狙うよからぬ者達に警戒しているからだ。
ただ、平民ならその心配を取り払えるだろう。貴族でなければ、フォリシス家を狙うなどという発想そのものが出てこないはずである。
「ルリア、忘れたのか? 俺は、平民や貴族といった地位で、相手を差別しない。故に、地位など関係はない」
「お、お兄様……?」
「俺は、誇り高きフォリシス家の長男として、妹に手を出そうとする不届き者を逃がしはしない」
確かに、お兄様は、地位によって差別をする人ではない。自身の学園に、多くの平民を通わせていることも、その証拠だ。
それは、素晴らしいことだが、今回は少々マイナスに働いてしまったらしい。
「お、お許しください、お兄様。処罰など、あんまりです……」
「む……?」
いよいよ説得が難しくなった私は、ついに懇願していた。
何を言っても、お兄様は聞き入れてくれそうにない。そのため、もうこれくらいしか、私にできることはないのである。
「……まあいい」
「え?」
私がそんなことを思っていると、お兄様がそう言ってきた。
その言葉に、私は思わず驚いてしまう。
「これの俺としたことが、問題をはき違えていたようだ。少なくとも、お前達を追い詰め、そのような表情をさせるのが、正しいとは言えまい」
「あっ……」
「すまなかったな……」
お兄様は立ち上がり、私の目に浮かんでいた涙を拭ってくれる。
どうやら、いつの間にか私は涙を浮かべていたようだ。そのことに、私は恥ずかしくなってしまう。
「話はこれで終わりだ。お前に告白した生徒については、これ以上追求しない。それで、いいと判断しよう」
「は、はい……」
こうして、私達とお兄様との話は終わるのだった。
21
お気に入りに追加
1,750
あなたにおすすめの小説
拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
虐げられていた黒魔術師は辺境伯に溺愛される
朝露ココア
恋愛
リナルディ伯爵令嬢のクラーラ。
クラーラは白魔術の名門に生まれながらも、黒魔術を得意としていた。
そのため実家では冷遇され、いつも両親や姉から蔑まれる日々を送っている。
父の強引な婚約の取り付けにより、彼女はとある辺境伯のもとに嫁ぐことになる。
縁談相手のハルトリー辺境伯は社交界でも評判がよくない人物。
しかし、逃げ場のないクラーラは黙って縁談を受け入れるしかなかった。
実際に会った辺境伯は臆病ながらも誠実な人物で。
クラーラと日々を過ごす中で、彼は次第に成長し……そして彼にまつわる『呪い』も明らかになっていく。
「二度と君を手放すつもりはない。俺を幸せにしてくれた君を……これから先、俺が幸せにする」
告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。
石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。
いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。
前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。
ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる