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 私とレイグスは、馬車で王都に向かっていた。
 御者さんもいるので、二人旅という訳ではないが、密閉された空間で二人という状況がしばらく続くことになる。
 今更、そのようなことを気にする関係ではない。昨日までは、そう思っていた。
 だが、久し振りだからか、私は少し緊張していた。私は、こういう時、レイグスとどういう会話をしていただろうか。

「……そういえば、レイグスは王都に行っても問題ないの?」
「なんだ? 今更、そういう質問をするのか?」
「だって、聞くタイミングもなかったし……」

 そこで、私はレイグスに聞きたいことを思いついた。
 彼は、ベンドの領主一家の長男である。そんなレイグスが、町を離れても大丈夫なのか。それは、よく考えてみれば気にするべきことだった。

「別に、問題はないさ。まだ家を継いだ訳でもないし、俺がいてもいなくても、それ程変わることはない。まあ、問題があっても、行く決意は変わらなかっただろうがな……」
「そうなの?」
「当り前だろう。お前を一人で王都に行かせようなんて、俺は思ったりしないぜ。これでも、お前のことは大切に思っているんだ。王子への抗議に一人で行かせて何かあったら、俺は絶対に後悔する。だから、一緒に行こうと思ったんだ」
「そうなんだ……」

 レイグスの言葉で、私は少し照れてしまう。
 大切に思っているなど、本人の前で口にするとは、彼も中々大胆である。
 それ程に、思われていることは、喜ぶべきことだろう。私の大切な幼馴染が、私を大切に思ってくれている。その事実だけで、私は参ってしまいそうだ。

「でも、王子に抗議なんて、レイグスの立場的には結構危ないことだよね? 貴族は、王族との結びつきが強いんでしょう?」
「まあ、そうだが、別に俺達も何も言わないで従っている訳ではないから、問題ないさ」
「そうなの?」
「俺達貴族だって、王族がおかなしな方向に舵を切ったなら、それを止めるために動く覚悟はしているさ。最も、そうやって動かれたくないと王族も思っているから、滅多なことはしない。だから、国というものはバランスが取れているのだろうぜ」
「そういうものなのかな……」

 レイグスの考えは、ある程度理解できるものだった。
 確かに、王族がおかしな政治をすれば、貴族達が団結して謀反を起こすかもしれない。そういうことを考えて、王族はバランスをとった政治をしなければならないのだろう。
 そういう関係性だから、今回王族に抗議することに何も問題はない。そういう考え方なのだろう。
 だが、それは理想の話のように思える。実際は、抗議してきた貴族に対していい印象は残らないのではないだろうか。そのように思えてしまう。

 しかし、そういうことは、私が考えるべきことではないのかもしれない。
 貴族には貴族のやり方があるのだ。聖女だったとはいえ、平民でしかない私が色々と考えるよりも、レイグス自身の考えを信頼していればいいだけだろう。
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