1 / 18
1.特異な提案
しおりを挟む
「ラメリア、お前にはバルドリュー伯爵家でメイドとして働いてもらう」
「はい?」
父の言葉に、私は少し上ずった声で答えることになった。
しかしそれは、当然の反応であるといえるだろう。なぜならお父様が言っていることは、まったくもって意味がわからないことだからだ。
「どうして私が伯爵家のメイドなんかしなければならないんですか? 公爵家の令嬢が他家のそれも地位が低い家に奉仕するなんて聞いたことがありませんよ」
「ああ、確かに珍しいことではあるかもしれないな。だが、お前にはそれが必要だ」
「仰っていることの意味がわかりませんね?」
貴族の令嬢が、より身分の高い家にメイドとして働きに行くということは、私も聞いたことがある。
だが公爵家の令嬢である私が、伯爵家に仕えるなんて信じられることではない。
「王家や、せめて同じ公爵家であるならば、まだ私も納得することができますが、地位が低い伯爵家に仕えるというのは納得できません。それはお父様にとっても、屈辱的なことではありませんか? エルヴェルト公爵家の名を落とすことになりますよ?」
「バルドリュー伯爵家は、エルヴェルト公爵家の遠縁にあたる家だ。故にお前のことは、公にはならんさ」
「どこから漏れるかわからないでしょうに……」
お父様の頑なな態度に、私は少し怒りを覚えていた。
どうしてそこまで、私をメイドとして働かせたいのだろうか。その真意を早く話してもらいたい。
「お父様、私を伯爵家でメイドとして働かせたい理由を話してください。それを明確にしていただかなければ、納得することなんてできませんよ」
「もちろん元より話すつもりだったさ……ラメリア、お前は優しい子だ」
「え?」
そこで私は、少し勢いを失うことになった。
お父様の言葉が、予想外のものだったためである。
まさか、今このタイミングでそんなことを言われるとは思っていなかった。なんだか少し照れ臭くて、お父様から目をそらしてしまう。
「しかし、お前はその優しさ故に鬼を心に宿している。それはお前も、自覚しているのではないだろうか?」
「鬼……」
「私はお前に、その狂暴な一面を抑える術を身に着けて欲しいと思っている。しかしそれは、ここでは成し遂げられないものだ。私はそう判断した」
「……」
お父様が何を言っているのか、私は理解していた。
確かに、私は怒ると周りが見えなくなってしまうことがある。それは私の悪い癖であるだろう。
伯爵家に勤めることが、それを矯正する手段になるのかは、少しわからない。しかしそれでも、それがお父様が悩んだ結果であることは、その表情からわかった。
「……わかりました。お父様がそこまで言うなら、その提案を受け入れましょう」
「そう言ってもらえると、こちらとしてもありがたいよ」
結局私は、お父様からの提案を受け入れることにした。
考えた結果、何か見えてくるものがあるかもしれないと思ったからだ。
こうして私は、遠縁の伯爵家にメイドとして奉仕することになったのだった。
「はい?」
父の言葉に、私は少し上ずった声で答えることになった。
しかしそれは、当然の反応であるといえるだろう。なぜならお父様が言っていることは、まったくもって意味がわからないことだからだ。
「どうして私が伯爵家のメイドなんかしなければならないんですか? 公爵家の令嬢が他家のそれも地位が低い家に奉仕するなんて聞いたことがありませんよ」
「ああ、確かに珍しいことではあるかもしれないな。だが、お前にはそれが必要だ」
「仰っていることの意味がわかりませんね?」
貴族の令嬢が、より身分の高い家にメイドとして働きに行くということは、私も聞いたことがある。
だが公爵家の令嬢である私が、伯爵家に仕えるなんて信じられることではない。
「王家や、せめて同じ公爵家であるならば、まだ私も納得することができますが、地位が低い伯爵家に仕えるというのは納得できません。それはお父様にとっても、屈辱的なことではありませんか? エルヴェルト公爵家の名を落とすことになりますよ?」
「バルドリュー伯爵家は、エルヴェルト公爵家の遠縁にあたる家だ。故にお前のことは、公にはならんさ」
「どこから漏れるかわからないでしょうに……」
お父様の頑なな態度に、私は少し怒りを覚えていた。
どうしてそこまで、私をメイドとして働かせたいのだろうか。その真意を早く話してもらいたい。
「お父様、私を伯爵家でメイドとして働かせたい理由を話してください。それを明確にしていただかなければ、納得することなんてできませんよ」
「もちろん元より話すつもりだったさ……ラメリア、お前は優しい子だ」
「え?」
そこで私は、少し勢いを失うことになった。
お父様の言葉が、予想外のものだったためである。
