辺境の薬師は隣国の王太子に溺愛されています。

木山楽斗

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14.父親としての言葉

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「アルフォール王国から、王子が?」
「ああ、そういうことになっている」
「そ、そうですか」

 私は、ギルーゼ殿下とガルトリア王国の国王様の前で、話を聞いていた。
 二人曰く、こちらの国にアルフォール王国の第一王子アヴァト殿下が来るというのである。
 友好国であるアルフォール王国も、クルセルド殿下の回復を祝いに来るようだ。

 しかしそれは、わざわざ私を玉座の間まで呼び出して言うことではないだろう。
 恐らく今回の呼び出しには、もう一つ理由があるはずだ。それに関して、私は心当たりしかない。

「アラーシャ、クルセルドを救った立役者として、君もアヴァト殿下から声をかけられることになると思う」
「私が、ですか?」
「アヴァト殿下と面識などはないのだろうか? 薬師として、仕事をしたりは……」
「したことはありません。あちらの国では、生まれた村で仕事をしていただけです」
「そうか……」

 自国の王太子と話すということには、やはり緊張する。
 ギルーゼ殿下やクルセルド殿下には少し慣れた訳だが、やはり王族と接するのには恐怖がある。そんな人達ではないということはわかっているつもりなのだが、無礼なことをして大変なことになるかもしれないからだ。

「えっと、お話はそれだけ、ですか?」
「ああ」
「え?」
「うん?」

 私は質問に対するギルーゼ殿下の答えに、思わず驚いてしまった。
 先程無礼がないように気をつけなければならないと思ったばかりなのに、これではいけない。もう少し気を引き締めなければ。
 しかし、これで話が終わりなんて驚きだ。てっきり、私との結婚のことなどを話すと思っていたのだが、そうではないのだろうか。

「……アラーシャ殿は、お前がした提案のことが気になっているのだろう」
「む、それは……」
「まったく、お前という奴は少し向こう見ずな所がある。そういった所は、誰に似たのだか……」

 そこで、ずっと黙っていた国王様が口を開いた。
 その呆れたような口調は、以前見た威厳のある王様といった感じではない。以前は公人として振る舞っており、今は父親としての言葉ということだろうか。

「アラーシャ殿、倅がすまないな」
「い、いえ、別に私は……」
「しかし、倅が真摯な思いを持っているということは信じてやってくれ。同時に、私は今回の結婚について反対はしていないことも言っておく」
「え?」

 そこで国王様は、驚くべき言葉をかけてきた。
 まさか、彼までも反対していないとは意外だ。この国の王族達は、皆結構軽い感じなのだろうか。

「私も、息子を救ってくれたアラーシャ殿には感謝している。改めて礼を言おう。本当にありがとう、アラーシャ殿」
「い、いえ……」

 国王様は、私にゆっくりと頭を下げてきた。
 それは、父親としての真摯な言葉だった。やはり彼も、クルセルド殿下のことが心配だったのだろう。私は国王様のお礼の言葉に、そう思うのだった。
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