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7.抑えられない怒り

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「ふん、田舎者の新人メイドが調子に乗っているんじゃないわよ」
「あんたもあそこにいる奴と同じ目に合わせてあげましょうか?」
「あなた達如き、そのようなことができるとは思いませんけれど」

 口振りからして、ここにいるのは貴族の令嬢達ということなのだろう。
 貴族の地位を誇示して、平民を馬鹿にする。私が一番嫌いなタイプだ。
 こんな人達の好きにさせてはいけない。私の中で、その想いはどんどんと高まっていく。

「本当に生意気ね……あなた、誰に口を聞いているかわかっているの?」
「すみません。まだ入ったばかりで、生憎顔を覚えていないのです」
「……本当に愚かな女ね。それなら、覚えておきなさい。私は、フェリーナ・アナキシス。アナキシス子爵家の令嬢よ?」
「なるほど」

 私の目の前に出てきたのは、恐らくリーダー格の令嬢であるだろう。
 そんな彼女は、私の前で胸を張る。子爵家の令嬢であることを誇っているといった所か。
 しかしながら、彼女は誇れることなんて何もしていない。むしろ、子爵家の品位を貶める行為しかしていないのだ。

「何よ? その反応は。あなたとは身分が違うのよ。頭を垂れて、跪きなさい。この私に逆らったことを謝罪するのよ?」
「みっともないとは思わないんですか? 貴族という恵まれた地位にありながら、平民を貶めるなんて品位の欠片もない行いです」
「なんですって?」
「そんなこともわからないというなら、アナキシス子爵家の品位もたかが知れているということでしょうか? まあ、碌でもない貴族なのでしょうね」

 私の口は、ほぼ勝手に言葉を紡いでいた。
 それは私の悪い癖である。それがわかっていながらも、最早自分を止められなかった。それ程に、私は目の前にいるフェリーナに怒っていたのだ。

「図に乗っているんじゃないわよ! この田舎の貧乏メイドがあっ!」
「……」
「なっ……」

 フェリーナは、激昂して私に手を振るってきた。
 そんな彼女の腕を私は、掴み取る。非常に単調な動きであったため、いとも簡単に捉えることができた。

「は、離しなさいっ! 汚らわしい下民如きが、私に触れるんじゃないわよ!」
「あなたのような人が、私は嫌いです」
「あなたの好みなんて、聞いていないわよっ!」

 そこでフェリーナは、もう片方の手を振るってきた。
 しかし私は、それも受け止める。するとフェリーナは、驚いたような顔をする。

「な、何なのよ、あなた……」
「メイドですよ。田舎者のメイドです」
「力だけは達者ということかしら。野蛮な田舎者らしいわね……」

 両手を封じられても、フェリーナはまだまだ勝気であった。
 恐らく彼女のこの気質は、死ぬまで変わらないのだろう。いや、もしかしたら死んでも変わらないのかもしれない。
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