17 / 18
17.もう一人の私は
しおりを挟む
「本当に申し訳ありませんでした。僕の責任です」
「いいえ、ヴィクトール様のせいではありませんよ」
頭を下げるヴィクトールに対して、私はゆっくりと首を振る。
フェリーナ一派に突き落とされた私は、なんとか無事で済んだ。咄嗟に受け身をとったため、軽傷で済んだのである。
ただ、それでもことがことだ。フェリーナ達に対して、お父様はかなり怒った。その結果、彼女達は投獄されることになったのである。
「フェリーナがあれ程に悪意を持った人だったとは、私も思っていませんでした。見通しが甘かったのは、私も同じです」
「しかし……」
「まあ、こうして助かりましたからね。その辺りは気にしないでください」
フェリーナというメイドの悪質さは、度を越えていた。
普通の人間は、気に入らないからといって人を突き落としたりはしない。そこまでするとは、私だって予想していなかった。
故に私は、ヴィクトールを責めることはできない。今回の件は要するに、私達二人がまだまだ未熟だったということなのだろう。
「でも、あの時にもう一人の私が出て来なかったというのは、結構意外でしたね……彼女に対して怒りはあったはずなのに、まるで何も起こりませんでした」
そこで私は、もう一人の自分のことを思い出していた。
彼女あるいは彼は、あの時にまったく表に出て来なかった。是非はともかくとして、もう一人の私が出て来ればもう少し違う結果になっていたような気もするのだが。
「……それについては、僕はなんとなくわかっていますよ」
「あら? そうなのですか?」
「ええ、本当に推測でしかありませんが……」
そんな私の疑問に、ヴィクトールは遠慮がちに切り出してきた。
どうやら彼は、私の人格の交代について何かしらの見解を持ち合わせているようだ。それは、今後のためにも是非聞いておきたいことである。
「もう一人のラメリアさんは、きっとラメリアさん自身のことでは出て来ないんだと思います」
「それは……どういうことですか?」
「ラメリアさんは優しい人ですから。きっと自分のことはある程度平気なんでしょう。でも、他人が傷つけられると激しい怒りを覚えてしまう。そんな所なのではないでしょうか?」
「なるほど……」
ヴィクトールの見解に、私は唸ることになった。
確かに、それはあり得ない話ではないのかもしれない。もう一人の私は、弟や他者の危機によって目覚めていた。考えてみれば、自分の危機に出てきたことはない。
激情の化身であるもう一人の私のことが、少しだけわかった。それは私にとって、大きな収穫であるといえるだろう。
「いいえ、ヴィクトール様のせいではありませんよ」
頭を下げるヴィクトールに対して、私はゆっくりと首を振る。
フェリーナ一派に突き落とされた私は、なんとか無事で済んだ。咄嗟に受け身をとったため、軽傷で済んだのである。
ただ、それでもことがことだ。フェリーナ達に対して、お父様はかなり怒った。その結果、彼女達は投獄されることになったのである。
「フェリーナがあれ程に悪意を持った人だったとは、私も思っていませんでした。見通しが甘かったのは、私も同じです」
「しかし……」
「まあ、こうして助かりましたからね。その辺りは気にしないでください」
フェリーナというメイドの悪質さは、度を越えていた。
普通の人間は、気に入らないからといって人を突き落としたりはしない。そこまでするとは、私だって予想していなかった。
故に私は、ヴィクトールを責めることはできない。今回の件は要するに、私達二人がまだまだ未熟だったということなのだろう。
「でも、あの時にもう一人の私が出て来なかったというのは、結構意外でしたね……彼女に対して怒りはあったはずなのに、まるで何も起こりませんでした」
そこで私は、もう一人の自分のことを思い出していた。
彼女あるいは彼は、あの時にまったく表に出て来なかった。是非はともかくとして、もう一人の私が出て来ればもう少し違う結果になっていたような気もするのだが。
「……それについては、僕はなんとなくわかっていますよ」
「あら? そうなのですか?」
「ええ、本当に推測でしかありませんが……」
そんな私の疑問に、ヴィクトールは遠慮がちに切り出してきた。
どうやら彼は、私の人格の交代について何かしらの見解を持ち合わせているようだ。それは、今後のためにも是非聞いておきたいことである。
「もう一人のラメリアさんは、きっとラメリアさん自身のことでは出て来ないんだと思います」
「それは……どういうことですか?」
「ラメリアさんは優しい人ですから。きっと自分のことはある程度平気なんでしょう。でも、他人が傷つけられると激しい怒りを覚えてしまう。そんな所なのではないでしょうか?」
「なるほど……」
ヴィクトールの見解に、私は唸ることになった。
確かに、それはあり得ない話ではないのかもしれない。もう一人の私は、弟や他者の危機によって目覚めていた。考えてみれば、自分の危機に出てきたことはない。
激情の化身であるもう一人の私のことが、少しだけわかった。それは私にとって、大きな収穫であるといえるだろう。
76
お気に入りに追加
681
あなたにおすすめの小説


