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5.一つの説として

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「アラーシャ、無知で申し訳ない。魔物返りとは何なのか、ご教授願えないだろうか?」
「ギルーゼ殿下、学者の中には人類もかつては魔物だったと考える人がいるのです。様々な魔物が交配を繰り返した結果、人類という種族が形成されたと……」
「魔物、だと……」

 ギルーゼ殿下は、目を丸めていた。私の言ったことが、信じられないのだろう。
 人類がどのようにして生まれたのか、それには様々な学説がある。
 ただ、今私が言ったのはあまり信じられていないものだ。いや、信じたくないものだという方が、正しいだろうか。

「人型に似た魔物は、ギルーゼ殿下も知っているでしょう? それらは人に擬態しようとしたという説もありますが、そもそもそちらが始祖だったのかもしれません」
「……なるほど、考えられないという訳でもないか」
「魔物返りとは、主にその説を前提としたものです。とりあえず前提として、この説があると思ってください」
「心得た」

 ギルーゼ殿下は、柔軟な思考ができる人だった。
 それは私にとって、とても助かることだ。とりあえずでもいいから信じてもらわなければ、今から言うことも説明がしにくくなる。

「人類には稀に、特殊な力を持つ者が生まれることがあります。それらの力は、魔物に酷似していることが多いそうです。魔物返りとは、そういった人達のことを差す言葉です。魔物を起源とする説で考えて、隔世遺伝で先祖の力を使えると……」
「クルセルドも、その状態という訳か?」
「ええ、石化を行使する魔物の中で、メデューサは人類と同じような特徴を持つ魔物です。その性質がクルセルド殿下に現れたと考えれば、この状況は納得できます」
「……確か、その魔物は目を見たら、石化すると言ったな?」

 私の言葉を受けて、ギルーゼ殿下は鏡の方を見た。
 ここまで説明したことによって、彼も理解してくれたらしい。

「つまりクルセルドは、鏡で自分の目を見て石になったということか?」
「ええ、メデューサには鏡が有効であるとも言われていますから、そう考えても良いと思います。突然、力が目覚めたのではないでしょうか?」
「な、なんということだ……」
「ギルーゼ殿下、ここで問題なのは、この件がギルーゼ殿下の力によって引き起こされたということです。彼が魔物の血を引いているなら……」
「……そうか。クルセルドの血があれば」

 私がここまで仮説を立てたのは、今回の件を解決する足掛かりになるかもしれないからだ。
 魔物が引き起こした現象は、その魔物の血や肉によって、治す薬が作れる。クルセルド殿下の血、それは石化を解く糸口かもしれないのだ。
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