辺境の薬師は隣国の王太子に溺愛されています。

木山楽斗

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8.偉大なる師には

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 石化を解く薬について記されている文献は、いくつかあった。
 私はそれらの文献の情報をまとめて、薬の材料と調合方法を割り出した。
 その材料と方法は、私が考えていたものとは少し違う。知識はあったが、祖母も実際に調合したことはなかったらしいし、正確な情報という訳でもなかったようだ。

「調べてみて良かったと心から思います。祖母から教えてもらった材料と方法でやっていたら、まったく違う薬ができていたかもしれません」
「そういうものなのか?」
「ええ、材料を調合する量によって左右されることもありますし……」
「なるほど……」

 材料と調合方法がわかったら、後は調合するだけである。
 という訳で、私は薬の調合の準備を進めていた。
 当然のことながら、ガルトリア王国の王城には調合をするための設備なんてない。そのため今は、王城にいる人達に色々と持って来てもらっている。

「あなたは、優れた薬師であるようだな……」
「え?」
「分析力があり、それでいて冷静だ。その年で既に職人の域に達している。俺はあなたのことを尊敬する」
「……ありがとうございます。でも、私はなんてまだまだですよ」

 ギルーゼ殿下は、私のことを賞賛してくれた。
 それ自体は、嬉しく思う。ただ、それ程までに褒められる価値が自分にあるかというと、それは微妙な所だ。

「謙遜する必要などないのだぞ?」
「いいえ、本当です。私は、目標である祖母に並べていませんから」
「祖母?」
「私の薬師の師匠です。一昨年亡くなりました。私はその祖母から、薬師のいろはを教わりました。私がいつも、規範としている存在です」
「そうか……それなら、そうなのかもしれないな」

 私の言葉に、ギルーゼ殿下はすぐに納得してくれた。
 私はまだ、師匠を超えられていない。そんな私は、まだギルーゼ殿下の賞賛を受けるべきではない。少なくとも、今回の件を解決できるまでは。

「祖母はいつもは優しい人でしたが、薬師として教える時はとても厳しい人でした。それは薬師が調合に失敗するということは、生死に関わることだからです」
「生死か……確かに、薬とは時に毒にもなると聞いている」
「ええ、ですから私は、薬を調合する時には慎重を喫します。もちろん急を要する時は、そうできないこともありますが……」
「それは……」

 私は、事前に頼んでおいたネズミが入ったゲージを手に取った。
 今回そのネズミには、重要な役割がある。

「今回は、ギルーゼ殿下の血を使って二種類の薬を作ります。一つは石化を解く薬、もう一つは石化させる薬です」
「……そのネズミで、実験を行うということか?」
「はい。まずは石化できるか、ということからですが……」

 とりあえず一つ一つ試していくしかないというのが、現状だ。
 ただ、それ程時間があるという訳ではない。実の所、石化に関する薬を調べる中で、石化そのものについてもわかったのだ。

「クルセルド殿下は、既に一か月近く石化しています。石化を解いた生還した例は、最長で一年……ですが、一か月で亡くなった例もあります」
「……脈や温もりが感じられている故に、無事は確かだが、いつ何があるかはわからない」
「ええ、余裕なんて持つことはできません。今回の薬で、成果が得られるといいのですが……」
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