聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私は、故郷であるベンドへと帰って来ていた。
 ここは、サジェルド王国の端にある町だ。のどかな自然に囲まれたどこにでもある普通の町。それが、私の故郷なのである。

「ふう……」

 馬車から下りて、私は周りを見渡す。
 慣れ親しんだ町は、昔とほとんど変わっていない。その事実に、少しだけ嬉しくなっていた。
 長らく離れていたが、故郷に帰ってくると、とても穏やかな気持ちになれる。先日まであった過酷な業務のことも忘れられて、なんだかとても気分がいい。

「さてと……」

 念のため、私は顔を隠していた。
 聖女である私が、町に帰って来たとなると、とても大きな騒ぎになるだろう。だから、家に帰るまで、フードを被ることにしたのだ。
 そのおかげで、周りの人には私の正体がばれていない。このまま、実家に帰るとしよう。

「おい」
「え?」

 そんな私に、声をかけてくる者がいた。
 声が聞こえてきた方を向くと、その主が目に入って来る。
 私にとって、慣れ親しんだその人物は、物陰から手招きをしていた。私に、そちらに来るように示しているのだ。

「……うん」

 とりあえず、私はその人物のいる物陰まで行った。
 大方、私が姿を隠していることを察してくれたから、人目につかない場所に誘ったのだろう。

「……レイグス、久し振りだね」
「久し振りじゃないだろう。どうして、お前がこっちにいるんだ?」

 私の幼馴染であるレイグス・ディルビノは目を丸くして驚いていた。
 それは、当然の反応である。私が帰ってくることは、誰にも言っていない。聖女が交代することも正式に発表されていないので、私がここにいる意味は、彼にはわからないのである。

「実は、色々とあって、聖女をやめることになったんだ」
「聖女をやめる? なっ……! それは……また、大変なことになったな……」
「うん」

 他の人に聞こえないように、レイグスは声を潜めて驚いてくれた。
 やはり、聖女をやめたという事実は、とても驚くべきことであるようだ。
 ただ、私の話を聞けば、彼もそれに納得することだろう。あの苛烈な環境で、あの一言を言われれば、誰だってやめたくなるはずだ。

「レイグス、これから事情を話すから、しばらく聞いてもらえる?」
「あ、ああ……ここで話すのか?」
「うん、レイグスの疑問が解決した方が、私としても動きやすいし……」

 私は、レイグスに話をしておくことにした。
 彼は、このベンドという町を領地とする貴族の長男である。彼に話を通しておけば、大抵いいことが多い。少なくとも悪いことにはならないので、早めに全て話すことにしたのだ。
 こうして、私はレイグスに自分の身に起きたことを伝えるのだった。
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