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16.哀れな固執

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「珍しいですね、あなたがお父様の部屋を訪ねるなんて」

 お父様の部屋から出た私は、ロメリアに話しかけられた。
 丁度辺りを通りがかったのだろうか。彼女は、怪訝な顔をしてこちらを見つめている。
 ロメリアは私が何をしていたのか、聞き出そうとしているのかもしれない。彼女に知られると中々に厄介なことになるので、ここは適当に受け流すとしよう。

「……ええ、少し今後のことについて話したくてね」
「今後? ああ、そろそろこの伯爵家から出て行く訳ですか?」
「まあ、そんな所ね」

 ロメリアの言葉に、私はゆっくりと頷く。
 すると彼女は、口の端を歪めた。その醜悪な笑みは、とても人に見せられるものではない。可愛らしさだとかそういったものを捨てた笑みだ。

「やっと、決心ができましたか。まあ、このままここに残っても惨めなだけですから、それは当然といえば当然ですか。伯爵令嬢としての地位を失う。それはあなたにとって何よりの屈辱でしょうけれど……」
「それは……」

 ロメリアの言葉に、私は呆気に取られてしまった。
 勝ち誇ったような顔を彼女はしているが、はっきりと言って見当外れである。
 別に私は、伯爵令嬢としての地位などにこだわっている訳ではない。どうやらロメリアは、それを見誤っているようだ。

 思えば、初めて会った時からずっと彼女はそうだった。
 伯爵令嬢の地位、それに彼女の方はとても固執しているような気がする。

「精々あなたも、貧乏で貧しい生活で苦労してください。それでやっとわかるでしょうね。私の気持ちが……煮え湯を飲んだあの日々のことが!」

 ロメリアは、私に対して感情を露わにしてきた。
 この子はずっと、私に対して牙を向いてきている。それは恐らく、妾の子として生まれたからこそのものなのだろう。
 そう考えると、仮にロメリアがヴェリオン伯爵家の血を引いていなかったとしても、彼女自身はそれを知らないということになる。もしもそうなら、なんというか哀れだ。

「……まあ、あなたが何を思っているかは知らないけれど」
「はい?」
「私は私の道を行くだけよ」
「……負け惜しみ、ですか。ふふ、つくづく惨めな人ですね。なんだか笑えてきます」

 私の言葉に、ロメリアは笑みを浮かべていた。
 そもそもの話、これは勝ちだとか負けだとか、そういう話ではない。彼女はきっと、それを永遠に理解できないのだろう。
 だからこそ、私は彼女と分かり合うことができないのだ。その理由がわかった私は、ゆっくりとロメリアの横を通り過ぎて行くのだった。
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