聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私は、宿屋の部屋の中でレイグスに自身の考えを話していた。
 この宿屋に、私の部下だった人達が来ている。その事実からは、最悪な事態が想定できるのだ。

「……この宿屋に、部下だった人達の家族が来ているということは、王都で彼等が何かを起こしたのではないかと思うんだ」
「王都で何かを起こす? それって、つまり……」
「多分、抗議するんじゃないかな? しかも、穏やかではない方法で……」
「なっ……」

 私の言葉に、レイグスは驚いていた。
 それは、当然だろう。穏やかではない抗議。それがどのようなものかは、すぐに想像できるはずだ。
 想像できたならば、とても恐ろしい気持ちになるだろう。これから、この国に起こる大きな出来事に対して、心が揺れるのは当たり前のことである。

「そんなことをしたら、大変なことになる。この国が混乱してしまうぞ」
「そこまでする程、追い詰められていたということなのかもしれない」
「追い詰められていたか……なるほど、確かにそうか。俺が言った貴族と王族の考え方と近いものがあるな……」

 レイグスは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
 馬車の中で、彼は王族がおかしな方向に舵を切ったら、それを止めるために動く覚悟をしていると言った。そのことと、彼等がしようとしていることが同じだと悟ったのだろう。
 結局、ビクトンはやり過ぎてしまったのだ。その報いを、魔術師達は与えようとしている。恐ろしいことだが、納得できないことではないだろう。

「……でも、あくまで、今は可能性にしか過ぎないよ。私の予測でしかないから、それが起こるかどうかはわからない」
「だが、起こった時にどうするかは考えておかなければならないだろう? もしそうなったら、俺達はどうするんだ?」
「それは……」

 レイグスに聞かれて、私は言葉を詰まらせてしまった。
 もしそうなった時、私はどうすればいいのだろうか。
 部下達に手を貸す。それも、考えられないことではない。そこまでするに至った決意は、私にもわからない訳ではないからだ。

 だが、その考えは否定しなければならないものである。
 どのような理由があっても、力に頼って、解決するのは間違ったことだろう。

「わからない……でも、止めるべきだとは思っている」
「止めるべきか……」

 私は、明確な答えが出せなかった。
 頭では止めるべきだとわかっている。だが、感情的に彼等の気持ちが理解できてしまうため、はっきりとした答えが出せないのだ。

「まあ、お前にも色々とあるよな……それは、俺にはわからないことだ」
「レイグス……」
「とにかく、俺達は王都に向かうしかない。どちらにしても、まずは現地に行かないとな……」
「……うん、そうだね」

 私とレイグスは、そこで話を切り上げた。 
 どのような結果になっても、私達は王都に向かうのだ。それが変わらないのだから、今はただ体を休めるべきなのだろう。
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