聖女ですが、大地の力を授かったので、先手を打って王族たちを国外追放したら、国がとってもスッキリしました。
冬吹せいら
恋愛
聖女のローナは、大地の怒りを鎮めるための祈りに、毎回大金がかかることについて、王族や兵士たちから、文句ばかり言われてきた。
ある日、いつものように祈りを捧げたところ、ローナの丁寧な祈りの成果により、大地の怒りが完全に静まった。そのお礼として、大地を司る者から、力を授かる。
その力を使って、ローナは、王族や兵士などのムカつく連中を国から追い出し……。スッキリ綺麗にすることを誓った。

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!
冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。
しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。
話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。
スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。
そこから、話しは急展開を迎える……。

婚約破棄された私は、世間体が悪くなるからと家を追い出されました。そんな私を救ってくれたのは、隣国の王子様で、しかも初対面ではないようです。
冬吹せいら
恋愛
キャロ・ブリジットは、婚約者のライアン・オーゼフに、突如婚約を破棄された。
本来キャロの味方となって抗議するはずの父、カーセルは、婚約破棄をされた傷物令嬢に価値はないと冷たく言い放ち、キャロを家から追い出してしまう。
ありえないほど酷い仕打ちに、心を痛めていたキャロ。
隣国を訪れたところ、ひょんなことから、王子と顔を合わせることに。
「あの時のお礼を、今するべきだと。そう考えています」
どうやらキャロは、過去に王子を助けたことがあるらしく……?

無能と罵られた私だけど、どうやら聖女だったらしい。
冬吹せいら
恋愛
魔法学園に通っているケイト・ブロッサムは、最高学年になっても低級魔法しか使うことができず、いじめを受け、退学を決意した。
村に帰ったケイトは、両親の畑仕事を手伝うことになる。
幼いころから魔法学園の寮暮らしだったケイトは、これまで畑仕事をしたことがなく、畑に祈りを込め、豊作を願った経験もなかった。
人生で初めての祈り――。そこで彼女は、聖女として目覚めるのだった。

ムカつく悪役令嬢の姉を無視していたら、いつの間にか私が聖女になっていました。
冬吹せいら
恋愛
侯爵令嬢のリリナ・アルシアルには、二歳上の姉、ルルエがいた。
ルルエはことあるごとに妹のリリナにちょっかいをかけている。しかし、ルルエが十歳、リリナが八歳になったある日、ルルエの罠により、酷い怪我を負わされたリリナは、ルルエのことを完全に無視することにした。
そして迎えた、リリナの十四歳の誕生日。
長女でありながら、最低級の適性を授かった、姉のルルエとは違い、聖女を授かったリリナは……。


婚約破棄ですか……。……あの、契約書類は読みましたか?
冬吹せいら
恋愛
伯爵家の令息――ローイ・ランドルフは、侯爵家の令嬢――アリア・テスタロトと婚約を結んだ。
しかし、この婚約の本当の目的は、伯爵家による侯爵家の乗っ取りである。
侯爵家の領地に、ズカズカと進行し、我がもの顔で建物の建設を始める伯爵家。
ある程度領地を蝕んだところで、ローイはアリアとの婚約を破棄しようとした。
「おかしいと思いませんか? 自らの領地を荒されているのに、何も言わないなんて――」
アリアが、ローイに対して、不気味に語り掛ける。
侯爵家は、最初から気が付いていたのだ。
「契約書類は、ちゃんと読みましたか?」
伯爵家の没落が、今、始まろうとしている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる