12 / 18
12.念のために
しおりを挟む
「なるほど、そのようなことがあったのですか……」
「ええ……」
仕事が終わってから、私はヴィクトールにことの全てを打ち明けていた。
ソルネアには少し悪いと思うが、これも彼女のためだ。万が一の時のためにも、ヴィクトールには事情を説明しておいた方がいいはずである。
「ソルネアさんとしては、メイド同士の問題はメイド同士で解決したいということですか……」
「まあ、そういうことになるでしょうかね……とにかく彼女は、ヴィクトール様達の介入は望んでいないと思います」
「わかりました。それなら、少し様子を見ることにしましょうか。ただ、僕は何かあったらすぐに介入しますよ? フェリーナさん達の好き勝手にさせたくは、ありませんからね……」
「ええ、そうしていただけると助かります」
もちろん、ソルネアがその持ち前の強さでフェリーナを退ける可能性はあるだろう。
しかし、その前にフェリーナが何かとんでもないことをするかもしれない。そういう時のために、私はヴィクトールに相談しに来たのである。
彼という保険があれば、きっと大丈夫だろう。何かあったら、すぐに動いてくれるはずだ。
「しかしそれを言うならそもそもの話、ラナリアさんが動いてもいいのではありませんか?」
「え? 私が?」
「ええ、ラナリアさん……というかラメリア嬢の力なら、フェルーナさんなんて容易に抑えつけられるでしょう?」
「ああ、そういうことでしたか……まあ、確かにそうなのですけれどね」
ヴィクトールの指摘に、私は少し驚くことになった。
私が公爵令嬢として動く。それは考えていないことだった。
確かに客観的に見れば、その方が良いと思えるかもしれない。ただ、私はできる限りその手段を取りたくはなかった。ここでの私は、一メイドであるべきだと思っているのだ。
「それは、本当に最後の手段ということにしようと思っています。私の素性は、できるだけ明かしたくありませんからね」
「ああ、そうでしたね。すみません、愚かなことを聞いてしまいましたね……あなたは、そういう立場でしたね」
「いえいえ、仕方ありませんよ。私はややこしい立場ですからね……」
ヴィクトールの言葉に、私は思わず笑ってしまった。
本当に、私はややこしい立場だ。きっとヴィクトールにとっては、私は非常に扱いにくい存在であるだろう。
そう考えると、バルドリュー伯爵家の面々は寛大だ。こんな私を雇って良くしてくれているなんて、皆人がいいとしか言いようがない。
「ええ……」
仕事が終わってから、私はヴィクトールにことの全てを打ち明けていた。
ソルネアには少し悪いと思うが、これも彼女のためだ。万が一の時のためにも、ヴィクトールには事情を説明しておいた方がいいはずである。
「ソルネアさんとしては、メイド同士の問題はメイド同士で解決したいということですか……」
「まあ、そういうことになるでしょうかね……とにかく彼女は、ヴィクトール様達の介入は望んでいないと思います」
「わかりました。それなら、少し様子を見ることにしましょうか。ただ、僕は何かあったらすぐに介入しますよ? フェリーナさん達の好き勝手にさせたくは、ありませんからね……」
「ええ、そうしていただけると助かります」
もちろん、ソルネアがその持ち前の強さでフェリーナを退ける可能性はあるだろう。
しかし、その前にフェリーナが何かとんでもないことをするかもしれない。そういう時のために、私はヴィクトールに相談しに来たのである。
彼という保険があれば、きっと大丈夫だろう。何かあったら、すぐに動いてくれるはずだ。
「しかしそれを言うならそもそもの話、ラナリアさんが動いてもいいのではありませんか?」
「え? 私が?」
「ええ、ラナリアさん……というかラメリア嬢の力なら、フェルーナさんなんて容易に抑えつけられるでしょう?」
「ああ、そういうことでしたか……まあ、確かにそうなのですけれどね」
ヴィクトールの指摘に、私は少し驚くことになった。
私が公爵令嬢として動く。それは考えていないことだった。
確かに客観的に見れば、その方が良いと思えるかもしれない。ただ、私はできる限りその手段を取りたくはなかった。ここでの私は、一メイドであるべきだと思っているのだ。
「それは、本当に最後の手段ということにしようと思っています。私の素性は、できるだけ明かしたくありませんからね」
「ああ、そうでしたね。すみません、愚かなことを聞いてしまいましたね……あなたは、そういう立場でしたね」
「いえいえ、仕方ありませんよ。私はややこしい立場ですからね……」
ヴィクトールの言葉に、私は思わず笑ってしまった。
