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70.消沈する妹
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ティルリアお義姉様とチャルア殿下とともに客室に現れたエルメラは、元気がなさそうだった。
一体三人で何の話をしたのだろうか。私にはそれがわからない。エルメラがこんな風になるなんて、大変珍しいことだ。話の内容が気になってしまう。
「エルメラ嬢は素敵な方ですね、イルティナ嬢」
「え? ええ、そうですね、ティルリアお義姉様」
「え?」
ティルリアお義姉様の言葉に私が応えると、エルメラは目を丸めていた。
この妹が、そこまで表情を変えるなんて驚きだ。しかし今の会話のどこに、驚くような要素があったのだろうか。
「なんですかぁ、その呼び方は?」
「ああ、そう呼んでもいいとティルリアお義姉様がおっしゃったので」
「いや、まだ結婚してないではありませんか?」
「まあ、そんな細かいことは良いではありませんか。それともエルメラ嬢は、この婚約が成立しないとお思いですか?」
「そういう訳ではありませんが……」
ティルリアお義姉様は笑顔でエルメラに語りかけていた。
その言葉に、妹は気圧されているような気がする。
あのエルメラがそのような反応をするというのも驚きだ。ティルリアお義姉様は妹と一体どのようなやり取りを交わして、こういう関係になったのだろうか。それが益々気になってきた。
「ああ、そうだ。エルメラ嬢も私のことはそう呼んでくださりませんか? 間接的にではありますが、私達も姉妹ということになるのですから」
「嫌です」
「もう、そんなに否定しなくても良いではありませんか」
「嫌なものは嫌ですから嫌なのです」
エルメラは、ティルリアお義姉様からの提案を断固として拒否していた。
呼び方一つで、何もそんなに否定する必要はないと思うのだが、エルメラにも何かしらのこだわりがあるということだろうか。
「そんな風に否定されると、流石に悲しいですね……一回くらい、呼んでいただけませんか?」
「私が姉と呼ぶのは、イルティナお姉様だけです。他の人をそう呼ぶことはありません」
「え?」
「あっ……」
ティルリアお義姉様の言葉に対する返答をして、エルメラはゆっくりと私の方を見た。
その表情からは、しまったというような感情が読み取れる。今のは失言だったということだろうか。
ただ、私としては嬉しい言葉ではある。まさかエルメラが、そこまで姉という存在を特別視していたなんて思っていなかった。なんだか、少し気分がいい。
「兄上、どうしたのですか? そんな風に頭を抱えて……」
「いや、なんというか疲れたんだ。同席しなければよかったと後悔している」
「一体どんな話をしていたんですか?」
「お前は知らない方がいい話だな」
「くう……私は、なんということを」
「ふふ、エルメラ嬢、別に恥ずかしがるようなことではありませんよ」
なんというか、場は少し荒れているような気もする。
ただ、このように皆でわいわいとできることは幸せなことだろう。私は、そんな風に思うのだった。
一体三人で何の話をしたのだろうか。私にはそれがわからない。エルメラがこんな風になるなんて、大変珍しいことだ。話の内容が気になってしまう。
「エルメラ嬢は素敵な方ですね、イルティナ嬢」
「え? ええ、そうですね、ティルリアお義姉様」
「え?」
ティルリアお義姉様の言葉に私が応えると、エルメラは目を丸めていた。
この妹が、そこまで表情を変えるなんて驚きだ。しかし今の会話のどこに、驚くような要素があったのだろうか。
「なんですかぁ、その呼び方は?」
「ああ、そう呼んでもいいとティルリアお義姉様がおっしゃったので」
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「まあ、そんな細かいことは良いではありませんか。それともエルメラ嬢は、この婚約が成立しないとお思いですか?」
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ティルリアお義姉様は笑顔でエルメラに語りかけていた。
その言葉に、妹は気圧されているような気がする。
あのエルメラがそのような反応をするというのも驚きだ。ティルリアお義姉様は妹と一体どのようなやり取りを交わして、こういう関係になったのだろうか。それが益々気になってきた。
「ああ、そうだ。エルメラ嬢も私のことはそう呼んでくださりませんか? 間接的にではありますが、私達も姉妹ということになるのですから」
「嫌です」
「もう、そんなに否定しなくても良いではありませんか」
「嫌なものは嫌ですから嫌なのです」
エルメラは、ティルリアお義姉様からの提案を断固として拒否していた。
呼び方一つで、何もそんなに否定する必要はないと思うのだが、エルメラにも何かしらのこだわりがあるということだろうか。
「そんな風に否定されると、流石に悲しいですね……一回くらい、呼んでいただけませんか?」
「私が姉と呼ぶのは、イルティナお姉様だけです。他の人をそう呼ぶことはありません」
「え?」
「あっ……」
ティルリアお義姉様の言葉に対する返答をして、エルメラはゆっくりと私の方を見た。
その表情からは、しまったというような感情が読み取れる。今のは失言だったということだろうか。
ただ、私としては嬉しい言葉ではある。まさかエルメラが、そこまで姉という存在を特別視していたなんて思っていなかった。なんだか、少し気分がいい。
「兄上、どうしたのですか? そんな風に頭を抱えて……」
「いや、なんというか疲れたんだ。同席しなければよかったと後悔している」
「一体どんな話をしていたんですか?」
「お前は知らない方がいい話だな」
「くう……私は、なんということを」
「ふふ、エルメラ嬢、別に恥ずかしがるようなことではありませんよ」
なんというか、場は少し荒れているような気もする。
ただ、このように皆でわいわいとできることは幸せなことだろう。私は、そんな風に思うのだった。
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