まさか、今このタイミングでそんなことを言われるとは思っていなかった。なんだか少し照れ臭くて、お父様から目をそらしてしまう。
「しかし、お前はその優しさ故に鬼を心に宿している。それはお前も、自覚しているのではないだろうか?」
「鬼……」
「私はお前に、その狂暴な一面を抑える術を身に着けて欲しいと思っている。しかしそれは、ここでは成し遂げられないものだ。私はそう判断した」
「……」
お父様が何を言っているのか、私は理解していた。
確かに、私は怒ると周りが見えなくなってしまうことがある。それは私の悪い癖であるだろう。
伯爵家に勤めることが、それを矯正する手段になるのかは、少しわからない。しかしそれでも、それがお父様が悩んだ結果であることは、その表情からわかった。
「……わかりました。お父様がそこまで言うなら、その提案を受け入れましょう」
「そう言ってもらえると、こちらとしてもありがたいよ」
結局私は、お父様からの提案を受け入れることにした。
考えた結果、何か見えてくるものがあるかもしれないと思ったからだ。
こうして私は、遠縁の伯爵家にメイドとして奉仕することになったのだった。
11
お気に入りに追加
625
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された私は、世間体が悪くなるからと家を追い出されました。そんな私を救ってくれたのは、隣国の王子様で、しかも初対面ではないようです。
冬吹せいら
恋愛
キャロ・ブリジットは、婚約者のライアン・オーゼフに、突如婚約を破棄された。
本来キャロの味方となって抗議するはずの父、カーセルは、婚約破棄をされた傷物令嬢に価値はないと冷たく言い放ち、キャロを家から追い出してしまう。
ありえないほど酷い仕打ちに、心を痛めていたキャロ。
隣国を訪れたところ、ひょんなことから、王子と顔を合わせることに。
「あの時のお礼を、今するべきだと。そう考えています」
どうやらキャロは、過去に王子を助けたことがあるらしく……?
聖女ですが、大地の力を授かったので、先手を打って王族たちを国外追放したら、国がとってもスッキリしました。
冬吹せいら
恋愛
聖女のローナは、大地の怒りを鎮めるための祈りに、毎回大金がかかることについて、王族や兵士たちから、文句ばかり言われてきた。
ある日、いつものように祈りを捧げたところ、ローナの丁寧な祈りの成果により、大地の怒りが完全に静まった。そのお礼として、大地を司る者から、力を授かる。
その力を使って、ローナは、王族や兵士などのムカつく連中を国から追い出し……。スッキリ綺麗にすることを誓った。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
無能と罵られた私だけど、どうやら聖女だったらしい。
冬吹せいら
恋愛
魔法学園に通っているケイト・ブロッサムは、最高学年になっても低級魔法しか使うことができず、いじめを受け、退学を決意した。
村に帰ったケイトは、両親の畑仕事を手伝うことになる。
幼いころから魔法学園の寮暮らしだったケイトは、これまで畑仕事をしたことがなく、畑に祈りを込め、豊作を願った経験もなかった。
人生で初めての祈り――。そこで彼女は、聖女として目覚めるのだった。
ムカつく悪役令嬢の姉を無視していたら、いつの間にか私が聖女になっていました。
冬吹せいら
恋愛
侯爵令嬢のリリナ・アルシアルには、二歳上の姉、ルルエがいた。
ルルエはことあるごとに妹のリリナにちょっかいをかけている。しかし、ルルエが十歳、リリナが八歳になったある日、ルルエの罠により、酷い怪我を負わされたリリナは、ルルエのことを完全に無視することにした。
そして迎えた、リリナの十四歳の誕生日。
長女でありながら、最低級の適性を授かった、姉のルルエとは違い、聖女を授かったリリナは……。
弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!
冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。
しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。
話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。
スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。
そこから、話しは急展開を迎える……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる