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9.私の選択

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「あなたが、提案を受け入れてくれて安心しました」
「安心、ですか?」
「ええ、正直な所、この婚約を受け入れてもらえるかどうかは少々自信がなかったものですからね……やはり、文化所か種族も違う国に行くのは難しいことでしょう」

 馬車の中で、レオニア様は私にそんなことを言ってきた。
 結局私は、婚約を受け入れることにした。色々と考えた結果、それが一番いいと思ったのだ。

 この婚約はバルティアス侯爵家に大きな利益をもたらすことになる。大役を背負うことになるが、その分利益も大きいのだ。
 それをみすみす手放すことはない。獣人とは分かり合えるということは、レオニア様と話してわかっていたし、私はこの提案を受け入れるべきだと思ったのだ。

「……さて、そんなあなたに一つお願いしたいことがあるのです」
「はい、なんですか?」
「私とあなたは、お互いに愛し合っているということにしてもらいたいのです」

 そこでレオニア様は、そのようなお願いをしてきた。
 その言葉の意味は、なんとなく理解できた。恐らくそれは、獣人と人間の調和に繋がることなのだろう。

「アピールということですか?」
「ええ、端的に言ってしまえばそういうことになります。契約によって婚約しているということでは、和平の証としては少々弱いですからね……」
「確かに、そうですね。種族を越えた愛というものを表現する必要があるという訳ですか」

 レオニア様の提案は、かなり大事な要素であるだろう。
 契約による婚約と愛し合っての婚約とでは、印象は異なってくる。二つの種族の和平のためには、後者の方が効果的であるだろう。

「でも当然、事情を邪推する人もいますよね……そういう人達も含めて納得させるためには、私とレオニア様が仲が良い様を直接見せる必要がありますか」
「そうしていただけると、こちらとしてはありがたいですね。少々恥ずかしいですが……フェリティア嬢としては、大丈夫なのですか?」
「まあ、恥ずかしさはありますが、それも役目ですからね……」

 人前でそういう様を見せるというのは、中々に恥ずかしいことだ。
 いやそもそもの話、レオニア様とそんな風に接するというのにも恥ずかしさがある。
 本当にそんなことができるのだろうか。私は少々、不安になってきた。

「でも少し練習しておきませんか? いきなりできることではないでしょうし……」
「そうですか?」
「ええ、少しそちらに行かせてもらいますね」

 とりあえず私は、対面していたレオニア様の横に腰掛けてみることにした。
 今後のために、彼と触れ合うことに慣れる。そのための行動を私は開始するのだった。
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