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9.茨の道を

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「……おや、こんな所にいましたか?」
「あっ……」

 ソルネアの前でどうするべきかを考えていた私は、後ろから聞こえてきた声にゆっくりと振り返ることになった。
 そこには、息を切らせたヴィクトールがいる。そういえば、彼はソルネアを探しに行ってくれていたのだ。色々と衝撃的だったため、すっかり頭から抜けてしまっていた。
 彼は、困惑しながら私とソルネアのことを交互に見てきた。何が起こっているのか、彼には理解できないのだろう。

「……ソルネアが、フェリーナを含めたメイド達とともに外に出たということは聞いていましたが、これは一体どういうことなのでしょうか? 状況から考えると、なんというかとても嫌なことがあったような気がしてしまいます」
「あら……」

 しかし私の予想に反して、ヴィクトールは状況をよく理解していた。
 事前にソルネアがフェリーナ一派に連れて行かれたという情報から、状況を予測できたということだろうか。

「ラナリアさん、何があったかを説明していただいても構いませんか? ソルネアさんは、どうやら放心状態であるみたいですし……」
「端的に申し上げますと、ソルネアはフェリーナ一派から――」
「――ラナリアさん」
「え?」

 私がヴィクトールに事情を説明しようとしていると、それをソルネアが遮った。
 その力強い声に、私は思わず固まってしまう。先程まで弱々しかった彼女から、まさかそのような言葉を聞くとは思っていなかったのだ。

「私は、大丈夫です。彼女達とは少し話をしていただけですから……」
「……なんですって?」
「ヴィクトール様、ご心配してくださりありがとうございます。しかし、ヴィクトール様が心配するようなことは何もありません。何もなかったんです」

 ソルネアの視線は、真っ直ぐであった。彼女は、まったく迷っていない。進むべき道を、彼女ははっきりと見据えている。
 しかし私の予想通りであるならば、それは茨の道だ。本当に彼女は、そんな道を進んでいくつもりなのだろうか。

 どうやら私は、少し勘違いをしていたようだ。ソルネアは、ただの弱々しいメイドではなかった。
 彼女には強靭な精神力がある。フェリーナ達に虐げられながらも、その心はまったく折れていない。ただ真っ直ぐに、未来を見ているのだ。

 そんな彼女の様子に、私は思わず笑みを浮かべてしまった。
 フェリーナは、きっとあの時自分が圧倒的に優位に立っていると思っていただろう。私もそう思っていたし、客観的に見れば確かにそうだ。
 だが、それは勘違いだったのである。ソルネアは、フェリーナに決して負けていなかった。今真っ直ぐに背筋を伸ばしている彼女の精神が、それを表している。
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