辺境の薬師は隣国の王太子に溺愛されています。

木山楽斗

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11.真っ直ぐな好意

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 親愛なるお祖母様、お元気でしょうか。
 亡くなったあなたに、そのような質問をするのが正しいのかどうかはわかりませんが、健やかに暮らしていることを願っています。

 そちらで父と母と再会することは、できましたでしょうか?
 もしも再会できていたら、私は元気にやっているとお伝えください。

 ただ実の所、今私はとても困っています。
 先日、ガルトリア王国のクルセルド殿下を薬師として助けたのですが、その後に彼の兄であるギルーゼ殿下から、求婚されました。

 何を言っているのかわからないとは思いますが、私は隣国の王太子様から、妻になって欲しいと言われたのです。
 当然のことながら、私は一平民でしかありません。だというのに、ギルーゼ殿下は何を思ったのか、私に求婚してきたのです。

「……何が起こっているのか、さっぱりわからない」

 お祖母様に宛てた手紙の体で、私は状況を整理していた。
 改めて振り返ってみても、今の状況は不可解であるとしか言いようがない。
 何故私は、隣国の王太子から求婚されているのだろうか。それがまったくわからなかった。

『……何を言っているんですか?』
『言葉通りだ。俺は君を妻として迎えたい』
『あの……私は、ただの平民ですよ? 王族とか貴族とかではありません。そんな私を妻として迎え入れられる訳がないではありませんか』

 求婚されて最初に思ったことは、身分のことだった。
 王族である彼と平民である私は、国が違うことを考慮しても、とても結婚することなんてできない。
 もちろん愛人などという手もあるのだろうが、ギルーゼ殿下の口振りはそんな感じでもなさそうだった。彼は明らかに、私を本妻として迎えようとしていた。

『その辺りについては、上手くやる。こう見えても、腹芸は得意だからな』
『いや、流石に無理でしょう』
『今ここで重要なのは、俺が君に惚れ込んでいるという事実だ。どうか俺とともに、この国を守ってはくれないか?』
『急にそんなことを言われても……困ります』

 ギルーゼ殿下は、好感が持てる人である。そんな彼から思われているという事実は、素直に嬉しかった。
 仮に彼がただの平民であったなら、私はその告白を受け止められたかもしれない。
 しかし残念ながら、彼が隣国の王子であるということは紛れもない事実だ。である以上、私はその告白を受け止めることはできない。

『私達には、身分の差があるではありませんか。私が隣国の出身者であっても、その差は埋められないものであると認識しています』
『要するに君は、身分の差によって婚約ができないと言いたい訳か……それが解決できたら、改めて考えてもらえるのだろうか?』
『解決なんて、できないと思いますが……』
『さて、それはどうだろうか?』

 私に対して、ギルーゼ殿下は意味深な笑みを浮かべていた。
 その笑みが何を意味するのかはわからない。ただ何かを企んでいることは明らかだ。

 これから私はしばらく、ガルトリア王国で過ごすことになる。クルセルド殿下の経過観察を念のためしなければならないからだ。
 その仕事を放り出すつもりは毛頭ないのだが、これからが少し心配である。ギルーゼ殿下の告白を受けて、私はとても微妙な気持ちで過ごすのだった。
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