聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私とレイグスは、馬車で王都に向かっていた。
 王都は、国の中心くらいにある。私達の故郷であるベンドは、国の端にある町だ。つまり、それなりに時間がかかるのだ。

 故郷に戻る時は、とてもゆっくりとした旅路を送っていた。だが、今回はそうもいかない。なるべく早く王都に着きたいからだ。
 しかし、馬車というものは、そこまで長距離を素早く移動できるものではない。馬達にも限界があるので、どうしても時間はかかってしまうのである。

 だから、私達は途中にある小さな町で宿をとることにした。
 この町で、一夜を明かして、また再度出発するのだ。

「部屋が空いていない?」
「ええ、申し訳ありませんが、ただ今、一人部屋は満室でして……よくわかりませんが、お客様が多くてですね……」
「それは、困ったな……」

 宿屋について、私達は少し困っていた。
 なんでも、一人部屋が埋まってしまっているらしいのだ。
 宿屋の主人が驚くくらい、人が来ているらしい。理由はよくわからないが、旅人が多いようだ。

「二人部屋なら、一室だけ空いていますが……」
「いや、それはまずい。二人部屋でいいなら、最初からそう聞いているだろう?」
「まあ、それもそうですね……」

 しかし、二人部屋なら空いているらしい。
 それなら、そちらに泊ればいいのではないだろうか。レイグスは気を遣ってくれているが、私は別に構わない。

「レイグス、その部屋に泊めてもらおうよ」
「は?」
「別に、一緒の部屋くらいで、今更どうこう言うような関係ではないと思うんだ。多少は恥ずかしいけど、でも大丈夫だよね? レイグスのことは、信頼しているし……」
「……まあ、お前がそれでいいなら、いいか……」

 レイグスは、少し困惑していた。
 若干、嬉しそうに見えるのは、私の気のせいだろうか。
 できれば、今はそのようなことを意識しないで欲しい。私達は、これから王都に行って、色々とやらなければならないのだ。そこをはっきりと意識してもらわないと困る。
 はっきりと意識してもらわないと、私も意識してしまう。必死で頭を切り替えているのだから、レイグスも頑張って欲しい。

「それなら、すぐに二人部屋を手配します。鍵を持ってくるので、少々お待ちください」
「ああ……」

 宿屋の主人は、受付の奥の方にいった。
 そこで、私とレイグスの目が合う。私の視線に、彼は少し気まずそうにしている。

「いや……もちろん、何もするつもりはない。単純に、一緒の部屋で寝るだけだ。小さな頃と同じ。そういうことだろう?」
「子供の頃と同じだと思っているなら、それはそれで困るけど……」
「そう思わせてくれ」
「というか……まあ、もうそれでいいよ」

 レイグスの言う通り、小さな頃は二人で一緒の部屋で寝ていた。というか、一緒の布団で寝ていたのだ。
 今回も、それと同じ。彼は、そう思うようにしているらしい。

 なんというか、レイグスは少し趣旨がずれている。私が言いたいのは、今はそんなことを考えている場合ではないということだ。だが、今の彼にそれを言っても無駄な気がする。なんだか、少し浮かれているように見えるからだ。
 その浮かれ気分に、私も流されてしまいそうになる。だが、堪えなければならないのだ。今回は普通の旅行ではなく、王子に抗議するための旅である。もっと、真面目に考えなければならないだろう。
 そんなことを考えながら、私は宿屋の主人を待つのだった。
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