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2.優秀な妹
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「……慈善事業に精を出す人の気持ちが、私には理解できませんね」
妹であるエルメラは、帰宅した私をお茶に誘って、そんなことを言い出した。
明らかな問題発言を、この妹はさらりと口にする。場所が場所なら、大問題だ。
「そんなものは、お金を積んでおけばいいだけです。わざわざ出向くなんて、時間の無駄でしかありませんからね」
「……」
才色兼備なこの妹とって、自分を磨く以外の時間は、本当に無駄でしかないだろう。
彼女は今も成長を続けている。その成長の過程で彼女が閃いたことは、先人達の研究を覆すことだってある。それを考えると、確かに慈善事業に励むなんて無駄な時間だろう。
しかし、それはエルメラの場合の話しだ。私のような平凡な人間は、別に世紀の発見なんてできないし、せっせと動いてせめて国民の支えになる方が、有意義であるといえる。
「ああそういえば、今日も新しい発見をしましたよ」
「え?」
そんな妹は、今日も今日とて新たな発見をしていたらしい。
彼女の存在によって、王国――いやそれ所か世界の常識は塗り替えられているといえる。
「とある魔法に関することなのですけれど、私の方式なら従来よりも魔力の消費を抑えられて、どういう方式かというと……」
私が驚いていると、エルメラは発見したことについて早口で語り始めた。
いつも不機嫌そうにしかめっ面をしているこの妹も、こういった発見について語る時は目を輝かせている。
しかしながら、彼女の発見について私が耳を傾ける必要はないだろう。聞いてもさっぱりわからないし、それこそ時間の無駄だ。
「……ごめんなさい。それを聞いても、私はわからないわ」
「……そうでしたね」
私が事実について口にすると、エルメラは露骨に不機嫌そうな顔をした。
だが、そんな顔をされても彼女の解説を聞こうとは思えない。未知の言語のような理論を聞かされるのはただでさえ苦しいというのに、この妹はちゃんと聞いていないととても怒るのだ。
それなら、最初から聞きたくない旨を伝えた方がいい。私はそう思っている。それこそ、時間の無駄なのだから。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼させてもらうわね」
「……ええ」
よく考えてみれば、このお茶の時間も無駄でしかない。
幼い頃からの習慣で、お互いになんとなく時間をともにしているが、一体何の意味があるというのだろうか。
「……私も婚約が決まった訳だし、こういう時間もそろそろ終わりにしないとね」
「……うん?」
「いいえ、なんでもないわ」
私の婚約というのは、妹の言う無駄な時間を切り捨てるためのいい機会だといえるのかもしれない。
そんなことを思いながら、私はその場を後にするのだった。
妹であるエルメラは、帰宅した私をお茶に誘って、そんなことを言い出した。
明らかな問題発言を、この妹はさらりと口にする。場所が場所なら、大問題だ。
「そんなものは、お金を積んでおけばいいだけです。わざわざ出向くなんて、時間の無駄でしかありませんからね」
「……」
才色兼備なこの妹とって、自分を磨く以外の時間は、本当に無駄でしかないだろう。
彼女は今も成長を続けている。その成長の過程で彼女が閃いたことは、先人達の研究を覆すことだってある。それを考えると、確かに慈善事業に励むなんて無駄な時間だろう。
しかし、それはエルメラの場合の話しだ。私のような平凡な人間は、別に世紀の発見なんてできないし、せっせと動いてせめて国民の支えになる方が、有意義であるといえる。
「ああそういえば、今日も新しい発見をしましたよ」
「え?」
そんな妹は、今日も今日とて新たな発見をしていたらしい。
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私が驚いていると、エルメラは発見したことについて早口で語り始めた。
いつも不機嫌そうにしかめっ面をしているこの妹も、こういった発見について語る時は目を輝かせている。
しかしながら、彼女の発見について私が耳を傾ける必要はないだろう。聞いてもさっぱりわからないし、それこそ時間の無駄だ。
「……ごめんなさい。それを聞いても、私はわからないわ」
「……そうでしたね」
私が事実について口にすると、エルメラは露骨に不機嫌そうな顔をした。
だが、そんな顔をされても彼女の解説を聞こうとは思えない。未知の言語のような理論を聞かされるのはただでさえ苦しいというのに、この妹はちゃんと聞いていないととても怒るのだ。
それなら、最初から聞きたくない旨を伝えた方がいい。私はそう思っている。それこそ、時間の無駄なのだから。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼させてもらうわね」
「……ええ」
よく考えてみれば、このお茶の時間も無駄でしかない。
幼い頃からの習慣で、お互いになんとなく時間をともにしているが、一体何の意味があるというのだろうか。
「……私も婚約が決まった訳だし、こういう時間もそろそろ終わりにしないとね」
「……うん?」
「いいえ、なんでもないわ」
私の婚約というのは、妹の言う無駄な時間を切り捨てるためのいい機会だといえるのかもしれない。
そんなことを思いながら、私はその場を後にするのだった。
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