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4.固まった王子

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 私は、ギルーゼ殿下とともにクルセルド様の部屋に来ていた。
 その部屋のベッドの上で、一人の少年は寝転がっている。いや、倒れていると言った方が正しいだろうか。

「クルセルド殿下、初めまして。私は、アラーシャと申します。隣国のアルフォール王国で薬師をやっています。どうか、よろしくお願いします」
「……」

 声をかけてみても、当然返答はなかった。
 この国の第二王子は、本当に石のように固まっている。それは、祖母から聞いていた現象とそっくりだ。
 とはいえ、古代の魔物が起こした現象とこれがまったく同じとも限らない。そのためにもやはり、原因を知りたい所だ。

「……ギルーゼ殿下、クルセルド殿下は一体どこで固まっていたのですか?」
「この辺りだな。着替えてはいた。寝間着はベッドの上に置いてあったが……」
「向きは、どちらに向いていましたか? この姿見の方では、ありませんでしたか?」
「……どうしてわかるのだ?」

 ギルーゼ殿下は、私の言葉に驚いていた。
 私が何故向きまで言い当てることができたのか、わからなかったからだろう。
 ただ、それについては至極簡単なことである。状況から考えて、ギルーゼ殿下は鏡で自分の姿を見たというのが自然だ。

「クルセルド殿下は、寝間着から着替えて、鏡を見たのでしょう。身だしなみを気にするのは、紳士として当然のことです。そして彼は、鏡を見た瞬間に固まった。となると、この鏡に何かが映っていたのではないでしょうか?」
「鏡に映ったということは、部屋のあちら側に何かがいたということか。しかし、この部屋に魔物など入ってくるはずはないのだが」
「ええ、そうですよね……」

 私は、ギルーゼ殿下の言葉に頷いた。
 第二王子の私室には、ネズミの一匹すら忍び込めないはずだ。こんな場所に魔物が入り込んだとなると、大問題だ。
 それなら他の可能性を考えるとしよう。私は、自分の知識を総動員させる。

「……まさか」
「アラーシャ? どうかしたのか?」
「……ギルーゼ殿下、今から私が言うことは、とても無礼なことです。ですが、どうかお許しください。恐らくクルセルド殿下には、魔物返りなのだと思います」
「何?」

 私の言葉に対して、ギルーゼ殿下は特に怒りはしなかった。
 ただそれは、何を言っているのか理解できていないだけかもしれない。ここはきちんと説明しておくべきだろう。
 その結果、私はギルーゼ殿下から怒られるかもしれない。しかし、それで躊躇ってなんかいられない。今は一つでも多くの可能性について考えるべき時だ。
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