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29.機を待って

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「しかし、驚きました。まさか殺人事件なんて……」
「ええ、私もクレンド様に聞いた時は驚きましたよ。ですが、これで忌まわしき迷宮入りした事件が一つ解決するのですから、喜ばしいことですよ」

 連れ去れた現場にいた警官は、クレンド様が連れて来た警官とそのような会話を交わしていた。
 その警官には、既にバンガルさんの事件のことは伝えてある。先程ペルリナの話も聞いていたし、これで事件を立証できるのは確実だ。

「クレンド様、本当にありがとうございます。お陰でなんとか、お父様を追い詰めることができそうです」
「いや、俺の助力など微力なものだ。君は自らの行動であの親子を助けて、道を切り開いている。ここまで来たのは君の力に他ならない」

 クレンド様は、私に対して称賛の言葉をかけてくれた。
 ただ元はと言えば、クレンド様と話さなければ行動をしようなんて思わなかった。そういう意味において、彼にはやはり感謝するべきだろう。

「心配なのは、ヴェリオン伯爵家の領地のことですけれど……」
「そちらについても、兄上とともに話は進めている。とはいえ、それは簡単という訳でもないな。やはり難しい問題ではある。エヴォート侯爵家が、どこまで介入できるかものか……」
「お父様は、クレンド様と私を婚約させるつもりです。そういった旨の連絡が、そろそろエヴォート侯爵家に行っているのではないでしょうか?」
「なるほど、それならこちらが介入しやすくなりそうだ。父上も反対はしないだろうしな」

 お父様の筋書きでは、ペルリナとロメリアは山賊に襲われて死んだと、なっているはずだ。
 その筋書きは、こちらでもしばらく利用させてもらうとしよう。その状況なら、私とクレンド様の婚約が実現する。その繋がりは、お父様が失脚した後に役に立つ。
 ヴェリオン伯爵家の領地は、エヴォート侯爵家のものとなる。これならクレンド様に恩返しもできるし、一石二鳥だ。

「ならば後は、機を待つだけということになるか……」
「ええ、まあ、情報が漏れるようなことはないと思います。シェリームさん達は信頼できる方々ですし、二人が生きていることは漏らさないでしょう。仮に漏れたとしても、守ってくれると思います」
「……君は、優しい人間だな。あの親子であっても、守ろうとしている」
「それは合理的な理由があるからですよ」
「いや、それだけではないさ……まあ、いい」

 クレンド様は、そこで笑顔を浮かべていた。
 少し不服であるが、私はすぐに言い返すことができなかった。自分が甘い人間であると、実感させられる。
 しかし私にはあの忌まわしきお父様の血が流れているのだから、甘いくらいで丁度いいのかもしれない。そう思って私は、苦笑いを浮かべるのだった。
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