上 下
10 / 18

10.目覚めた時には

しおりを挟む
「はあ……」
「ミレティア様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ」

 私は、使用人のリグオッドを部屋に呼び出していた。
 彼は、メルティアと私以上に接している。使用人としてではあるが、幼い頃から仕えており、同い年ということもあって親しい関係だ。
 そんな彼なら、今のメルティアについても色々と知っているかもしれない。そう思って、話を聞かせてもらうことにしたのだ。

「まあ、今日はアレイグが来ていたから、少し疲れているのかもしれないけれど……」
「ご自愛ください。お話ならいつでもできますし……」
「いえ、今日がいいのよ。思い立ったが吉日というじゃない。私は明日に、この憂いを持ち越したくないのよ」
「……わかりました。そういうことなら、お話ししましょう。それで、何から話しますか?」

 リグオッドの質問に、私は少し考えることになった。
 この際だから、目覚めた時のことを聞いてみた方がいいかもしれない。その時には確か、リグオッドも対処していたはずだ。

「メルティアが目覚めた時、あなたは確か近くにいたのよね?」
「あ、ええ、他の使用人達が騒いでいるのが聞こえてきて、何か問題があったのかと部屋に行ったら、メルティア様が目覚めていたのです」
「その時は、どんな感じだったのかしら?」
「目を丸めていましたね。何が起こったのか、わかっていない様子でした」
「あなたを見て、何か反応はしたの?」
「……首を傾げていましたね」

 リグオッドは、考えるような仕草を見せた。当時のことを、思い出しているのだろう。
 彼もその時は、動揺していたはずだ。細かいことは、覚えていないかもしれない。

「ああ、僕の名前を聞いた時は二度見していたと思います」
「二度見?」
「ええ、思い返してみると、当時から記憶の混乱が起こっていたということでしょうね。それで、僕は名前を呼ばれて、近くに行きました」
「それで、メルティアはなんと?」
「惜しい、みたいなことを言っていたはずです」
「はあ……」

 リグオッドの言葉に、私は間の抜けた返事をしてしまった。
 目覚めて馴染みの使用人の顔を見て、何故「惜しい」という言葉が出て来るのだろうか。
 その意味が、まったくわからない。いやもしかしたら、それも若者の間で流行っていることなのだろうか。

「それからは色々と忙しくなって、メルティア様とは話せませんでした」
「そう……」

 それからリグオッドから話を聞いたが、有益な情報は得られたとは言い難い。
 ただ、彼の口振りからメルティアとの距離感は私よりも近いような気がした。やはり性別が関係しているのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。

木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。 前世は日本という国に住む高校生だったのです。 現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。 いっそ、悪役として散ってみましょうか? 悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。 以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。 サクッと読んでいただける内容です。 マリア→マリアーナに変更しました。

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈 
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます

水無瀬流那
恋愛
 転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。  このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?  使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います! ※小説家になろうでも掲載しています

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

処理中です...