聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私は、レイグスと話をしていた。
 だが、なんだか話が噛み合わない。どうやら、彼と私の間には何か認識のずれがあったようである。

「レイグス……何を考えていたの?」
「え?」
 私はてっきり、昼間に言ったことが不安で眠れないと思っていたのだけど、なんだか違う気がするんだ」

 私は、レイグスに認識のずれを確かめることにした。
 恐らく、彼は何か別のことを考えていたのだ。そうでなければ、話の流れがおかしいからである。

「……いや、俺もお前と同じことを思っていたさ。昼間のあの話で、眠れなかったんだろう? 当り前じゃないか。あんな話を聞いて、眠れるはずがない」
「……」

 レイグスは、目が泳いでいた。
 その様子は、明らかに、その発言を否定するものである。彼は、昼間の話のことで眠れなかった訳ではない。何か別の理由があるのだ。

「レイグス、あなたは一体何を考えていたの?」
「だから、俺はお前と同じことを……」
「目が泳いでいるよ? 絶対に、同じことではないよね?」
「くっ……」

 私の指摘に、レイグスは動揺した。
 別に、認識がずれていたからといって、不都合はないだろう。素直に話してくれれば、それで全て解決するはずだ。
 それなのに、彼はそれを隠そうとしている。その事実から、ある程度のことは予測できた。彼は、何かやましいことを考えていたのだ。

「まさか、受付の時みたいに……?」
「ぐっ……」

 そこで、私はある出来事を思い出した。
 そういえば、レイグスは受付で一緒の部屋になることに対して、変な反応をしていたのである。
 別に、そういう反応は嫌という訳ではない。私にも少なからずそういう面はあったため、あまり人のことが言えた立場ではないからだ。
 しかし、あの話をした後の夜に、そんなことを考えていたというなら、話は別である。流石に、話を切り替えるべき時だろう。

「レイグス、いくらなんでも、今はそういうことを考える時ではないよね?」
「し、仕方ないだろう。それを考えていたんだから……」
「あの話を聞いて、そういう方向に思考がどうして行くの?」
「いや、そっちはもう気にしないという方向で定まっただろうが……」

 レイグスの言葉に、私は少し呆れていた。
 もちろん、頭を切り替えらえることは悪いことではない。だが、切り替えた先がそれではあまり尊敬できるものではないだろう。
 そもそも、それも切り替えれば良かったのではないだろうか。レイグスの頭の中が、少しわからない。
 私は、幼馴染の少し不思議な思考回路に頭が痛くなるのだった。
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