辺境の薬師は隣国の王太子に溺愛されています。

木山楽斗

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9.自信を持って

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 私とギルーゼ殿下は、クルセルド殿下の前に立っていた。
 私の手には、薬の瓶がある。それは私が調合した石化を解く薬だ。

「……アラーシャ、本当に大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。実験が成功したのは、ギルーゼ殿下も見ていましたよね?」
「ああ、そうだが……しかし、不安なのだ」

 いつも強気だったギルーゼ殿下は、この段階において、少し怯えているようだった。
 弟思いの彼は、この薬に本当に効果があるか不安で仕方ないのだろう。それは当然のことだ。大抵の場合、こうなるのが普通である。
 だから私は、堂々と振る舞う。ギルーゼ殿下から、不安を拭うためにも。

 私は今回の薬に、絶対の自信を持っている。ネズミでの実験も成功したし、まず間違いなく石化を解くことはできる。
 そもそも、薬師が自分の作った薬の効果を疑うことなんてない。調合した薬に自信が持てないようなら、その人は薬師を名乗るべきではないだろう。

「ギルーゼ殿下、あなたの心が決まるまで、待ちたい所ですが、クルセルド殿下の容体がいつ変わるかわかりません。薬を使わせてもらいます」
「……もちろん、そうしてくれ。同意については、もうしている」
「はい。それでは、失礼します」

 私は、薬を立たせたクルセルド殿下の頭の上からゆっくりとかけた。
 すると、彼の体を薬が伝っていく。

「うっ……」
「クルセルド? 気付いたのか?」
「ギルーゼ殿下、あくまで彼の後方にいてください。クルセルド殿下、私は薬師のアラーシャと申します。私の言葉が聞こえていたら、できれば目を瞑っていただきたいのです。あなたの視線には、生物を固まらせる効果があるかもしれません。目を瞑って、こちらを向いてください」

 薬の効果は、すぐに出た。
 クルセルド殿下が、言葉を発し始めたのである。
 魔物返りの疑惑があるため、彼と正面から向き合うことはできない。そうなった場合、私やギルーゼ殿下まで石化してしまう。

「……わかっています、アラーシャさん。意識はずっとありました。ぼんやりとですが」
「そうですか……」
「魔物返り、と言いましたか。にわかには信じられませんが、確かにそうなのでしょうね。僕は鏡を見て、固まった」
「クルセルド……」

 クルセルド殿下は、ゆっくりと体を動かし始めた。
 恐らく、調子を確かめているのだろう。
 それにギルーゼ殿下は、嬉しそうに笑顔を浮かべている。ずっと固まっていた弟が動き出したのだから、それも当然だろうか。

「ありがとうございます、アラーシャさん。お陰で助かりました。しかし奇妙ですね。固まっていた時にはあなたの顔を見られたのに、今は見えないなんて」
「ええ、そうかもしれませんね……」

 クルセルド殿下は、近くにあった布を目を隠すように身に着けて、私達の方を向いた。
 彼の石化は、解けたようだ。確信していたことではあるのだが、それでもやはり安心する。薬に効果があって、本当に良かった。
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