4 / 16
4.固まった王子
しおりを挟む
私は、ギルーゼ殿下とともにクルセルド様の部屋に来ていた。
その部屋のベッドの上で、一人の少年は寝転がっている。いや、倒れていると言った方が正しいだろうか。
「クルセルド殿下、初めまして。私は、アラーシャと申します。隣国のアルフォール王国で薬師をやっています。どうか、よろしくお願いします」
「……」
声をかけてみても、当然返答はなかった。
この国の第二王子は、本当に石のように固まっている。それは、祖母から聞いていた現象とそっくりだ。
とはいえ、古代の魔物が起こした現象とこれがまったく同じとも限らない。そのためにもやはり、原因を知りたい所だ。
「……ギルーゼ殿下、クルセルド殿下は一体どこで固まっていたのですか?」
「この辺りだな。着替えてはいた。寝間着はベッドの上に置いてあったが……」
「向きは、どちらに向いていましたか? この姿見の方では、ありませんでしたか?」
「……どうしてわかるのだ?」
ギルーゼ殿下は、私の言葉に驚いていた。
私が何故向きまで言い当てることができたのか、わからなかったからだろう。
ただ、それについては至極簡単なことである。状況から考えて、ギルーゼ殿下は鏡で自分の姿を見たというのが自然だ。
「クルセルド殿下は、寝間着から着替えて、鏡を見たのでしょう。身だしなみを気にするのは、紳士として当然のことです。そして彼は、鏡を見た瞬間に固まった。となると、この鏡に何かが映っていたのではないでしょうか?」
「鏡に映ったということは、部屋のあちら側に何かがいたということか。しかし、この部屋に魔物など入ってくるはずはないのだが」
「ええ、そうですよね……」
私は、ギルーゼ殿下の言葉に頷いた。
第二王子の私室には、ネズミの一匹すら忍び込めないはずだ。こんな場所に魔物が入り込んだとなると、大問題だ。
それなら他の可能性を考えるとしよう。私は、自分の知識を総動員させる。
「……まさか」
「アラーシャ? どうかしたのか?」
「……ギルーゼ殿下、今から私が言うことは、とても無礼なことです。ですが、どうかお許しください。恐らくクルセルド殿下には、魔物返りなのだと思います」
「何?」
私の言葉に対して、ギルーゼ殿下は特に怒りはしなかった。
ただそれは、何を言っているのか理解できていないだけかもしれない。ここはきちんと説明しておくべきだろう。
その結果、私はギルーゼ殿下から怒られるかもしれない。しかし、それで躊躇ってなんかいられない。今は一つでも多くの可能性について考えるべき時だ。
その部屋のベッドの上で、一人の少年は寝転がっている。いや、倒れていると言った方が正しいだろうか。
「クルセルド殿下、初めまして。私は、アラーシャと申します。隣国のアルフォール王国で薬師をやっています。どうか、よろしくお願いします」
「……」
声をかけてみても、当然返答はなかった。
この国の第二王子は、本当に石のように固まっている。それは、祖母から聞いていた現象とそっくりだ。
とはいえ、古代の魔物が起こした現象とこれがまったく同じとも限らない。そのためにもやはり、原因を知りたい所だ。
「……ギルーゼ殿下、クルセルド殿下は一体どこで固まっていたのですか?」
「この辺りだな。着替えてはいた。寝間着はベッドの上に置いてあったが……」
「向きは、どちらに向いていましたか? この姿見の方では、ありませんでしたか?」
「……どうしてわかるのだ?」
ギルーゼ殿下は、私の言葉に驚いていた。
私が何故向きまで言い当てることができたのか、わからなかったからだろう。
ただ、それについては至極簡単なことである。状況から考えて、ギルーゼ殿下は鏡で自分の姿を見たというのが自然だ。
「クルセルド殿下は、寝間着から着替えて、鏡を見たのでしょう。身だしなみを気にするのは、紳士として当然のことです。そして彼は、鏡を見た瞬間に固まった。となると、この鏡に何かが映っていたのではないでしょうか?」
「鏡に映ったということは、部屋のあちら側に何かがいたということか。しかし、この部屋に魔物など入ってくるはずはないのだが」
「ええ、そうですよね……」
私は、ギルーゼ殿下の言葉に頷いた。
第二王子の私室には、ネズミの一匹すら忍び込めないはずだ。こんな場所に魔物が入り込んだとなると、大問題だ。
それなら他の可能性を考えるとしよう。私は、自分の知識を総動員させる。
「……まさか」
「アラーシャ? どうかしたのか?」
「……ギルーゼ殿下、今から私が言うことは、とても無礼なことです。ですが、どうかお許しください。恐らくクルセルド殿下には、魔物返りなのだと思います」
「何?」
私の言葉に対して、ギルーゼ殿下は特に怒りはしなかった。
ただそれは、何を言っているのか理解できていないだけかもしれない。ここはきちんと説明しておくべきだろう。
その結果、私はギルーゼ殿下から怒られるかもしれない。しかし、それで躊躇ってなんかいられない。今は一つでも多くの可能性について考えるべき時だ。
209
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで
嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。
誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。
でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。
このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。
そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語
執筆済みで完結確約です。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。
花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。
フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。
王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。
王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。
そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。
そして王宮の離れに連れて来られた。
そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。
私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い!
そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。
ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる