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4.獅子の聞き耳
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「……レオニア様は、先程の話を聞かれていたのですか?」
「……ええ、大まかにではありますが」
私の質問に、レオニア様はゆっくりと頷いた。
そこで私は、ふと彼の耳元を見る。獣人は、人間よりも優れた能力を持っていると聞いたことがある。その大きな耳は、人間よりもいいということなのかもしれない。
「も、申し訳ありません……」
「頭を上げてください。あなたが悪いことをしたという訳ではないでしょう」
「し、しかしながら、彼は私の婚約者です。その横暴さの責任の一端は、私にもあるかと……」
「私はそのようには考えません」
「あっ……」
ゆっくりと頭を下げた私を、レオニア様はゆっくりとその大きな手で押し上げた。
彼の凛々しくも優しい顔が、私の目の前に来る。どうやら彼は、思っていたよりも怒っていないらしい。少なくとも、私に対しては。
「そもそも、私の耳が確かであるならば、あなたと彼はもう婚約者という訳ではないのでしょう?」
「そ、それはそうなのですが、まだ正式に決まったことではないと言いますか……」
「しかし、あなたの気持ちはもう決まっているのでしょう?」
「はい。もうランバス様についていけないとは思っていましたが……」
肩に手を置かれて、私はとあることに気付いていた。
レオニア様の手には、何か柔らかいものがついている。それは恐らく、肉球であるのだろう。
その感触に、私は少しだけ和んでいた。そんな場合ではないというのに、なんだか落ち着くことができていたのだ。
「それならば、何も問題はないでしょう。ただ、この国の第二王子であるランバスの言動は、正直目に余ります」
「そ、そうですよね……」
「私個人としては、別に何を言われても気にはしませんが、彼の言動は大局的に見た時に非常に厄介であると言わざるを得ません。王族や貴族が、あのような考えを大っぴらに口に出せば、必ず不和が生まれます」
「はい。その通りだと思います」
レオニア様は、とても冷静に状況を分析していた。
本当に彼は、大局を見ているのだろう。ランバス様が個人的に獣人を嫌っている。それはどうでもいいことなのだ。問題は彼が、第二王子であるという事実である。
「故に私は、あなたについて来てもらいたい。このことをレピオニア王国の王と相談しなければなりません。証言していただけますか?」
「は、はい。それはもちろん構いませんが……」
「ああ、安心してください。あなたのことは、この私が守ると約束します。その証言によって、あなたに不利益は被せません。私があなたの盾になりましょう」
「そ、それは心強い限りです」
レオニア様の提案を、私は受け入れることにした。
同盟国の王子である彼がこう言ってくれているのだから、特に心配する必要はないだろう。私はただ、事実を国王様に伝えればいいだけだ。
「……ええ、大まかにではありますが」
私の質問に、レオニア様はゆっくりと頷いた。
そこで私は、ふと彼の耳元を見る。獣人は、人間よりも優れた能力を持っていると聞いたことがある。その大きな耳は、人間よりもいいということなのかもしれない。
「も、申し訳ありません……」
「頭を上げてください。あなたが悪いことをしたという訳ではないでしょう」
「し、しかしながら、彼は私の婚約者です。その横暴さの責任の一端は、私にもあるかと……」
「私はそのようには考えません」
「あっ……」
ゆっくりと頭を下げた私を、レオニア様はゆっくりとその大きな手で押し上げた。
彼の凛々しくも優しい顔が、私の目の前に来る。どうやら彼は、思っていたよりも怒っていないらしい。少なくとも、私に対しては。
「そもそも、私の耳が確かであるならば、あなたと彼はもう婚約者という訳ではないのでしょう?」
「そ、それはそうなのですが、まだ正式に決まったことではないと言いますか……」
「しかし、あなたの気持ちはもう決まっているのでしょう?」
「はい。もうランバス様についていけないとは思っていましたが……」
肩に手を置かれて、私はとあることに気付いていた。
レオニア様の手には、何か柔らかいものがついている。それは恐らく、肉球であるのだろう。
その感触に、私は少しだけ和んでいた。そんな場合ではないというのに、なんだか落ち着くことができていたのだ。
「それならば、何も問題はないでしょう。ただ、この国の第二王子であるランバスの言動は、正直目に余ります」
「そ、そうですよね……」
「私個人としては、別に何を言われても気にはしませんが、彼の言動は大局的に見た時に非常に厄介であると言わざるを得ません。王族や貴族が、あのような考えを大っぴらに口に出せば、必ず不和が生まれます」
「はい。その通りだと思います」
レオニア様は、とても冷静に状況を分析していた。
本当に彼は、大局を見ているのだろう。ランバス様が個人的に獣人を嫌っている。それはどうでもいいことなのだ。問題は彼が、第二王子であるという事実である。
「故に私は、あなたについて来てもらいたい。このことをレピオニア王国の王と相談しなければなりません。証言していただけますか?」
「は、はい。それはもちろん構いませんが……」
「ああ、安心してください。あなたのことは、この私が守ると約束します。その証言によって、あなたに不利益は被せません。私があなたの盾になりましょう」
「そ、それは心強い限りです」
レオニア様の提案を、私は受け入れることにした。
同盟国の王子である彼がこう言ってくれているのだから、特に心配する必要はないだろう。私はただ、事実を国王様に伝えればいいだけだ。
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