上 下
16 / 22

16.聖女の成長

しおりを挟む
 エレティナ様は、今日も国民達の前に立っていた。
 力を定期的に見せるというのも、聖女の使命の一つだ。
 はっきりと言って、聖女の業務で一番技量が必要なのは、ここである。皆が驚くような魔法を見せるのは、とても難しい。

 しかし、エレティナ様の実力は最近メキメキと伸びている。
 彼女の成長の度合いは、私の予想以上だ。彼女ならもしかしたら、既にその領域に達しているかもしれない。

「……期待を込めた眼差しをしていますね?」
「あ、フォルード殿下」
「エレティナのことを見ていてくれているのですね。とてもありがたく思います」

 そんな私の傍に、フォルード殿下がやって来た。
 彼は、エレティナ様に温かい視線を向けている。多分、私も同じような顔をしていたのだろう。フォルード殿下にも、悟られたようだし。

「……彼女は、妹のようなものですからね。きっと、フォルード殿下と気持ちは同じです。おこがましいとは思いますけれど」
「いえ、おこがましいなんてことはありませんよ。事実として、彼女もあなたのことを姉のように慕っているみたいですから。そうですね。きっと気持ちは同じなのでしょう」

 フォルード殿下は、私の言葉を受け入れてくれた。
 ことがことなので、正直な気持ちを言うのは少し怖かった。そのため、快く受け入れてもらえたことは安心できる。

「期待をしているんですか?」
「ええ、期待をしています。彼女ならきっと、私の補助なんていらなくなります」
「そうなれるのでしょうか?」
「その才能はあります。もしかしたら既に、開花しているかもしれません」

 私達の目の前で、エレティナ様は杖を掲げた。
 すると、上空に雲が現れ始める。彼女が最初にやったのと同じ魔法だ。
 あの時は、小雨しか降らせることしかできなかった。今の彼女なら、それ以上のことは絶対にできる。

「おお、雨がっ……」
「これは……」

 私とフォルード殿下の視線の先で、雨が降り始めた。
 その雨は、どんどんと勢いを増している。当然、私は手出ししていない。

「あ、雨が……」
「これが聖女の奇跡……」
「す、すごい、あの日以上じゃないか?」
「エ、エレティナ様はまだまだ成長途中ということなのか……」

 国民達も、騒ぎ始めていた。
 彼らが言っている通り、雨の量は私が手助けした時以上だ。
 正直、私も驚いている。まさか、エレティナ様がここまで成長しているとは思っていなかった。
 ただ、同時にとても誇らしい。私が育てたとまでは言わないが、彼女の成長に関わった一人として胸を張ることができた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~

アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」  突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!  魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。 「これから大災厄が来るのにね~」 「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」  妖精の声が聞こえる私は、知っています。  この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。  もう国のことなんて知りません。  追放したのはそっちです!  故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね! ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

お姉様に押し付けられて代わりに聖女の仕事をする事になりました

花見 有
恋愛
聖女である姉へレーナは毎日祈りを捧げる聖女の仕事に飽きて失踪してしまった。置き手紙には妹のアメリアが代わりに祈るように書いてある。アメリアは仕方なく聖女の仕事をする事になった。

義妹に婚約者を奪われて国外追放された聖女は、国を守護する神獣様に溺愛されて幸せになる

アトハ
恋愛
◆ 国外追放された聖女が、国を守護する神獣に溺愛されて幸せになるお話 ※ 他の小説投稿サイトにも投稿しています

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~

日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。 田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。 成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。 「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」 彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で…… 一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。 国王や王女は気づいていない。 自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。 小説家になろうでも短編として投稿してます。

王子が元聖女と離縁したら城が傾いた。

七辻ゆゆ
ファンタジー
王子は庶民の聖女と結婚してやったが、関係はいつまで経っても清いまま。何度寝室に入り込もうとしても、強力な結界に阻まれた。 妻の務めを果たさない彼女にもはや我慢も限界。王子は愛する人を妻に差し替えるべく、元聖女の妻に離縁を言い渡した。

【完結】婚約破棄された聖女はもう祈れない 〜妹こそ聖女に相応しいと追放された私は隣国の王太子に拾われる

冬月光輝
恋愛
聖女リルア・サウシールは聖地を領地として代々守っている公爵家の嫡男ミゲルと婚約していた。 リルアは教会で神具を用いて祈りを捧げ結界を張っていたのだが、ある日神具がミゲルによって破壊されてしまう。 ミゲルに策謀に嵌り神具を破壊した罪をなすりつけられたリルアは婚約破棄され、隣国の山中に追放処分を受けた。 ミゲルはずっとリルアの妹であるマリアを愛しており、思惑通りマリアが新たな聖女となったが……、結界は破壊されたままで獰猛になった魔物たちは遠慮なく聖地を荒らすようになってしまった。 一方、祈ることが出来なくなった聖女リルアは結界の維持に使っていた魔力の負担が無くなり、規格外の魔力を有するようになる。 「リルア殿には神子クラスの魔力がある。ぜひ、我が国の宮廷魔道士として腕を振るってくれないか」 偶然、彼女の力を目の当たりにした隣国の王太子サイラスはリルアを自らの国の王宮に招き、彼女は新たな人生を歩むことになった。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

処理中です...