上 下
14 / 16

14.父親としての言葉

しおりを挟む
「アルフォール王国から、王子が?」
「ああ、そういうことになっている」
「そ、そうですか」

 私は、ギルーゼ殿下とガルトリア王国の国王様の前で、話を聞いていた。
 二人曰く、こちらの国にアルフォール王国の第一王子アヴァト殿下が来るというのである。
 友好国であるアルフォール王国も、クルセルド殿下の回復を祝いに来るようだ。

 しかしそれは、わざわざ私を玉座の間まで呼び出して言うことではないだろう。
 恐らく今回の呼び出しには、もう一つ理由があるはずだ。それに関して、私は心当たりしかない。

「アラーシャ、クルセルドを救った立役者として、君もアヴァト殿下から声をかけられることになると思う」
「私が、ですか?」
「アヴァト殿下と面識などはないのだろうか? 薬師として、仕事をしたりは……」
「したことはありません。あちらの国では、生まれた村で仕事をしていただけです」
「そうか……」

 自国の王太子と話すということには、やはり緊張する。
 ギルーゼ殿下やクルセルド殿下には少し慣れた訳だが、やはり王族と接するのには恐怖がある。そんな人達ではないということはわかっているつもりなのだが、無礼なことをして大変なことになるかもしれないからだ。

「えっと、お話はそれだけ、ですか?」
「ああ」
「え?」
「うん?」

 私は質問に対するギルーゼ殿下の答えに、思わず驚いてしまった。
 先程無礼がないように気をつけなければならないと思ったばかりなのに、これではいけない。もう少し気を引き締めなければ。
 しかし、これで話が終わりなんて驚きだ。てっきり、私との結婚のことなどを話すと思っていたのだが、そうではないのだろうか。

「……アラーシャ殿は、お前がした提案のことが気になっているのだろう」
「む、それは……」
「まったく、お前という奴は少し向こう見ずな所がある。そういった所は、誰に似たのだか……」

 そこで、ずっと黙っていた国王様が口を開いた。
 その呆れたような口調は、以前見た威厳のある王様といった感じではない。以前は公人として振る舞っており、今は父親としての言葉ということだろうか。

「アラーシャ殿、倅がすまないな」
「い、いえ、別に私は……」
「しかし、倅が真摯な思いを持っているということは信じてやってくれ。同時に、私は今回の結婚について反対はしていないことも言っておく」
「え?」

 そこで国王様は、驚くべき言葉をかけてきた。
 まさか、彼までも反対していないとは意外だ。この国の王族達は、皆結構軽い感じなのだろうか。

「私も、息子を救ってくれたアラーシャ殿には感謝している。改めて礼を言おう。本当にありがとう、アラーシャ殿」
「い、いえ……」

 国王様は、私にゆっくりと頭を下げてきた。
 それは、父親としての真摯な言葉だった。やはり彼も、クルセルド殿下のことが心配だったのだろう。私は国王様のお礼の言葉に、そう思うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。 誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。 でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。 このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。 そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語 執筆済みで完結確約です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています

中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。

王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。

花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。 フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。 王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。 王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。 そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。 そして王宮の離れに連れて来られた。 そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。 私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い! そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。 ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば
恋愛
ビリビリッ! 「む……、胸がぁぁぁッ!!」 「陛下、声がでかいです!」 ◆ フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?! 勢い強めの3万字ラブコメです。 全18話、5/5の昼には完結します。 他のサイトでも公開しています。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...