聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私達は、事件の首謀者であるデグスの説得に当たっていた。
 ヘルゼン様の言葉で、彼は固まっていた。その言葉を信じていいかどうか、心の中で葛藤しているのだろう。

「デグス……彼の言葉を、信じましょう」
「カルリア?」
「お願い……今、ここしかないの」

 そんなデグスに声をかけたのは、カルリアだった。
 私が知っている限りでは、二人は親密な仲だったはずである。
 だから、カルリアは最後の一押しをしようとしているのだろう。デグスが決意できるように。

「私達のために……もう、こんなことはやめて」
「なっ……」

 カルリアの言葉に、デグスは目を丸めて驚いていた。
 その後、彼の表情はゆっくりと穏やかなものに変わっていく。
 それを見れば、答えは出ているようなものだ。彼は、踏み止まることを決意したのである。

「よし、話はまとまったな……」
「あ、レイグス」

 そこで、レイグスが動いていた。
 ビクトンの元に行って、その猿轡を取ってくれたのだ。
 彼がどうしてそのような行動をしたのか、私は少し理解できなかった。そんなに急いで、ビクトンを助けたかったのだろうか。

「よう、俺はレイグスというんだが、喋れるか?」
「はあ、はあ、まったく助けるのが遅いんだよ……」
「そうか、まあ、俺がお前を助けたかどうかは少し考えてもらいたい所だがな……」
「なっ……」

 ビクトンに語りかけた後、レイグスはその拳を振り上げていた。
 そういえば、彼はずっと言っていた。私のために、ビクトンを一発ぶん殴るのだと。

「お待ちください」
「うん?」

 しかし、そんなレイグスの拳は振り下ろされなかった。
 ヘルゼン様が、彼を止めたからである。

「悪いけど止めないでもらえますか?」
「貴族が王族に拳を振るうなど、大問題ですよ?」
「別に、問題になっても構いませんよ。俺は、こいつを一発殴らないと気が済まないので」
「ええ、それはわかります。ですが、私はあなたを裁きたくはありません」

 ヘルゼン様は、ゆっくりとレイグスを諫めた。
 そして、ビクトンの前に立ち、その拳を振り上げる。

「だから……」
「なっ……!」
「私が代わりに、一発殴っておきましょう。それなら、ただの兄弟喧嘩になるだけですから」
「ぶっ……!」

 ヘルゼン様の拳が、ビクトンの頬にぶつかった。
 その衝撃は、相当なものだったようで、第三王子はとても痛そうにしている。
 その光景を見て、私もレイグスも固まった。ヘルゼン様の唐突な行動に、驚いてしまったのだ。
 だが、これが彼なりの気遣いであることにはすぐに気づいた。貴族であるレイグスを庇って、彼はこのようなことをしてくれたのだ。本当に、弟と違って、できた王子様である。
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