聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私は、診療所から出てきていた。
 野次馬達は、いつの間にかいなくなっていた。無事に助かったと聞いて、安心して帰って行ったのだろう。

 それに、レイグスもいない。恐らく、彼は魔物に襲われたという現場に向かったのだろう。領主の息子として、これは見逃せない事件であるはずだ。その調査にすぐに出かけることは、とても自然なことである。

 彼も、自分がやるべきことをやっているのだろう。流石、私にそれを思い出させてくれた人である。
 とりあえず、私もレイグスと合流した方がいいだろう。色々と話したいことがあるし、私も現場の状況を知っておきたい。そのため、目的地は事件現場だろう。

「アルメア」
「え?」

 そんな私に、聞き覚えがある声が聞こえてきた。
 その方向を向くと、見知った二人が立っている。

「お父さん、お母さん……」
「やあ……」
「久し振りね、アルメア……」

 驚く私に、二人は微妙な顔で挨拶をしてきた。
 その様子から、私が戻ってきていること自体は知っているようだ。あれだけ派手なことをしたのだから、それは当然のことだろう。
 対する私は、二人のことをすっかりと忘れていたため、かなり驚いていた。すぐに現場に向かう前に、両親と話しておく。そういう考えが、頭から抜け落ちていたのだ。

「えっと……」
「ああ、大丈夫。事情は聞いているよ。色々と大変なことになっているみたいだね」
「私達のことは、あまり気にしないで。一度顔を見られて、かなり安心しているから……」
「う、うん……」

 私が色々と言おうとしたが、それは二人によって止められた。
 両親の目は、語っている。行っていいのだと。

「事情は、後で説明する……今日の夜には家に帰るから、それまで待っていて」
「ああ、もちろんだよ」
「腕によりをかけた料理で迎えてあげるわ」
「うん、ありがとう」

 私は、両親に甘えることにした。
 今、最も重要なことは、この町で起こった事件に対処することだ。二人との話は後でできるが、これは今しかできないことである。だから、そちらを優先させるのだ。
 その選択をさせてくれた両親には、とても感謝している。色々と理解してくれていて、本当にありがたい。

「それじゃあ、行ってくるね」
「ああ、いってらっしゃい」
「気をつけてね」

 両親に挨拶をしてから、私は駆け出した。
 久し振りの再会は、随分と呆気ないものになった。だが、それは仕方ないことだ。私には、やるべきことがある。再会を喜ぶのは、色々と終わってからだ。
 こうして、私は事件の現場に向かうのだった。
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