聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
14 / 34

14

しおりを挟む
 私とレイグスは、馬車で王都に向かっていた。
 御者さんもいるので、二人旅という訳ではないが、密閉された空間で二人という状況がしばらく続くことになる。
 今更、そのようなことを気にする関係ではない。昨日までは、そう思っていた。
 だが、久し振りだからか、私は少し緊張していた。私は、こういう時、レイグスとどういう会話をしていただろうか。

「……そういえば、レイグスは王都に行っても問題ないの?」
「なんだ? 今更、そういう質問をするのか?」
「だって、聞くタイミングもなかったし……」

 そこで、私はレイグスに聞きたいことを思いついた。
 彼は、ベンドの領主一家の長男である。そんなレイグスが、町を離れても大丈夫なのか。それは、よく考えてみれば気にするべきことだった。

「別に、問題はないさ。まだ家を継いだ訳でもないし、俺がいてもいなくても、それ程変わることはない。まあ、問題があっても、行く決意は変わらなかっただろうがな……」
「そうなの?」
「当り前だろう。お前を一人で王都に行かせようなんて、俺は思ったりしないぜ。これでも、お前のことは大切に思っているんだ。王子への抗議に一人で行かせて何かあったら、俺は絶対に後悔する。だから、一緒に行こうと思ったんだ」
「そうなんだ……」

 レイグスの言葉で、私は少し照れてしまう。
 大切に思っているなど、本人の前で口にするとは、彼も中々大胆である。
 それ程に、思われていることは、喜ぶべきことだろう。私の大切な幼馴染が、私を大切に思ってくれている。その事実だけで、私は参ってしまいそうだ。

「でも、王子に抗議なんて、レイグスの立場的には結構危ないことだよね? 貴族は、王族との結びつきが強いんでしょう?」
「まあ、そうだが、別に俺達も何も言わないで従っている訳ではないから、問題ないさ」
「そうなの?」
「俺達貴族だって、王族がおかなしな方向に舵を切ったなら、それを止めるために動く覚悟はしているさ。最も、そうやって動かれたくないと王族も思っているから、滅多なことはしない。だから、国というものはバランスが取れているのだろうぜ」
「そういうものなのかな……」

 レイグスの考えは、ある程度理解できるものだった。
 確かに、王族がおかしな政治をすれば、貴族達が団結して謀反を起こすかもしれない。そういうことを考えて、王族はバランスをとった政治をしなければならないのだろう。
 そういう関係性だから、今回王族に抗議することに何も問題はない。そういう考え方なのだろう。
 だが、それは理想の話のように思える。実際は、抗議してきた貴族に対していい印象は残らないのではないだろうか。そのように思えてしまう。

 しかし、そういうことは、私が考えるべきことではないのかもしれない。
 貴族には貴族のやり方があるのだ。聖女だったとはいえ、平民でしかない私が色々と考えるよりも、レイグス自身の考えを信頼していればいいだけだろう。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

王太子と姉に陥れられ、婚約破棄されて魔境に追放された公爵令嬢は、神獣に助けられスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

やり直し令嬢は何もしない

黒姫
恋愛
逆行転生した令嬢が何もしない事で自分と妹を死の運命から救う話

処理中です...