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11.気高き精神

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「先程はありがとうございました。お陰で助かりました」
「いえ、お気になさらないでください」

 ヴィクトールがその場を去ってから、私はソルネアとともに庭の掃除を再開していた。
 彼女はまず、お礼を述べてきた。ヴィクトールの前では決して言わなかったそのお礼に、私は少し面食らってしまう。
 てっきり彼女は、先程のことをなかったことにするのかと思っていた。しかしそういう訳ではないようだ。お礼はきちんと述べておきたいということだろうか。

「しかし……本当に良かったのですか? ヴィクトール様に話さなくて……」
「それは……」

 とりあえず私は、ソルネアの対応について聞いておくことにした。
 彼女の意図が、わからないという訳ではない。主人の介入、その最後の手段ともいえるものに彼女は頼りたくなかったのだろう。
 それは彼女の強さを表しているといえる。ただその茨の道を本当に進むつもりなのか、今一度確認しておきたかった。

「……私は、メイドだった祖母に憧れているんです」
「お祖母様、ですか?」
「はい。お祖母様は、貴族の方々からも高く評価されるメイドでした。そんなお祖母様は、平民を見下す同僚に対しても、決して折れなかったと聞いています。私は、そのお祖母様の誇りを受け継いでいます。ですから、あれくらいのことは平気なんです」

 やはりソルネアは、強い精神力を備えているらしい。その言葉や表情から、それが伝わってくる。
 しかし彼女が気高くあればある程に、フェリーナ達がひどく矮小に思えてきてしまう。
 もちろんソルネアの気持ちは尊重したいとは思っているが、あんな者達に好き勝手させて本当にいいのだろうか。私の頭には、そんな疑問が過ってきた。

「でも、私なんてまだまだですね。ラナリアさんに比べると、自分がとても情けないんです」
「え?」
「だってラナリアさんは、貴族の方々にも堂々としていたではありませんか。きっとお祖母様も、ラナリアさんのように強かったのでしょうね……」
「い、いえ、私なんてまだまだですよ」

 ソルネアの言葉に、私は首を振ることになった。
 彼女から見れば、私は確かに強く見えるかもしれない。
 ただ、私には特別な事情がある。故に強く見えるだけだ。それはきっと、本当の強さではない。

「私はただ、激情に身を任せているというだけに過ぎません。怒ると周りが見えなくなるとか、そういった感じです。ただ考えなしなだけなんです」
「そうでしょうか……?」
「ええ、そうなんです」

 そもそも、自分の感情を完全に制御できていない私が、強い訳はない。
 本当に強いのは、きっとソルネアのような人だろう。明るく笑顔を浮かべる彼女を見ながら、私はそんなことを思うのだった。
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