本当に、私はややこしい立場だ。きっとヴィクトールにとっては、私は非常に扱いにくい存在であるだろう。
そう考えると、バルドリュー伯爵家の面々は寛大だ。こんな私を雇って良くしてくれているなんて、皆人がいいとしか言いようがない。
3
お気に入りに追加
613
あなたにおすすめの小説
伯爵家に仕えるメイドですが、不当に給料を減らされたので、辞職しようと思います。ついでに、ご令嬢の浮気を、婚約者に密告しておきますね。
冬吹せいら
恋愛
エイリャーン伯爵家に仕えるメイド、アンリカ・ジェネッタは、日々不満を抱きながらも、働き続けていた。
ある日、不当に給料を減らされることになったアンリカは、辞職を決意する。
メイドでなくなった以上、家の秘密を守る必要も無い。
アンリカは、令嬢の浮気を、密告することにした。
エイリャーン家の没落が、始まろうとしている……。
王子が浮気したので、公爵家の出番ですね。
冬吹せいら
恋愛
王子が娼婦と浮気し、伯爵令嬢との婚約を破棄すると言い始めた。
伯爵令嬢の親友であり、公爵家令嬢のリンダ・ベネロップは、王家への復讐を決意する。
公爵家は王家と血が繋がっており、密かに王の座を狙っていたのだ……。
あと一週間で、聖女の夫になることができたのに……。残念でしたね。
冬吹せいら
恋愛
オーデンバム学園の卒業式の後、首席のリアム・ベルリンドを祝うパーティが行われた。
リアムは壇上で、自分はルイーザ・サンセットに虐めを受けていた。などと言い始める。
さらにそこへ、ルイーザの婚約者であるはずのトレバー・シルバードが現れ、彼女を庇うどころか、ルイーザとの婚約を破棄すると言い出した。
一週間後、誕生日を迎えるルイーザが、聖女に認定されるとも知らずに……。
ムカつく悪役令嬢の姉を無視していたら、いつの間にか私が聖女になっていました。
冬吹せいら
恋愛
侯爵令嬢のリリナ・アルシアルには、二歳上の姉、ルルエがいた。
ルルエはことあるごとに妹のリリナにちょっかいをかけている。しかし、ルルエが十歳、リリナが八歳になったある日、ルルエの罠により、酷い怪我を負わされたリリナは、ルルエのことを完全に無視することにした。
そして迎えた、リリナの十四歳の誕生日。
長女でありながら、最低級の適性を授かった、姉のルルエとは違い、聖女を授かったリリナは……。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
無能と罵られた私だけど、どうやら聖女だったらしい。
冬吹せいら
恋愛
魔法学園に通っているケイト・ブロッサムは、最高学年になっても低級魔法しか使うことができず、いじめを受け、退学を決意した。
村に帰ったケイトは、両親の畑仕事を手伝うことになる。
幼いころから魔法学園の寮暮らしだったケイトは、これまで畑仕事をしたことがなく、畑に祈りを込め、豊作を願った経験もなかった。
人生で初めての祈り――。そこで彼女は、聖女として目覚めるのだった。
婚約破棄された私は、世間体が悪くなるからと家を追い出されました。そんな私を救ってくれたのは、隣国の王子様で、しかも初対面ではないようです。
冬吹せいら
恋愛
キャロ・ブリジットは、婚約者のライアン・オーゼフに、突如婚約を破棄された。
本来キャロの味方となって抗議するはずの父、カーセルは、婚約破棄をされた傷物令嬢に価値はないと冷たく言い放ち、キャロを家から追い出してしまう。
ありえないほど酷い仕打ちに、心を痛めていたキャロ。
隣国を訪れたところ、ひょんなことから、王子と顔を合わせることに。
「あの時のお礼を、今するべきだと。そう考えています」
どうやらキャロは、過去に王子を助けたことがあるらしく……?
婚約破棄ですか……。……あの、契約書類は読みましたか?
冬吹せいら
恋愛
伯爵家の令息――ローイ・ランドルフは、侯爵家の令嬢――アリア・テスタロトと婚約を結んだ。
しかし、この婚約の本当の目的は、伯爵家による侯爵家の乗っ取りである。
侯爵家の領地に、ズカズカと進行し、我がもの顔で建物の建設を始める伯爵家。
ある程度領地を蝕んだところで、ローイはアリアとの婚約を破棄しようとした。
「おかしいと思いませんか? 自らの領地を荒されているのに、何も言わないなんて――」
アリアが、ローイに対して、不気味に語り掛ける。
侯爵家は、最初から気が付いていたのだ。
「契約書類は、ちゃんと読みましたか?」
伯爵家の没落が、今、始まろうとしている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる