9 / 16
9.自信を持って
しおりを挟む
私とギルーゼ殿下は、クルセルド殿下の前に立っていた。
私の手には、薬の瓶がある。それは私が調合した石化を解く薬だ。
「……アラーシャ、本当に大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。実験が成功したのは、ギルーゼ殿下も見ていましたよね?」
「ああ、そうだが……しかし、不安なのだ」
いつも強気だったギルーゼ殿下は、この段階において、少し怯えているようだった。
弟思いの彼は、この薬に本当に効果があるか不安で仕方ないのだろう。それは当然のことだ。大抵の場合、こうなるのが普通である。
だから私は、堂々と振る舞う。ギルーゼ殿下から、不安を拭うためにも。
私は今回の薬に、絶対の自信を持っている。ネズミでの実験も成功したし、まず間違いなく石化を解くことはできる。
そもそも、薬師が自分の作った薬の効果を疑うことなんてない。調合した薬に自信が持てないようなら、その人は薬師を名乗るべきではないだろう。
「ギルーゼ殿下、あなたの心が決まるまで、待ちたい所ですが、クルセルド殿下の容体がいつ変わるかわかりません。薬を使わせてもらいます」
「……もちろん、そうしてくれ。同意については、もうしている」
「はい。それでは、失礼します」
私は、薬を立たせたクルセルド殿下の頭の上からゆっくりとかけた。
すると、彼の体を薬が伝っていく。
「うっ……」
「クルセルド? 気付いたのか?」
「ギルーゼ殿下、あくまで彼の後方にいてください。クルセルド殿下、私は薬師のアラーシャと申します。私の言葉が聞こえていたら、できれば目を瞑っていただきたいのです。あなたの視線には、生物を固まらせる効果があるかもしれません。目を瞑って、こちらを向いてください」
薬の効果は、すぐに出た。
クルセルド殿下が、言葉を発し始めたのである。
魔物返りの疑惑があるため、彼と正面から向き合うことはできない。そうなった場合、私やギルーゼ殿下まで石化してしまう。
「……わかっています、アラーシャさん。意識はずっとありました。ぼんやりとですが」
「そうですか……」
「魔物返り、と言いましたか。にわかには信じられませんが、確かにそうなのでしょうね。僕は鏡を見て、固まった」
「クルセルド……」
クルセルド殿下は、ゆっくりと体を動かし始めた。
恐らく、調子を確かめているのだろう。
それにギルーゼ殿下は、嬉しそうに笑顔を浮かべている。ずっと固まっていた弟が動き出したのだから、それも当然だろうか。
「ありがとうございます、アラーシャさん。お陰で助かりました。しかし奇妙ですね。固まっていた時にはあなたの顔を見られたのに、今は見えないなんて」
「ええ、そうかもしれませんね……」
クルセルド殿下は、近くにあった布を目を隠すように身に着けて、私達の方を向いた。
彼の石化は、解けたようだ。確信していたことではあるのだが、それでもやはり安心する。薬に効果があって、本当に良かった。
私の手には、薬の瓶がある。それは私が調合した石化を解く薬だ。
「……アラーシャ、本当に大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。実験が成功したのは、ギルーゼ殿下も見ていましたよね?」
「ああ、そうだが……しかし、不安なのだ」
いつも強気だったギルーゼ殿下は、この段階において、少し怯えているようだった。
弟思いの彼は、この薬に本当に効果があるか不安で仕方ないのだろう。それは当然のことだ。大抵の場合、こうなるのが普通である。
だから私は、堂々と振る舞う。ギルーゼ殿下から、不安を拭うためにも。
私は今回の薬に、絶対の自信を持っている。ネズミでの実験も成功したし、まず間違いなく石化を解くことはできる。
そもそも、薬師が自分の作った薬の効果を疑うことなんてない。調合した薬に自信が持てないようなら、その人は薬師を名乗るべきではないだろう。
「ギルーゼ殿下、あなたの心が決まるまで、待ちたい所ですが、クルセルド殿下の容体がいつ変わるかわかりません。薬を使わせてもらいます」
「……もちろん、そうしてくれ。同意については、もうしている」
「はい。それでは、失礼します」
私は、薬を立たせたクルセルド殿下の頭の上からゆっくりとかけた。
すると、彼の体を薬が伝っていく。
「うっ……」
「クルセルド? 気付いたのか?」
「ギルーゼ殿下、あくまで彼の後方にいてください。クルセルド殿下、私は薬師のアラーシャと申します。私の言葉が聞こえていたら、できれば目を瞑っていただきたいのです。あなたの視線には、生物を固まらせる効果があるかもしれません。目を瞑って、こちらを向いてください」
薬の効果は、すぐに出た。
クルセルド殿下が、言葉を発し始めたのである。
魔物返りの疑惑があるため、彼と正面から向き合うことはできない。そうなった場合、私やギルーゼ殿下まで石化してしまう。
「……わかっています、アラーシャさん。意識はずっとありました。ぼんやりとですが」
「そうですか……」
「魔物返り、と言いましたか。にわかには信じられませんが、確かにそうなのでしょうね。僕は鏡を見て、固まった」
「クルセルド……」
クルセルド殿下は、ゆっくりと体を動かし始めた。
恐らく、調子を確かめているのだろう。
それにギルーゼ殿下は、嬉しそうに笑顔を浮かべている。ずっと固まっていた弟が動き出したのだから、それも当然だろうか。
「ありがとうございます、アラーシャさん。お陰で助かりました。しかし奇妙ですね。固まっていた時にはあなたの顔を見られたのに、今は見えないなんて」
「ええ、そうかもしれませんね……」
クルセルド殿下は、近くにあった布を目を隠すように身に着けて、私達の方を向いた。
彼の石化は、解けたようだ。確信していたことではあるのだが、それでもやはり安心する。薬に効果があって、本当に良かった。
231
お気に入りに追加
549
あなたにおすすめの小説
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています
中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~
Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが…
※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。
※設定はふんわり、ご都合主義です
小説家になろう様でも掲載しています
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる