上 下
10 / 34

10(モブ視点)

しおりを挟む
 王都の王城では、日々様々な業務が行われている。
 そんな中で、最も激務であると言われているのが、聖女とその部下である魔術師達の部門だ。
 私は、その一員のカルリア・コルテッサである。聖女の下についている魔術師の中の有象無象の一人である私は、日々の苦しい業務に悲鳴をあげていた。

「カルリア、聞いたか? アルメア様が聖女をやめたらしい」
「そんな……」

 私がその話を聞いたのは、アルメア様が王城を既に去った後だった。
 愚かなる指導者である第三王子ビクトンの元で、私達がやって来られたのは、アルメア様のおかげだ。
 彼女が王子の無理な要求をなんとかまとめて、私達に的確に仕事を回していることで、聖女の体制は維持されていたのである。その彼女が、やめてしまった。それは、とてもまずいことである。

「王子と口論になった結果、そういう結論に達したらしい。色々と抗議していたみたいだが、きっと疲れてしまわれたのだろうな……」
「ええ、一番苦労していたのはあの方だもの。仕方ないことよね……」

 何も言わず立ち去って行った彼女を、私達は責めることができなかった。
 日々の激務に加えて、アルメア様はビクトンとの話し合いまでしていたのだ。そんな毎日を続けていれば、いつか限界が来ることは明白である。
 恐らく、彼女は疲れてしまったのだろう。それで、全てを投げ捨てたくなったのだ。
 そんな彼女に対する感情は、悲しみや心配だけである。ゆっくりと休んで欲しい。心からそう思えるのだ。

「後任の聖女は誰になるのかしら?」
「わからない。だが、聖女の才覚を持っている人は、まだいる。その中から選ばれるのではないだろうか」
「聖女の才覚……でも、それは……」
「ああ、普通の体制なら、何も問題はないだろう。だが、ビクトン様のことを考えると、あまり上手くいくとは思えないな……」

 次の聖女が誰であろうとも、上手くいくとは思えなかった。ビクトンという自分勝手な上司に、耐えられないはずだからだ。
 彼は、下の者のことなど何も考えていない。そんな彼が上に立っている限り、誰が聖女になっても何れ限界が来るはずだ。
 途中までは、アルメア様と同じように上手くいくかもしれない。だが、そうなっても、その聖女は彼女と同じように去ってしまうだろう。
 結局、その繰り返しになることは目に見えている。今のままでは、聖女の体制が破綻するのも時間の問題だろう。

「もしかしたら、俺達も引く時を考えておかなければならないかもしれないな……」
「引く時……」

 私達も、限界が来るかもしれない。
 その時のことは、常に考えておかなければならないだろう。
 自分が抜ければ、残った者が苦しむ。苦楽を共にしてきた者達に、そのような苦しみはできれば味合わせたくはない。
 しかし、それでも仕方ないことだと割り切るべきだ。そうしなければ、本当に壊れてしまうからである。
 そのようなことになる前に、ここから抜け出す選択をすることをしっかりと考えておこう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

婚約破棄された悪役令嬢が実は本物の聖女でした。

ゆうゆう
恋愛
貴様とは婚約破棄だ! 追放され馬車で国外れの修道院に送られるはずが…

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

聖女は寿命を削って王子を救ったのに、もう用なしと追い出されて幸せを掴む!

naturalsoft
恋愛
読者の方からの要望で、こんな小説が読みたいと言われて書きました。 サラッと読める短編小説です。 人々に癒しの奇跡を与える事のできる者を聖女と呼んだ。 しかし、聖女の力は諸刃の剣だった。 それは、自分の寿命を削って他者を癒す力だったのだ。 故に、聖女は力を使うのを拒み続けたが、国の王子が難病に掛かった事によって事態は急変するのだった。

処理中です...