辺境の薬師は隣国の王太子に溺愛されています。

木山楽斗

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2.王族の前で

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 ガルトリア王国の騎士団の要請で、私はその国の王都に来ていた。
 私の目の前には、この国の国王と王太子であるギルーゼ殿下がいる。隣国の王族と対面するなんて、少し前までは考えてもいなかったことだ。田舎の娘であるため、正確な作法などもわからないし、無礼などなければいいのだが。

「よく来てくれた、アラーシャ。俺はギルーゼ、この国の第一王子だ」
「えっと、アラーシャです」
「楽にしてくれていい。あなたは賓客だからな」
「賓客……」

 ギルーゼ殿下の言葉を受けても、私は中々楽にすることはできなかった。
 こんなことを経験したことはないため、どうしていいのかまったくわからない。こんなことになるなら、もっと作法の勉強などしておくべきだっただろうか。

「ここに来るまでの道中で、事情は既に聞いているだろう。しかし、改めて話させてもらいたい。あなたに来てもらったのは、弟のクルセルドのことで相談をしたかったからだ」
「クルセルド殿下のご容態は、どういったものなのでしょうか?」
「弟は石のように固まっている。脈はあるし、体温も平常だ。ただ、体がまったく動かない。瞼も開いたまま……排泄や発汗などもない」
「石化現象、でしょうか……後で実際に見せていただけますか?」
「ああ、もちろんだ」

 クルセルド殿下のことについては、道中の馬車で大まかな事情を教えてもらった。
 彼は今から一か月程前から、石のように固まっているそうだ。
 その現象を私は知っている。以前、お祖母様から聞いたことがあるのだ。

「しかし、石化現象とは一体なんなのだ?」
「古代にいた魔物、バジリスクやコカトリス、メデューサなどといった魔物が引き起こすとされる現象です。その魔物の目を見たら、石のように固まってしまうとか」
「古代の魔物が引き起こす現象に、どうして弟が……」
「それについては、私にもわかりません」

 クルセルド殿下がどうしてそんなことになったのか、それは私には予測できないことだった。
 ただ、それに関しては私の仕事ではない。私が解決するべきなのは、その石化現象の方だ。

「石化現象はとても厄介だと聞いています。治療する魔法は、なかったと」
「ああ、それが問題なのだ。クルセルドは、いかなる魔法を使っても治療できなかった。故に薬師であるあなたを頼ることにしたのだ。薬師は時に、魔法を凌駕することができると聞く」
「ええ、それらの魔物に対抗するために、薬師は薬を作り出しました。ただ、その薬を今すぐに作ることはできません。薬の材料は、それらの現象を引き起こした魔物の血、ですから」
「何……?」

 私はあくまで、淡々と事実を告げた。
 なんとかなると、安請け合いすることはできない。
 今回の問題は、とても難しい問題だ。それを国王様や王太子様にも、理解してもらわなければならない。
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